一年大会準決勝メレッタ②

 学園長が試合開始の合図をすると同時に両者が動き始める。


 メレッタは対魔導士の基本である距離を詰める行動を取り、フレヤは対近接戦闘における基本である距離を取ろうと後ろへ下がった。


 「メレッタの方が速いな。魔導士って身体を鍛えることはあまりしないから、こういうところで顕著に差が出る」

 「それでもかなり鍛えてる方だとは思うけどねぇ。こればかりはメレッタの方に分があるかな」


 元々近接戦闘を主体として戦うメレッタと、距離をとって魔法で一方的に嬲る戦い方をするフレヤでは身体能力に大きな差が出る。


 フレヤも鍛えているようではあったが、メレッタには遠く及ばない。


 フレヤはメレッタに接近を許してはならないと、無詠唱で魔法を放つ。


 魔力が練り上げられておらず一撃が軽いが、牽制としては十分な威力だ。


『おおっと!!ここでフレヤ選手、魔法を放つ!!無詠唱ですね』

『魔法の無詠唱はかなり難しい。この年で無詠唱を使えるとは将来有望だな』


 2人の動きに合わせ、実況解説も上手く戦況を観客たちに伝えていく。


 あの二人もそれなりに戦闘における知識はありそうだな。なければそもそも実況解説なんてできないし。


 フレヤから放たれた魔法は的確にメレッタを狙うが、メレッタはこれを自身の異能である“念動力サイコキネシス”によって操られた鉄柱でガードすると、勢いを落とすことなくフレヤに肉薄した。


 「便利な異能だよな。使い方によっては、相手を紐無しバンジーさせることもできそうだ」

 「建築に戻る役立ちそうな能力だよねぇ。出力の割に消費魔力が少ないから、なにか制限はありそうだけど」


 花音の言う通り、メレッタの身長以上にある鉄柱を振り回すには少々魔力消費が少ない気がする。


 学園長の異能の様に、何かしらの制限があるとみて良さそうだ。


 生き物を操る事は不可能だとして、他にも幾つかの制限があるのだろう。でなければ、無数の剣を念動力で操って剣の雨をふらせたり、避けきれない程大きな鉄の塊を降らせるなんて事をするだろう。


 フレヤに肉薄したメレッタは、その拳を何度もフレヤに叩きつけながらも器用に鉄柱を操って攻撃を繰り出す。


 擬似的な三人による攻撃は、フレヤにとって厄介極まりなかった。


『物凄い猛攻!!メレッタ選手は相手を殴りつけながらも、鉄柱を操っていますよ!!』

『恐らく異能によって操っているな。かなりの練度だ』

『ですが、この猛攻をフレヤ選手も耐えている!!1戦目から凄い激闘ですよ!!』

『メレッタ選手の攻撃が辞めば、攻撃のチャンスが回ってくる。そこまで何とか耐えられればいいが........』


 無理だろうな。


 そう言葉を紡ごうとして、解説は口をとざす。


 どうやらあの解説には、既に勝負が決まっているように見えるらしい。


 実際、既に勝負は決まっている。


 イスとリーゼンお嬢様に鍛えられたメレッタのスタミナが、その程度の動きで尽きることは無い。


 それこそ、丸1日戦い続けなければメレッタは息切れしないだろう。


 イス曰く、体力に関してはメレッタは天賦の才があるらしいし。


 何とか攻撃を耐え続けるフレヤだが、徐々にその対応が遅れてくる。


 正面から猛攻を仕掛けるメレッタと、隙を見て襲ってくる鉄柱。


 手加減をしなくともいいということもあって、その一撃一撃は骨に染みる重さだった。


 それでも、身体強化に全ての魔力を回し、できる限り杖で攻撃を受けきっていたのは流石本戦出場者と言えるだろう。


 残念ながら、反撃に回せるだけの魔力と余裕が無かったが。


 「あ、入る」


 僅かにくずれた体勢、この状況では腹へのガードが間に合わない。


 メレッタはその隙を逃すことなく、フレヤの腹にアッパーを叩き込んだ。


 フレヤの体がくの字に曲がり、足が中に浮く。


 角度的にはっきりとは分からないが、恐らくきっちり鳩尾に拳を叩き込んでいるはずだ。


 呼吸ができなくなるんだよな。鳩尾に攻撃されると。


 体が中に浮き、完全な隙を晒したフレヤにメレッタは追撃を加える。


 操作した鉄柱がフレヤの後頭部に突き刺さり、さらに下がった顔面をメレッタは蹴り上げる。


 そこから、もう1つの鉄柱が再び腹に攻撃を仕掛け、観客席の壁に向かってフレヤは背中から激突した。


 一連の流れに要した時間は1秒弱。


 メレッタは、相手の体制が崩れるまで本気を出して居なかったのだろう。本気を出していたら、もっと早く試合が終わっていたはずだ。


 「圧勝だな。様子見で殴ってたら隙ができたから、本気を出したって感じか」

 「お腹に一発入ってから明らかに動きが違ったねぇ。本戦だから様子見してたって感じかな?一年の優勝者は決まったね」


 壁に激突し、意識わ完全に失うフレヤ。


 しかし、死んでいてもおかしくない攻撃を食らったにしては、傷は浅かった。


 よく見れば魔法陣が発動し、フレヤの傷を癒している。


 これが学園長の能力か。ある一定のラインまでダメージを受けると、それ以上のダメージをカットして回復する能力。


 俺が見てきた異能の中でもかなり強い部類に入る異能だな。あのクソ面倒な魔法陣を書く制約がなければ、もっと使い道があっただろうに。


『おぉー!!一瞬の攻防!!正直何が起きたか分かりませんでしたが、気づいた時にはフレヤ選手が壁に激突していた!!』

『凄いな。メレッタ選手は、フレヤ選手の腹を殴った直後素早く鉄柱で追撃を加え、頭を蹴り上げて再び腹に鉄柱を突き刺した。あまりに早すぎて何が起こったのか分からない者も多く居るぞ』

『えぇ、私は分かりませんでした。というか、良く見えましたね』

『一応解説役だからな。目はいいんだよ。目は』


 実況解説のおかげで、何が起きたのか理解をした観客達は大盛り上がり。


 派手に勝負を決めたということもあって、メレッタには大きな拍手と歓声が沸く。


 学園長もメレッタの勝利を告げ、メレッタが大きく手を振ると更に歓声が湧き上がった。


 「人気者だな。まるで武道館でライブをするアイドルみたいな熱気だ」

 「実際、アイドルみたいな存在でしょ。メレッタ、かなり可愛いしファンクラブとかできても不思議じゃないよ」

 「ユニコーンとかガチ恋勢が湧きそう」

 「死ぬ程迷惑だろうねぇ........それ。メレッタは大会に出てるだけで、Vとかじゃないのに」

 「家凸とかするのか?」

 「やるやつは出てきそう。あぁ言う連中は自分のことしか考えてないからね」


 もし、そんな厄介オタクが現れた日にはキッチリと制裁を加えるとしよう。


 節度を守るならともかく、無秩序なオタクはゴキブリと大差ないからな。


 俺はそんなことを思いながら、メレッタに拍手を送るのだった。

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