決勝戦メレッタ

 メレッタが決勝進出を決めた後、2年生と3年生の学年別大会の準決勝が行われた。


 メレッタの様に圧勝するのではなく、彼らは接戦を演じていたこともあり会場は大盛り上がり。


 特に三年生の準決勝第2回戦は、最後の最後まで勝敗が分からないほど実力が拮抗しており、見応え抜群だった。


 素人目にも分かる派手な戦いというのは、世界最強の名を持つ俺達が見ても楽しい。


 実用的かどうかはともかく、派手さとロマンを感じられれば結局は楽しいものなのだ。


『さて、お待たせしました!!次は一年生大会の決勝!!いやー楽しみですね!!』

『そうだな。メレッタ選手は圧倒的な実力で相手をねじ伏せていたし、ゼル選手も負けず劣らずの実力を持っている。決勝に相応しい戦いが見られると思うぞ』


 実況解説席もかなり温まってきたようで、声から決勝へのワクワク感が伝わってくる。


 ただし、解説はどちらが勝つか分かっているような雰囲気だった。


 流石にこの場でメレッタが勝つとは言えないので、両者互角の様に言ってはいるが。


 「メレッタの勝ちで終わるだろうな」

 「だろうねぇ。対戦相手も強いには強いけど、メレッタと比べると二段ぐらい格が落ちるし」

 「倍率は似たようなもんか。メレッタに賭けてはあるけど、エレノラ達が最初に記録した倍率と比べると低すぎるな」

 「アレと比べるのは違うでしょ。67倍だよ?競馬でもあまり聞かなさそうな倍率なんだから........競馬、やったことないけど」


 やったことが無いと言うか、やれるような年齢じゃなかったからな。


 こっちの世界に来てから日も長く、もう俺達は20代になっているが、前の世界にいた頃は16そこそこの高校生だったのだ。


 規制が緩かった昔ならばともかく、規制の厳しい現代で高校生が競馬で賭けをするには無理がある。


 もしかしたら、できたかもしれないが。


 そんなことを話していると、闘技場にメレッタと対戦相手であるゼルが姿を現す。


 それに続いて、実況が2人の紹介を始めた。


『その鉄柱は意志を持つ第二の腕!!圧倒的な実力で準決勝を勝ち上がったが、決勝でもその実力は発揮されるのか?!一年普通科メレッタ!!』


 紹介に合わせて、メレッタはイスとリーゼンお嬢様が居るであろう席に向かって手を振る。


 イス達は俺達と別の席で試合を見ているので、メレッタがこちらを向くことは無かった。


『対するは華麗な剣技を携え、蝶のように舞い蜂のように刺す!!決勝の舞台でも華麗に舞う姿を見られるのか?!一年応用科ゼル!!』


 腰に剣をぶら下げ、静かに心を整える対戦相手の男の子。


 確かにその剣技は華麗で美しかったが、剣聖の剣技を知っている俺からすればどうしてもチャンバラにしか見えなかった。


 いやまぁ、剣聖並の剣技を持ってたらメレッタに勝ち目などないのだが。


 「楽しみだねぇ。頑張れメレッタ」

 「頑張れメレッタ。勝ったら、イスとリーゼンお嬢様が自分の事のように喜んでくれるぞ」


 俺達もメレッタを応援し、試合が始まるのを待つ。


 メレッタを見るに、最初から本気で行くのだろう。


 様子見無しのフルスロットルだ。


 学園長は手を振り上げ、その手を下ろす。


 試合開始だ。


 両者が同時に動き始めるが、メレッタは先程とは違いゼルから距離をとって鉄柱で牽制する。


 剣士には距離をとって対応。定石通りの動きである。


『おっと、メレッタ選手、距離をとって鉄柱で牽制しています。先程とは違った動きですね』

『魔導師には距離を詰め、剣士相手には距離をとる。幅広い戦術を扱える点は、あの鉄柱を操る事のメリットだな。しかも、かなりの威力だ。対応しているゼル選手も素晴らしいが、少々辛そうな顔をしている』


 的確に解説をする解説席。


 あの鉄柱は中までたっぷりと鉄が敷き詰められているので、重さはかなりのものとなる。


 メレッタが背中に担いで平気そうにしているから軽そうに見えるが、大の大人でも一つ持ち上げれれば十分な重さをしているのだ。


 そんな鉄柱が加減もなしに襲いかかってくるとなれば、対戦相手であるゼルも死ぬ気で受け止めるしかない。


 避けることももちろんできるが、メレッタは巧みに鉄柱を操ってどうやっても避けれない攻撃を繰り出していた。


 「嫌らしい場所に攻撃をするな。ガードする以外の選択肢が無い」

 「エレノラみたいな戦い方をするね。相手を強引に動かして、隙を着く。エレノラの方が容赦無いけど」

 「補習科の皆なら、一撃くらっても耐えられるから強引に突破できるんだけどな。ゼルには難しそうだ」

 「耐久力だけで言えばフレヤの方がありそうだったね。何発か食らっても気合いで耐えてたし」

 「本人なりに鍛えた成果だな。もっと効率的なやり方を教えてあげれば化けるかもしれん」


 俺と花音はそんなことを話している間にも、鉄柱の攻撃は徐々に早くなっていく。


 激しくなる攻撃にゼルは何とか対応こそするが、反撃の機会が全くと言っていいほど訪れなかった。


 完全に一方的なリンチだ。


『鉄柱の猛攻!!ゼル選手が手も足も出ません!!』

『あの鉄柱、とんでもない威力をしているな。見てみろ。石でできた会場に穴ができてるぞ』

『本当ですね。あんなもの食らったら私なら即死してしまいそうです』

『鍛えていない人間ならば死んでもおかしくない。あの攻撃に耐えられている時点で、フレヤ選手やゼル選手はかなりの実力者だ』


 解説は既に勝敗が決したと察し、対戦相手のフォローに回る。


 ここまで一方的な戦い方をされると、観客からもブーイングが飛んでくるかもしれないと思ったのだろう。


 両者を立てつつ公平な解説。この解説席の人、かなり気遣いできるイケメンだな。


 そうしている間にも、メレッタの攻撃は激しさを増し、遂にゼルが対応しきれなくなった。


 何度か攻撃は既に食らってはいたが、まだ立て直せる程度。しかし、今回ばかりは綺麗な一撃が決まってしまう。


 脇腹に一撃、これで肋が数本折れた。


 体制が崩れたところで背中に一撃、これには反応こそしていたが、対応はできていない。


 仰け反った腹に一撃。体がくの字に曲がり、体が中に浮く。


 再び背中に一撃。地面に思いっきり叩きつけられ、石の闘技場にヒビが入る。


 そして、トドメの一撃。


 学園長の能力が発動していなければ、ゼルは間違いなく死んでいただろう。


 思わず目を背けてしまいそうな追撃によって、ゼルは立つことすらできなくなった。


『決まったぁぁぁぁ!!メレッタ選手の攻撃が、ゼル選手を捉える!!これは勝負あったか?!』

『決まりだな。あれを受けては動けない』


 学園長は慌ててゼルの元に駆け寄り、倒れるゼルを抱き起こす。


 ゼルが気絶しているのを確認した後、学園長はメレッタの方に手を挙げて勝利を告げた。


 湧き上がる会場。今日、1番目の優勝者が決まった瞬間である。


 「メレッタの優勝か。お祝いは何がいいかな?」

 「んー........白金貨とか?」

 「流石にそれはないだろ」


 俺達は優勝したメレッタに拍手を送りつつ、祝いの品は何がいいのかを考えるのだった。

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