イスの日常3

 

 リーゼンの家にやってきたイスは、これでもかという程手厚い歓迎を受けた。


 リーゼンの屋敷で働く使用人達は皆、よく遊びに来るイスの事を我が子のように思っている節がある。


 五年以上経っても変わらないイスの姿に、皆癒されながらイスに挨拶をしていた。


 「お久しぶりです。イス様。今日はお一人で?」

 「そうなの。パパとママは居ないの」

 「そうですか。あの子煩悩のお二人の事ですから、てっきり着いてきているのかと思いましたよ」

 「パパもママも忙しいの。主に他の団員達が仲良くできるように色々と気を使ってるの」

 「........ジン様やカノン様が気を使うところなんて、私見た事がありませんね」

 「意外と団員には気を使うの。サリナも使用人達が喧嘩しないように見てるでしょ?それと同じなの」

 「なるほど。傭兵団という仕事も、楽では無さそうですね」


 イスに挨拶をしに来ていたサリナはそう言うと、世界最強の2人を思い浮かべる。


 サリナが見るにかなり自由人と狂信者であるが、ちゃんとやるべきことはやっているのだろう。


 そうでなければ、あの強者達が従わない。


 どう言った経緯で仲間になったのかは知らないが、少なくとも尊敬されるような背中を見せているとサリナは思った。


 「では、お菓子をお持ちします」

 「おー、サリナの持ってくるお菓子は美味しいの。期待してるの」


 サリナは1度ペコリと頭を下げると、そのまま部屋を出る。


 サリナの背中からは、Monsterがひょっこりと顔を出して手を振っていた。


 「相変わらずMonsterは可愛いの」

 「面白い子よね。私もかなり気に入っているわ。最近はよく姿を現して私とも遊んでくれるようになったのよ」

 「それは良かったの。それで、最近はどうなの?」


 三ヶ月ぶりに会うリーゼンだが、リーゼンはかなり成長している。


 学園での4年間と、卒業してからの一年で大きく成長していた。


 身長もかなり高くなっており、160を超えるほどにまでなっている。


 母親によく似て、可愛らしい少女から実に美しい女性へと変貌を遂げていた。


 今ならすれ違う人に急にプロポーズされたとしても不思議では無い。


 残念ながら、リーゼンの琴線に触れるような男は居なかったが。


 リーゼンはソファーの背もたれに寄りかかると、サリナが入れた紅茶を飲みながら話始める。


 「最近も順調よ。私のような若造がでかい顔をするのが気に食わない老害共の邪魔こそあれど、特に困ったことは無いわ」

 「それ、大丈夫なの?」

 「権力の話なら問題ないわよ?こう見えても、私はかなりの力を持ってるからね。ブラハムのお爺さんが亡くなったとしても、相手を叩き潰せるわ。ジン先生達のおかげで次の議長も決まってるしね」

 「ほー?そこら辺はよく分からないけど、リーゼンが問題なさそうなら良かったの。もし、誰か始末したい時は言って欲しいの。私が個別に受けてあげてもいいし、パパとママならきっと味方してくれるの」

 「それが最高の後ろ盾よね。お父様の後ろ盾よりも余っ程強力だわ」


 リーゼンは現在、五つ程店を経営している。


 学生時代に奪い取ったふたつの商会と、元々経営していた飲食店。更に、卒業してから新たに立てた建築関係の店と、新たに作った武器防具専門の店である。


 商会と飲食店の方はかなり順調であり、今となってはリーゼンの一言で地方の商会程度なら従わせられるほどにまで力を持っていた。


 国内で二番目に大きな商会だったベルン商会は、さらに大きくなって国内1番と肩を並べるほどになっている。


 たった四年で足踏みしていたはずのベルン商会は、国内1番の称号を手にしつつあったのだ。


 更に、西側に力を持っていたシエル商会も北側の地方へと進出し、かなりの勢力を誇るようになっている。


 リーゼンが直接現地に出向き、その直感に任せて仕事を割り振った幹部たちは想像以上の働きを見せているのだ。


 後10年もあれば、国内全ての商会をリーゼンが牛耳れるほどである。


 リーゼンはその能力と元々の優秀さを遺憾無く発揮し、瞬く間に全国に影響力を持つようになったのだ。


 「メレッタはどうなの?」

 「メレッタは、建築関係の仕事を任せてるわ。あの子、本当に建築以外の事はやりたく無いみたいだから、自由にやらせてるのよ。でも、凄いわよ。超低コストで質のいい物をたった1人で作り上げるから、貧困層からの仕事が絶えないのよ」

 「へぇ、幾らぐらいで作ってるの?」

 「なんと銀貨五枚よ?利益を考えてもこれだけで足りるとか、あの子は天才すぎるわ」

 「銀貨五枚?たったそれだけで作れるの?」

 「作れるわ。材料がそこら辺の土でできてるから、もうなんでもありよ。材料費だけで言えば、ほぼゼロだわ」

 「それは.......何も知らない人からしたらちょっと怖いの。まぁ、メレッタの事だから魔術を駆使してると思うけど」


 土でできた家。


 そう聞くと不安しか残らないのは仕方がない。


 しかし、メレッタが学生生活の間で見つけたとある魔術を使って、雨にも風にも強くコストが全くかからないレンガを開発したのだ。


 この開発にはイスも携わっている。


 イスの放つ極寒の暴風の中でもある程度は耐えられ、更にはイスが軽く殴っても壊れないとなれば建築材料としては問題ないだろう。


 しかも、好きな大きさでレンガを作れてしまうので、接着をするために使う特殊な接着剤の節約にもなるのだ。


 尚、子の特殊な接着剤もメレッタが開発したものである。


 素材はなんとそこら辺の草。


 とても心配になる素材だが、耐久実験ではとんでもない程の耐久力を誇っていることが証明されている。


 建築に関してはガチの天才であるメレッタは、建築業界に革命を起こす程の功績を残しているのだが、本人はそんな自覚が全くなかった。


 「信頼を得るのは苦労したけどね。1度依頼を受けてからはかなりの仕事が入るようになったわ。たった銀貨五枚で家が建てられるなんて、夢のような事に食いつかないわけが無いからね」

 「メレッタ、建築の事になると凄く真面目になるから、手抜き工事とかしないだろうし安心なの」

 「問題は、メレッタ以外の人が作ろうとするとコストが掛かるのよね。この値段はメレッタの能力ありきだし」

 「メレッタの念力があるからこそ、1人で家を建てられるの。後は、普通にセンスがあるの」

 「センスは重要よね。私には無理だわ」


 肩を竦めるリーゼン。


 メレッタの建築オタクっぷりは相変わらずかと、イスは思いながら紅茶を啜るのだった。

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