武道大会本戦
愚か者達の始末を終えた翌日。遂にメインイベントとなる武道大会本戦の日がやってきた。
昨日の夜中に行われた断罪だったが、夜遅くに行われた事と武道大会と重なったこともあって噂をする人は少ない。
武道大会でボコボコにすると言う目的があったからこの日に断罪することになったが、そのお陰で大した騒ぎにならなかったのは予想外だった。
あの馬鹿どもは今頃、牢屋の中で仲良くしているだろう。
ざまぁないぜ。
少し可哀想だと思うのは、馬鹿すぎる息子を持ったベルンぐらいだ。
彼は情状酌量の余地があるので、おそらく緩めの罰が与えられるだろう。1番の罰は目の前で息子が処刑させる事かもしれない。
最後の最後まで息子を庇ってたからな。親としての愛は本物だったのだろう。
その愛を受け取ってもなお、頭の中が可哀想なぐらい馬鹿だった息子はある意味尊敬できる。
教育が足らないとどうなるか。いい例を見せてもらったな。
ベルン商会とシエル商会は今後、リーゼンお嬢様の元で経営されていくことが決定している。
文句を言うやつももちろん大勢居るだろうが、世界最強の傭兵とこの国1番の最高権力者が“やんのか?”と睨みつければ黙るしかない。
武力でどうこうしようとすれば俺達が出張ってきて叩きのめされるし、権力を使おうにもあのジジィ以上に権力を待った人間は居ない。
金で何とかしようとも、リーゼンお嬢様はアホみたいに金を持っている。
武力、権力、財力、全ての力を手に入れたリーゼンお嬢様とやり合うなんて、自殺行為に等しかった。
と言うか、リーゼンお嬢様最強か?どうやっても勝ち目がないじゃないか。
別に俺達が居なくとも、リーゼンお嬢様はかなり強い。
メイドのサリナもこの世界の基準で言えばかなり強いし、リーゼンの家で働く使用人たちも必要最低限の強さは兼ね備えている。
俺達が居ない隙を狙ったとしても、容易く返り討ちにされてぼろ雑巾の様に転がされるだろう。
もしかしたら、この国1番の力を持っているのはリーゼンお嬢様かもしれない。
「今日はさらに人が多いねぇ。昨日の1.5倍ぐらい人が居そうだよ」
「武道大会の本戦だからな。この大会のメインイベントともなれば、みんな見に来るんだろ」
「会場も今までの小さな会場とは違って特大サイズだし、四年生のみんなが尻込みしないといいけど........」
「大丈夫だろ。アイツらにとっては、観客なんざ昨日と同じ程度だと思ってるだろうよ。それに、大勢の人に見られて萎縮する様なメンタルは持ってない」
昨日の出来事を考えていると、花音が学園に押し寄せてくる人々を見てぽつりのつぶやく。
確かに、昨日よりも大勢の人々がこの場にはやってきていた。
恐らく、万は超えているだろう。この街の人々以外にも、他の街や他の国から来ている人が大勢いると思われる。
今日の賭けは盛り上がるだろうな。
今回のダークホースである補習科に加え、優勝候補なんかもこの決勝トーナメントには参加している。
俺達は補習科の皆が負けるとは微塵も思ってないが、他の観客がそれを知る由もない。
昨日の予選決勝を見て、誰が強いのかをしっかりと偵察してきた人や噂を聞いて判断する者。様々な方法で、賭けに勝とうと意気込んでいるのが見て分かる。
やっぱりギャンブルって人を変えるんだな。俺も今回以外はやらないでおこう。
「今日は皆本気でやるから楽しみだね。誰が優勝するんだろう?」
「大本命はエレノラかなー?あの中では1番戦い方が上手だし、対策してないとどうしようもない。だからと言って、色々と対策してもそれを上回る爆弾で突破してくるし」
「理不尽の押し付けが上手だよねぇ。エレノラと戦う時は、毎回イラつかされたよ。きっと、教えてきた人の性格が悪いんだね」
「おい花音?なぜ俺を見て言う?」
俺は女神すらも凌駕する懐の深さと慈悲深さを持った人間だと言うのに、性格が悪いと言われるのは誠に遺憾である。
俺が渋い顔をしていると、黒百合さんとラファも大きく頷いた。
「確かにそれはあるだろうね。戦いにおける性格の悪さに関しては、仁君悪魔じみてるし。花音ちゃんから聞いたよ?この前の麻雀、イカサマしてたんだって?」
「少なくとも、性格がいい人はイカサマなんてしないよねー。団長は確かに優しいかもしれないけど、性格がいいとは口が裂けても言えないかな」
解せぬ。俺ほど性格の良い人間は居ないというのに。
しかし、麻雀でイカサマをしていたのは事実であり、イカサマが性格の良い人が行うかと言われると首を傾げざるを得ない。
俺は不満タラタラながらも、このまま戦えば勝ち目が無いことを悟って話題を逸らした。
「そういえばエリーちゃん達も今日は見に来るんだよな。補習科に賭ければ間違いないとは言っておいたが、どのぐらい賭けるんだろうか?」
「あからさまに話題を逸らすねぇ。まぁ、無理のない範囲で賭けをするんじゃない?リックは昨日も見に来てたらしいから、補習科の皆がかなり強い事を知ってるだろうけど、それでも万が一を考えたら無理のない範囲でかけるでしょ。仮にも冒険者だから、リスク管理はしっかりできてそうだし」
「そう考えると、やっぱりサラサ先生は頭がイカれてんな。全財産を突っ込むか?普通。負けるとは思ってないけど、万が一を考えるだろ」
「サラサ先生は........ほら、生徒の事が好きすぎるだから。昨日もエリーちゃんの店でベタベタ生徒に触ってたし」
「生徒も少し困ってたな。サラサ先生、酔っ払うとダル絡みするタイプだ」
1番嫌われるタイプだな。生徒達はサラサ先生の事が好きなので、困った顔をするだけで嫌そうな感じはなかったが、見ず知らずの相手にやっていたら嫌われるか持ち帰られそうだ。
サラサ先生、普段は酒を飲まないって言ってたのに、生徒達が全員本戦出場することが決まってテンションが上がりすぎてたな。
「サラサ先生、結構飲んでたけど大丈夫なんだろうか?黒百合さんみたいにアル中で飲み慣れてるって感じがしなかったんだけど」
「ちょっと心配だねぇ。そこのアル中とは違うし」
「2人とも、私のことをアル中って言うのやめてくれない?私は楽しくお酒を飲んでるだけだよ」
「大樽のビールを3樽も飲み干す様な奴をアル中って言わずになんて言うんだよ。黒百合さんはいい加減、自分がアル中だということに気づいた方がいいよ。マジで」
「朱那ちゃん、お酒を飲まない日ないでしょ?禁酒とかできるの?」
「で、できるもん!!........3日ぐらいなら」
「「ダメじゃん」」
顔を真っ赤にして禁酒ができると豪語する黒百合さんだったが、たった3日しか禁酒できる自信が無いのはアル中なんよ。
せめて1ヶ月ぐらいは禁酒できると言って欲しかったとも思いつつ、俺達は今日の主役たちが集まる補習科の運動場に足を運ぶのだった。
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