バレてら
昨日会場となっていた補習科の運動場には、補習科の生徒達が集まっていた。
昨日は彼らが大躍進したこともあり、後輩の補習科生徒達も四年生に群がって話を聞いている。
去年まで笑顔が少なかった彼らが、心の底から笑えている姿をもう少し見ていたいという気持ちに駆られるが、もうすぐ本戦が始まってしまうのでそういう訳にも行かなかった。
俺達が運動場に顔を出すと、生徒達は私語を辞めてきっちり整列をする。
こういうところでしっかりと切り替えができる彼らは、自分の強さに酔いしれている応用科の生徒達(1部の生徒)とは違う。
俺達が特に指導した訳でもないのに、教師が現れたらピシッとする。
昔の俺とは大違いだ。
「おはよう」
「おはよー」
「おはようございます」
「おはー」
「「「「「「「「おはようございます」」」」」」」」
俺達が適当に挨拶をすると、生徒達は頭を下げてキッチリと挨拶を返す。
もう少しフランクでもいいんだけどなと思いつつ、フランクになるとそれはそれで面倒かと思い直しサラサ先生が来るのを待つ。
もちろん、その間は生徒達の自由時間なので“ゆっくりしてていいぞ”と声をかけておく。
俺も、四年生の生徒達に話しかけた。
「調子はどうだ?」
「問題ないです。昨日の疲れなんてほぼ無いですし、万全ですね。今なら先生にも一撃与えられそうです」
「........試してみるか?」
「遠慮しておきます。先生の場合、えげつない反撃が来そうなので」
普段通りの口調で話すエレノラは、そう言いながら掌で爆弾を弄ぶ。
鉄砲玉レベルのサイズの爆弾だが、これ一つで魔物を殺せるだけの威力があるのだと俺は知っている。
そして、今日から爆弾を解禁されたエレノラは目に見えてウキウキしてきた。
「楽しそうだな」
「昨日は爆弾を使えませんでしたからね。今日は昨日の分を取り戻す勢いで爆弾を使ってやりますよ。補習科の皆に対応した新作の爆弾もありますし、抜かりはありません」
「そんなもの作ったのか........ちなみに殺傷能力は低いよな?」
エレノラが対策として持ってきた爆弾に軽く不安を覚える俺。
この子、加減を知らないから“相手を殺せばそれでいいよね!!”なんて考えをしていそうで怖い。
俺の心配を察したのか、エレノラは“心外な”という顔をしながら頷く。
「もちろんです。友人を殺すような爆弾は持ち込みませんよ。ブデに関してはちょっと怪しいですが........まぁ、ブデなら余裕で耐えれるでしょ」
「いや、そこは自信を持って大丈夫だと言ってくれ。本戦で人が死ぬことは無いだろうが、それでも心配だぞ」
「大丈夫ですってば。むしろ、爆発の余波で観客に怪我人が出ないかどうかの方が心配ですよ」
うん。それはそれで心配だわ。
一体どれだけの威力を持った爆弾を使うつもりなんだこの子は。
俺は最悪観客を守る必要があるという事に溜息を吐きつつも、エレノラが爆弾を使用することに関して止めることは無い。
流石に爆弾を使わないと他の生徒に勝てないというのもあるが、ここで爆弾の使用を禁止したら俺が爆破されてしまいそうだ。
流石の俺でも、夜中とかにテロを起こされたらたまったものでは無い。
一応、子供達を観客席に仕込んでおくか........
エレノラの発言に不安を覚えつつも、影に潜む子供達に指示を出しているとサラサ先生がやってくる。
ただ、その顔はとても辛そうで今にも吐き出してしまいそうだった。
「ゔー、おはようございます........」
「おはようございます、サラサ先生。声が凄いことになってるんだけど大丈夫?」
「あまり大丈夫じゃないです........気持ち悪いし喉も痛い........オェッ」
うん。二日酔いにプラスして昨日の応援で喉が潰れてますね。
補習科の生徒達が本戦出場を決めたことが嬉しすぎて、サラサ先生は昨日の夜遅くまで酒をバカスカ飲んでは騒いでいた。
あまりに酒の飲むペースが速かったので途中で俺達が止めたのだが、それでも手遅れだったようだ。
普段酒を飲まない人が、調子に乗って酒を飲むとこうなるんだよな。
大体何があったのかを察した四年生達は、全員苦笑いをしながらサラサ先生を心配する。
みんなも酒を飲む時は気をつけようね。こんな風になるから。
「その状態で応援に行くのか?」
「いぐ。皆の晴れ舞台なんだから、死んでも見るよ」
「いや、死なれたら困るから」
フラフラになりながらも、何とか応援しようとするサラサ先生。
このままでは、生徒達が試合に集中できないのでココは大天使様に回復を頼むとしよう。
「ラファ、頼めるか?」
「はいはーい。団長さんに言われなくとも」
ラファはサラサ先生の手を握ると、回復の異能を発動する。
例え相手が死んでいようとも、それすらも回復させる世界の理から逸脱した回復がサラサ先生を癒した。
サラサ先生の顔色はみるみるうちに回復していき、最終的には普段通りのサラサ先生に戻る。
国家権力者が喉から手が出るほど欲しがるこの異能を、二日酔いと喉を治すめだけに使うとは贅沢なものだ。
この異能があるだけで、とんでもないほどの金を稼げるだろうに。
「おぉ、凄い。元に戻った」
「お酒の飲みすぎはダメだよサラサ先生。今日は控えることだね」
「そうするよ。ありがとう」
顔色が良くなり、普段通りに戻ったサラサ先生はラファの異能に驚きつつも頭を下げて礼を言う。
ラファもサラサ先生には色々と世話になっているので、軽く注意するだけにしておいた様だ。
「サラサ先生、私達が帰ったあとも飲んでたんですね。割とめんどくさい絡みをしたの覚えてるんでしょうか?」
「多分覚えてないぞ。酔っぱらいの記憶力を舐めたらダメだ。エレノラも気をつけろよ」
「まず酒を飲みませんよ。飲むぐらいなら、爆破するための材料にしますし」
「........あぁ、そう」
酒すらも爆弾の材料として見るのかよ。
俺は相変わらず過ぎるエレノラに軽く引きつつ、生徒達を連れて本会場へと向かう。
既に本戦出場者はクジを引いており、エレノラ達も対戦相手が決まっている。
しかし、メインイベントとなる四年生たちの出番は午後からで、午前中に学年別の本戦が行われる手筈となっていた。
もちろん、補習科の生徒たちは子供達の頑張によりなるべく当たらないようになっていて、最初に補習科同士で戦うのは準々決勝となっている。
順調に勝ち進めば、ブデとビビットが当たることになるだろう。
「そういえば先生。昨日のクジ引きで細工をしましたね?」
「ん?」
「私、一番最初にくじを引いたのですが、明らかに数がおかしかったんですよ。箱の中にくじを入れられているので予想でしかないんですが........なにかしましたよね?」
「さぁ?なんの事かわからんな?」
「........そうですか。先生がそう言うなら、そういうことにしておきます」
どうやらエレノラには細工をしていたのがバレていたようだった。
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