課外授業④

 エレノラが複数体のゴブリンを圧倒したことにより、他の生徒達も“自分は出来るのでは?”と自信を持つようになった。


 その後、全員がゴブリンの群れを軽くなぎ倒し、自分達がどれほど強くなったのかを自覚した生徒達に敵は居ない。


 ゴブリンよりも強いホブゴブリンや、人型では無い魔物相手にも臆することなく戦えるようになっていた。


 「やっぱり自信って大事だな。多分、俺たちが教える前でもゴブリンの群れ程度になら勝てるだろうに」

 「自分は弱いっていう自覚することは確かに大事だけど、それ以上に“勝つ”っていう自信がなければ勝てるものも勝てなくなるもんねぇ。メンタルは大事だよ」


 生徒全員がそれなりに自信を持ったのを確認した後、時間的にお昼ご飯を食べることになったので、一旦森を出て焚き火をしながら休憩を取る。


 教師は教師で、生徒は生徒で集まって昼食を食べる中、サラサ先生はとても嬉しそうにしていた。


 「ジン先生達は凄いよ。私が教えても、全然強くなれなかったのに........」

 「コツがあるんだよ。各生徒に合わせた戦い方を教えてるってのもあるけど、それ以上に基礎が大事なんだ。基礎身体能力に魔力操作、身体強化と戦い方。この4つが出来れば自然と強くなれる。サラサ先生は基礎身体能力の向上だけをやってたから、生徒たちの伸びがあまり良くなかったってことだな」

 「うっ........私、教師向いてないのかなぁ」


 ショボンと肩を落とすサラサ先生だが、俺はサラサ先生程教師に向いている人は居ないと思っている。


 教師に必要なのは何か?


 そう問われれば数多くの答えがあるだろうが、1番大事なのは“生徒への愛”だと俺は思っている。


 生徒と向き合って、時に励まし、時に叱る。そんな教師こそが、最も輝かしい教師としての像だと俺は思っていた。


 サラサ先生は確かに教え方が下手だったかもしれないが、生徒の成長を自分の事のように喜び、生徒達相手に真剣に向き合って教えている。


 教え方が上手かろうが、生徒に慕われない教師は教師失格だ。


 俺は肩を落とすサラサ先生を励ますかのように、明るい声で言ってやる。


 「サラサ先生が教師に向いてないなら、この学園の教師の9割以上は教師に向いてないよ。生徒を成長させることは確かに必要だけど、それ以上に生徒への愛が無いと。サラサ先生は、教師として1番大事な物を持ってるんだよ」

 「そうそう。生徒に慕われる教師なんだから、もっと自信を持ってよ。少なくとも、基礎科や応用科の教師より教師の才能があるよ」

 「私も、学生時代にサラサ先生に教わりたかったなー。あっちだと、たぶん体育の先生かな?絶対楽しそう」


 体育の先生としてサラサ先生が居てくれたら、間違いなく楽しかっただろうな。


 サラサ先生は生まれる世界を間違えたのかもしれない。地球に生まれていたら、もっといい教師として生徒に好かれていただろうに。


 真面目で明るく人当たりもいい。そして生徒のことを第一に考えるサラサ先生こそ、目指すべき教師像だ。


 教え方なんぞ、後からいくらでも着いてくるのだから。


 「でも、教えるの下手だよ?」

 「下手という訳じゃないんだけどな........実際基礎身体能力に関しては、けっこう高めだし。疎かになりがちな魔力操作と身体強化もしっかりと教えれれば、三年生や二年生も化けると思うぞ」

 「ん........どうやって教えればいいんだろう?」

 「それは俺達が教えてやろう。大丈夫、武の神とまで言われた御仁直伝のやり方だ」


 武の神(ドッペルゲンガー)から教わった事を色々と教えてやろう。大丈夫、ちゃんと生徒達用に変えるから。


 昔の修行を思い出して若干顔が青くなる花音を見ながら、俺はサラサ先生に魔力操作と身体強化の練習方法を伝授するのだった。


 こんなところにもノートとペンを持ってきてるあたり、サラサ先生って本当に真面目なんだなと思ったのは内緒である。


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 昼休憩中の四年生は、自分達の成長に驚いていた。


 確かに自分達が強くなっているという感覚はあったものの、どこまで強くなったかは自覚できていない。


 そんな生徒達が、今回の課外授業で得た“自信”というものは相当なものだった。


 ゴブリンの群れを圧倒し、ホブゴブリンでさえ余力を十分に残して倒せる。


 3ヶ月前では想像もできなかった自分達の成長に驚きつつ、世界最強の傭兵団が如何におかしいかを再度理解した。


 「本当に強くなった。まさか、ゴブリンの群れを相手にあそこまで圧倒できるなんて........」

 「ジン先生達のお陰だね。確かに強くなってる感覚はあったけど、あそこまで強くなれるとは思ってなかったよ」

 「1対1ならともかく、1対6でも余裕なんてちょっと前じゃ考えられなかったねー。びっくりしたよ。蹴り一つでゴブリンの頭が吹き飛ぶとは思わなかったよー」

 「ぼ、僕でも勝てた」

 「........」


 かつては1匹を倒すのにも苦労したゴブリン。当時もタイマン程度ならば問題なく勝てたはずなのだが、自信のなさが足を引っ張っていた。


 しかし、エレノラがゴブリンを圧倒し、それを見た彼らは自信という武器を身につけつつあった。


 自信という武器は時として自分の首を締め付ける。自信と無謀を履き違え、勝てない相手にも勝てると錯覚させる諸刃の剣。


 だが、彼らに限って言えば自信という武器が己を首を締めるようなことはない。


 「まぁ、それでも先生達にはボコボコにやられるけどね........」

 「教えて貰っているんだから当たり前なんだけど、ちょっと格が違いすぎるよね。勝てる気が一切しない」

 「無理だねー。特にジン先生とカノン先生は。こっちは本気で先生の首を取りに行ってるのに、先生は遊んでるんだもん。なんで5人で殴りかかってるのに1発も当たらないの?」

 「せ、先生には、勝てる気全くしない........僕達がどれだけ上手な連携を取ったとしても、先生は笑いながらゆらりと全部避けてく」

 「防御ふらしないからね。サラサ先生なら少しは攻撃も当たると思うけど........」

 「........」


 世界最強の傭兵団。その団長と副団長は生徒たちの目から見ても異常だった。


 教え方は優しく上手ではあるが、本能的に“勝てない”と感じさせる何かがある。


 指先だけでもその片鱗に触れられるのであれば、僅かな希望があるだろう。だがしかし、例えどれだけ土台を積みあげようと指先すら触れることの出来ない領域に立つ仁達は文字通り格が違いすぎた。


 これが彼らの自信をへし折っている。そのお陰で、無謀と履き違えることは無い。


 「ところで、エレノラ?君は何してるの?」


 先程からずっと無言で爆弾を弄るエレノラを見て、ブデが嫌な予感を覚えながら話しかける。


 絶対ロクなことじゃないと思いつつ聞いたその質問に、エレノラは目を輝かせながら答えた。


 「魔物を爆破するってすっごく気持ちいい。癖になりそう」

 「「「「「........」」」」」


 生徒たちは思った。


((((ジン先生。怪物を生み出したんだけど))))


 頬を赤らめて興奮するエレノラを見て、ブデ達は思いっきり引くのだった。

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