一年大会準決勝メレッタ①

 本戦が行われる会場は、数え切れない程の人でごった返していた。


 数万人規模の観客は、本戦が始まるのを今か今かと待ち望んでいる。


 俺達も学園関係者席に座り、試合が始まるのを待っていた。


 「最初に出てくるのはメレッタか。学年別の試合は準決勝からだから、これに勝てば決勝戦だな」

 「イスとリーゼンが教えてたから、凄く強くなってるよね。最初見た時はそこまでだったのに」

 「下手したら俺達より教え方が上手いからな。異能の使い方も上手だし、優勝できるだけのポテンシャルはある」

 「あの二つのバカでかい鉄柱を使っての戦いだよね。自分の腕のように使うには、かなりの練度が必要だと思うけど........」

 「それを何とかしたんだろうな。本人の努力がどれだけのものかよく分かる」


 少し特殊な戦い方をするメレッタは、相当な努力をしてきたのだろう。


 教える人が優秀だからといって、教えられる側が努力しなければ実力は着いてこない。


 メレッタに関しては、俺達はノータッチなのでイスとリーゼンお嬢様がかなり面倒を見てあげたのだろう。


 「それにしても、大きな魔法陣だねぇ。これが学園長の異能だっけ?」

 「調べた感じな。“羊の執行猶予”それが学園長の異能だ。使い勝手はかなり悪いが、発動さえ出来ればかなり強力な異能らしい。効果は魔法陣内の生き物全てを生かす能力なんだとか。たとえ相手が死ぬような攻撃を食らっても、死なないようにしてくれる上に回復までしてくれる........らしい。この能力のおかげで、本戦は相手を殺してしまうことを考えなくていいそうだ」


 戦いの舞台となる闘技場には、とても大きな魔法陣が描かれている。


 これは学園長の異能を発動するのに必要不可欠なものであり、これがある事で生徒達は相手の死を考えずに戦うことが出来るそうだ。


 実際に見た訳では無いのでどのような感じの能力かは分からないが、調べた感じではかなり便利そうな能力である。


 魔法陣を書くと言う部分さえ何とか出来れば、実践でも使えそうな能力だ。


 「今日の試合に全部能力を発動させるとなると、学園長は大変そうだねぇ。消費魔力にもよるけど、聞いた感じの効果だとかなり魔力消費が激しそうだし」

 「だな。学園長の顔が大会に近づくにつれて曇っていたのも分かる気がするよ。審判も学園長がやるみたいだし、学園長からすれば相当な重労働になる」


 そんなことを話していると、会場全体に響き渡る声が鳴り響く。


 恐らく、拡声器の魔道具を使っているのだろう。


『お待たせしました!!今より、武道大会本戦を始めたいと思います!!実況は毎年おなじみ、エルデンでお送りしまーす!!皆さん!!今日の武道大会を楽しんでいって下さい!!そして!!』

『解説のビリーだ。今年は随分と面白そうなことになってるな。楽しみだ』

『という訳で、この二名でお送りする武道大会本戦!!早速、学年別一年生の試合から行きましょう!!』


 テレビの実況解説の様なノリに、会場が沸き上がる。


 確かにこういうのがあった方が楽しいわな。上手く盛り上げてくれるだろうし、素人目では分からないことを解説してくれるのはありがたいだろう。


 なんと言うか、前の世界を少し思い出すな。


 サッカーとか野球とか、こんな感じの実況をしてた気がする。


 ここまでテンションが高くは無かったが。


 俺がそんなことを思っている間も、実況のエルデンは場を進めていく。


 この後わんさかと試合が入っているので、なるべく早く進めたいのだろう。


『学年別一年生、準決勝第一試合!!武道大会本戦の最初を飾るのはこの2人だ!!』


 エルデンの声と共に闘技場に入ってきたメレッタと対戦相手。


 メレッタの背中に担いだ大きな鉄柱をみて、観客達はどよめく。


 昨日の試合を見ていた観客はともかく、見ていない人からすれば“なんだあれ”状態だからな。


 気持ちは分かる。普通ならば、剣や槍を持ってくる場で鉄柱を担いで出てくるのはインパクトが強かった。


『その焔は天をも焦がす灼熱の業火!!予選では相手を燃やしては灰に帰したその炎は、今日も誰かを焦がすのか?!一年応用科フレヤ!!』


 実況の人、昨日の間に登場時の紹介を考えたんだろうか。


 そう思わざるを得ない程の完成度の高い紹介が、会場内に響き渡る。


 「紹介がかっけぇんだけど」

 「補習の皆も同じように紹介されると思うとワクワクするね。“絶望の出世壊しディストピア”って紹介されたりするのかな?」

 「........エレノラが嫌そうな顔をしそうだな」


 結構カッコイイ二つ名だと思うのだが、エレノラはあまり気に入ってないんだよな。


 ブデやビビットはかなり気に入ってるのに。


 やはり変人の感性は他の人と少しズレているのでは?と思いつつメレッタへの紹介を聞く。


 あの実況はどのような紹介をするのだろうか。


『対するは、鉄柱を担ぐこの女の子!!明らかに異質なその武器は、相手の攻撃を受け止め相手の脳天をかち割る万能武器!!ただの鉄柱と侮るなかれ!!その一撃の重さは骨をも砕く!!一年の中では唯一の普通科から出場!!一年普通科メレッタ!!』


 ワッと湧き上がる観客。これだけテンションの上がる紹介をされれば、観客達も楽しいだろう。


 事実、俺達もかなり楽しい。


 こっちの世界に来てからこういうイベントはなかったというのもあるが、それ以上に実況の盛り上げ方が上手かった。


 「実況もいい紹介をするな。すげぇ楽しいぞ」

 「これから生徒が出てくる度にこの紹介が聞けると思うと楽しみだね。しかも、勝ち進めば紹介の仕方が変わってくると思うし」

 「あの人、これで食ってんじゃないのかってぐらい上手いな」

 「そうだねぇ。この世界に“実況者”って言う職業なんてあるのかな?」


 あるのだろうか?........無さそうだな。


 これだけで食っていけるほど実況と言う場がある訳でもないし、イベントがある事に移動することも考えればかなりの金が飛んでいく。


 この世界で実況者とし生きていくには、あまりにも環境が厳しすぎた。


 「あの人も本業じゃないってことだな。だとしたら天才か?素人なのにあんなに上手いのか」

 「確かに。前の世界に生まれてたら、天下を取れてたかもしれないねぇ」


 こちらの世界ではあまり役に立たない才能を持ってしまったエルデンさんを少し可哀想と思いつつも、こうして楽しめるのは彼のおかげだと感謝しつつ、俺達はメレッタ対フレヤの試合が始まるのを待つ。


 ここからでは聞こえないが、恐らく学園長がルール確認しているのだろう。


 メレッタもフレヤも1度大きく頷くと、距離をとって武器を構えた。


 「それでは、試合開始!!」


 学園長の声が響くと同時に、武道大会本戦が幕を開けるのだった。

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