愚か者の末路①

 エリーちゃんの店で生徒達の本戦出場を祝い明日に備えて早めに家に返した後、俺はリーゼンお嬢様と一緒に屋敷で紅茶を飲んでいた。


 油っこい物ばかりを食べまくったせいか、少し胃が重い。

 

 三年前位の時は、あの量を食っても特に問題なかったんだけどなぁ........まだ22だと言うのに歳を感じてしまう。


 これが30、40となっていくにつれて更に食べられなくなっていくとなると、気が滅入る。


 歳は食いたくねぇもんだ。


 「準備は終わってるか?」

 「もちろんよ。先生がこれでもかという程証拠を持ってきてくれたおかげでね。しかも、ブラハムのおじいちゃんにまで話をつけてきてくれたんだから、負ける要素がないわ」

 「あの爺さん、リーゼンにゲロ甘いからな。孫にプレゼンのを送る感覚だったぞ」

 「この国で二番目に大きい商会と、西の方で勢力が強い商会のプレゼント。ちょっと重たすぎるわね」


 予選が終わり、本戦を明日に控えたこの日。


 遂に泳がせ続けたバカ息子とバカ娘にその代償を払わせる時が来た。


 公衆の面前で恥をかかせると言う当初の目的は既に達成され、後は今までにやってきたツケを全て払うのだ。


 メレッタ達と揉めていたレナータも、全身をボキボキにへし折られイスとリーゼンもスッキリしたという。


 今日ばかりは、2人ともメレッタをとても甘やかしていた。


 ちょっと百合百合しい光景が見えたのだが、あの光景は心が浄化される気分になったのでヨシとする。


 昔、某緩い百合のアニメを見てたことがあったが、現実でもそれを見れるとは思わなかったぞ。


 え?黒百合さんとラファも百合だろって?


 あっちは過激過ぎて規制がかかるから、知りません。


 「んで、あの爺さんはまだ来ないのか?歳をとり過ぎて今日の約束を忘れちまったのか?」

 「ほっほっほ。儂はまだまだ若いぞ」


 俺がワザと大きめの声でそういうと、後ろから元老院のジジィが顎を撫でながらやってくる。


 時間よりも少し遅れているが、この爺さんもかなり忙しい仕事の合間を縫ってきてくれているので仕方がないだろう。


 それはそれとして、しっかりと文句は言うが。


 「10分近く遅刻しておいて、よく言うな。歩くのが遅すぎて遅れましたってか?」

 「ほっほっほ、こう見えてもこの国で1番偉いんでな。どこぞの傭兵のように暇を持て余してる訳では無いのだよ。羨ましい限りだ。暇がそんなにあって」

 「安心しろジジィ。アンタももうすぐ暇になるよ。永遠にな」

 「儂が死ぬってか?馬鹿言えクソガキ、後10年は暇にならんわい」

 「........まだ後10年も生きるつもりか?歳を考えろよ。爺さんもう90過ぎてんだからさ」

 「100を超えるまでは死なん。昔から決めてる事だ」

 「いや、決めてても死ぬ時は死ぬからな?長生きしたいんなら、仕事量を減らして身体をいたわれ」

 「そんなジジィに仕事を持ってきた奴が言ってもな」

 「早く死んで欲しいからな。老害は消えるべきだと思わんかい?」


 普段通り適当な煽り合いをする俺と爺さん。


 世界広しど、国の最高権力者にこんな口を聞けるのは俺ぐらいだろうな。


 最初の出会いが最悪だったと言うのもあるが、どうやらこうやって言い合うのがこの爺さんは好きらしい。


 護衛の人が言うには、亡くなった友人とのやり取りを思い出せるんだとか。


 最初は普通に嫌味を言っていたが、今となっては半分義務となっている。


 残り少ない余生ぐらい、気分よく生きてくれ。


 俺とプロレスごっこをした後、爺さんはシワシワの顔を更にシワシワにしながら、リーゼンの頭を撫でる。


 その手つきは、曾孫を可愛がるおじいちゃんそのものだった。


 「おぉ、リーゼンや。元気にしてたか?」

 「えぇ。ブラハムおじいちゃんも元気だったかしら?今のやり取りを見るに、元気そうだけど」

 「ほっほっほ。元気ハツラツじゃよ。特に今日は気分がいい。可愛いリーゼンの為に一肌脱ぐとしよう」


 機嫌良く笑う爺さんを見て、俺はこっそり近くにいた護衛の人に声をかける。


 あれ、この人少し強くなってるな。銀級冒険者ぐらいの強さから、金級に手が届くギリギリにまでなってる。


 仕事熱心なんだな。爺さんの介護お疲れ様です。


 「なぁ、あの爺さん、なんで血も繋がってないリーゼンにあんな甘いんだ?」

 「恐らくですが、ブラハム様の家系は男の子しか生まれてこなかったからでしょうね。子も孫も曾孫も全て男の子でした」

 「んで、爺さんは女の子が1人ぐらい欲しかったと」

 「端的に言えば。あとは、単純にリーゼン様が素直でいい子だからというのもあるでしょう。生意気過ぎるガキならば、あそこまで可愛がらなかったと思います」


 爺さんも爺さんで苦労してんだな。


 俺も似たような理由から母方の祖父には可愛がられていた。


 お袋は三人姉妹で、爺さんは男が欲しかったらしい。


 そんな中で生まれた初孫が男だったのだから、これでもかという程可愛がられたのを覚えている。


 事ある毎に俺を連れ出しては、よく釣りや飯に連れていってくれたものだ。


 因みに、父方の祖父は阿吽の爺さんである。


 3歳のガキに、イノシシを解体させるイカれた頭をしたあの爺さんだ。


 今思うと、父方の祖父母はどう考えても子供に教えるようなことでは無いことばかりを教えてきてたよな。


 イノシシの解体や、イカサマのやり方なんて孫に教えるか?普通。


 魚の捌き方とかならまだ実用性があるのに、イノシシとか狩らねぇし買わねぇよ。


 母方の祖父母は普通の人だったのに........


 「あの爺さんも手に入れられないものは多いんだな」

 「大体の物は手に入りますけどね。貴方のような単純な力で権力をねじ伏せる猛者や、偶然に頼るしかない物はどうやっても手に入れられないんですよ」

 「まぁ、人間生きてりゃ手に入らないものの一つや二つは出てくるか」

 「そういう事です。私も妻とか欲しいんですけどね........」


 そう言って暗い顔をする護衛。


 お前、結婚とかしてないんだ。


 なにか言葉をかけてあげようと思ったが、どれも慰めにはならないと思った俺は取り敢えず適当に返した。


 「偶然に頼るしかないな」

 「全くですよ。神はどうして偶然なんて作ったのでしょうね?全てが必然なら良かったのに」


 全てが必然ならこの世界は今頃絶望に満ちてるよ。


 俺はそう思いながら、席を立つ。


 おじいちゃんと孫の微笑ましい会話もそろそろ切り上げさせて、仕事に行くとしよう。


 ウチの子をキレさせた代償と、1番弟子に喧嘩を売った代償はきっちり払ってもらわないとな。


 「そろそろ行くか」

 「えぇ、サリナ、準備は出来てる?」

 「問題ありません。全て揃っていますし、人員も配置しています」

 「ほっほっほ。では、街の兵も動かすとするかの。この国の最高権力に喧嘩を売った馬鹿なガキどもに、現実を教えてやるてしよう」


 日が沈み暗く闇が覆う夜。


 権力に溺れた子供達に現実を突きつける為、俺達は動き出した。

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