イスの学園生活⑯
メレッタが優勝を決め、他の学年別の生徒達の優勝も決まったその日の昼。
イス達はリーゼンの経営する店である“
昨日と同じように仁達も昼食を食べに来ていたが、この後トーナメントを戦う補習科の生徒達を思って別々の部屋に通してある。
既に戦いが終わった者と今から戦う者。気が緩んだメレッタが、補習科の生徒達に気を使って騒がないなんてことが無いように仁が気を使ったのだ。
「それじゃ、メレッタの優勝を祝って!!カンパーイ!!」
「乾杯なの!!」
「か、カンパーイ!!」
ノリノリのイスとリーゼンのテンションに若干押されながらも、メレッタは果実水の入ったコップをぶつける。
一年ほど前では考えられなかった武道大会優勝。補習科に落ちそうな程戦闘が苦手だったメレッタは、遂にここまで来たのである。
リーゼンはコップに入った果実水を一気に飲み干すと、気持ちよさそうに笑いながらメレッタを褒めた。
「圧勝だったわね。決勝戦とは思えないほど圧倒的な勝負だったわ」
「対戦相手を両方ともボコボコにしていたの。メレッタは一撃も食らうことなく圧勝なの」
「えへへ、二人のお陰だよ。2人が毎日色々と教えてくれたからね。お陰で優勝できたんだよ」
「そうは言っても、やっぱり最後に必要なのはメレッタ自身の努力よ。いちばん頑張ったのはメレッタなのよ。もっと胸を張りなさい」
「そういう事なの。私達も手伝いはしたけど、メレッタの努力が1番身を結んだの」
ニコニコとしながらも、料理を食べていくイス。
イスは気にしてないが、その料理は冷たい。
出来たての料理を作って来たはずなのだが、テンションが上がりすぎたイスは異能である“
観戦の時も、イスはメレッタの応援にテンションが上がりすぎて、冥界の冷気をダダ漏れにしている。
会場の熱気で暑いはずなのだが、イスの周辺だけ背筋が凍るほどの寒さが襲い少しだけ騒ぎになっていたりする。
隣で応援していたリーゼンは、イスの冷気に慣れているというのとメレッタの応援に集中し過ぎて気づいていなかったが。
「かっこいい実況もされてたし、今や有名人ね。会場を出るのも一苦労だったわ」
「メレッタ、超人気者だったの。人が多すぎて吐き気がしたけど」
「あはははは........あれは大変だったね。ビックリしたよ。会場を出ると、たくさんに人に囲まれるんだから」
「全部凍らせてやろうかと思ったの」
「絶対に辞めてね?イスの冷気は次元が違うんだから」
「ダメだよ?絶対にダメだからね?」
軽く殺気を出すイスと、それを宥めるリーゼンとメレッタ。
イスの冷気はそれだけで人を殺せる。例え冗談だと分かっていても、止めようとするのは当たり前だった。
「先生や補習科の人達もメレッタを祝ってくれたわね。ちょっとピリついてたけど」
「パパ達は普段通りだったの。補習科の人達はピリピリしてたけど」
「あの人達は今から戦うからね。ピリつくのはしょうが無いよ。でも、優しく祝ってくれたよ」
メレッタはそう言いながら、岩井の言葉をかけてくれた五人の補習科生徒の顔を思い出す。
昨日今日の仲ではあったが、メレッタは何気に補習科の生徒達に懐いていた。
昨日の夜に多くのことを話し、それなりに仲も良くなっている。
特にメレッタが懐いているのはエレノラであり、メレッタもあんな風に周りを気にしない生き方をしてみたいと憧れるほどである。
仁達が聞けば耳を疑って頭の正気を確認するだろうが、自分とは違う生き方をするエレノラはそれだけメレッタには輝いて見えた。
人は自分が持っていない物に憧れる生き物なのである。
それと、エレノラは変人に優しいということもあった。メレッタの建築話をウザがらずにただ静かに聞いてあげるというのは、イスやリーゼンの様にメレッタにとっては居心地の良い場所でもある。
エレノラもまた、爆弾に関しては熱く語りがちなのでメレッタの気持ちを理解できたのかもしれない。
しばらく話した後、リーゼンとメレッタも料理に手をつける。
しかし、その手はあまりにも冷たくなりすぎた料理に止められてしまった。
「イス。冷気が出っぱなしだったでしょ。料理が滅茶苦茶冷たいわ」
「暑い日に食べる氷よりも冷たいよ........」
「あ、ゴメンなの........メレッタが優勝したのが嬉しくて、ちょっとコントロールを誤ってたの」
キンキンに冷えた料理。中には冷たい方が美味しい料理もあるにはあるが、それでも暖かい方が美味しい料理の方が多い。
リーゼンとメレッタは、メレッタの優勝に喜ぶイスに呆れながらも追加の料理を頼み、冷たくなった料理をイスに食べてもらうことにする。
死と霧の世界の皇帝は、この程度の冷たさでは何も感じないのだ。
かなりの量の料理があるが、大食感のイスならば全てを食べ切るのは容易である。
それに、椅子は仁と花音の教育で“出されたものは残さず食べる”が染み付いていた。
「イス、次は冷やさないでね?」
「気をつけるの。2人とも私の冷気に慣れすぎて“寒い”とか言わなくなったから、忘れてたの」
「あはは。確かにイスの冷気には慣れちゃったよね。お陰で、冬が暖かく感じるよ」
「そうね。冬が来たというのに、全く寒くなかった時は驚いたわ。魔力操作が上手くできるようになってからは、暑さや寒さに鈍感になったわね」
「お陰で着込むことも暑さに汗をかく事も無くなったよ。魔力って凄いね」
「私は特に寒くも暑くもないの。自分で冷やせるし」
「イスの能力を使えば、大抵の物は冷たくなるわよ。灼熱の火山だって極寒に早変わりだわ」
「確かに。イスの能力を使えば、昼の砂漠も夜に変わっちゃうだろうね」
メレッタとリーゼンはそう言いつつ、新しく来た料理を受け取って手をつける。
出来たての料理はちゃんと温かかった。
「改て、おめでとうメレッタ。来年は私達も出ようかしら?」
「おめでとうなの。私が出ると勝負が決まっちゃうよ?」
「そうなのよねぇ。イスが強すぎて勝ち目がないのよ。私とメレッタが本気でやっても勝てる気がしないし」
「イスは別格に強いからね。世界最強の傭兵団の一員なだけはあるよ。ところで、イスが勝てない人とかいるの?」
「もちろん居るの。パパには絶対勝てないし、ママも戦い方によっては負けるの。後、炎を操るおじちゃんにも勝てるかどうか怪しいし、私の面倒をよく見てくれてるお姉さんにも勝てないの」
「........凄いね。世界征服も夢じゃなさそう」
「先生が欲深くなくて良かったわ。欲が深かったら、今頃世界の全てを先生が手に入れてるわね」
イスの言葉を聞いて、メレッタとリーゼンは世界の広さを知るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます