課外授業⑤

 昼休憩を終えた俺たちは、再び森へと足を踏み入れた。


 魔物達相手に戦えるという事がわかった生徒達は、始めのようにビクビクと周囲を警戒することなく胸を張って堂々と森の中を歩いている。


 いい傾向だ。勝てると言う事が自信につながり、普段通り動け始めている。


 堂々と森の中を歩いているが、警戒もしっかりと怠らないその姿は冒険者としてやって行けるだろう。


 生徒達が今後どのようにこの世界で生きていくのかは知らないが、少なくとも自分の身を守れるだけの強さは既に手に入れている。


 この経験が、今後の人生で役立ってくれることを祈るとしよう。


 「ジン先生、次はなんと魔物と戦うんでふか?」

 「今日のメインディッシュ、中級魔物のオーク君だ。全員タイマンで戦ってもらうぞ」

 「........お、オークって銀級冒険者と同格に扱われる魔物でふよね?それと1対1出戦うんでふか?」

 「そうだ。お前達は既に銀級冒険者波に強いんだよ。自分に合った戦い方を見つけて、それを磨いてきたんだ。戦闘能力だけで言えば、応用科の連中よりも強いだろうよ」


 例外を除いてだけど。


 一年間ミッチリ教えたリーゼンお嬢様や、そもそも人間では無いイス相手にはまだまだ実力は及ばない。


 だが、才能だけに胡座をかいた連中にならば、余裕で勝ち越せるだけの技量がすでに彼らには備わっている。


 人間よりも戦い方が下手なオークなんぞ、相手にもならないはずだ。


 「大丈夫だよー。私がいる限り死なないから、思いっきり殺っちゃえ!!ムカつく奴の顔でも思い浮かべて、その顔面を叩き割っちゃえばいいんだよー」

 「そうそう。“死ね!!”って思いながら思いっきりぶん殴ればいいんだよ。大丈夫、オーク如き一種で殺せるから」

 「2人とも安心させる気ある?自分のペースでやればいいからね?あの二人はちょっと頭がおかしいから........」

 「高嶺の花が生徒相手に好感度上げしてるよ。ラファ、これは由々しき事態。あの女王様が民に施しを与えてる!!」

 「ダメです女王様!!施しを与えるぐらいなら、私を──────────あ、ちょっと待ってそれはマジで痛いやつだら勘弁して下さい女王────じゃなくてシュナちゃん!!」

 「へー?2人ともそんなに痛い目に会いたいんだ........あ、こら、待て!!」


 生徒の緊張をほぐそうと、花音達がよく分からないコントを繰り広げる。


 ........いや、花音の場合はそんなこと一切考えてなさそうではあるが。


 それで気遣いは伝わったのだろう。彼らの緊張は少し解れているように見える。


 「カノン先生達は仲がいいでふね。たまに授業中にふざけて遊んでるし」

 「もっと真面目に教えて欲しいか?」

 「まさか!!僕達を笑わせてくれて楽しいでふよ」


 ブデの言葉に生徒達が頷く。本人達は本当に遊んでるんだろうが、水を差す真似は辞めておこう。


 俺は空気の読める男なのだ。


 そんなこんなありながらも、森の中を迷い無く進んでいく。


 オークの場所は既に把握済みであり、こっそり護衛に着いてきている子供達が案内をしてくれていた。


 毎度の事ながら、子供達は本当に便利だな。コイツらが居なければ、今こうして俺達が世界最強の傭兵団と言われる事も無かっただろう。


 報酬も俺が遊んであげるだけでいいし。


 なんやかんや言って、実はベオークとその子供達がこの傭兵団の根幹を支えてくれているんだなと思いながら、俺は感謝の念を送っておくのだった。


 ありがとう。お前たちのおかげで、この世界を楽して生きていられるよ。


 子供たちの案内に従って歩いていくと、ついに目的の魔物が見えてくる。


 でっぷりと太った体型と2メール以上もある身長。ゴブリンと同じ緑色の肌を持った異世界の定番モンスター。


 我らがオーク君がその姿を見せていた。


 「あれがオーク........」

 「見るのは初めてか?」

 「はい。僕の家は食堂なので肉自体はよく見まふけど、生きてるのは初めてでふ」

 「それはいいことを聞いたな。今日は自分で狩ってきたオーク肉で夕飯を作ってもらえるぞ........なんなら俺も行こうかな」


 そういえば、ブデの店に言ったことは無かったな。


 リーゼンお嬢様曰く、それなりに繁盛している美味い店らしいので今日の帰りにでも寄ってみるか。


 生徒からしたら教師が自分の家に来るなんてクソいい迷惑だが、1回ぐらいは我慢してくれ。


 「最初は誰がやる?」

 「僕が行きまふ」


 率先して手を挙げたのはブデ。どうやら、オーク肉が今日の夕食に並ぶ事を考えたらオークが肉の塊にしか見えなくなったようだ。


 懐かしいな。あの島にいた頃にもオーク肉はよく食べた。ウサギ肉に飽きた時は、オーク肉で味変したものである。


 まぁ、ドラゴンが狩れるようになってからはドラゴンしか食ってなかったが。


 俺はブデの背中に軽くてを当てると、対オークの戦い方を軽く教えてやる。


 「自分よりも大きな相手と戦う時は、相手の死角を上手くつけ。オークとブデ程の身長差があれば、死角なんぞいくらでも生まれるからな」

 「分かりました。頑張りまふ!!」


 自身よりも大きなハルバードを担いだブデは、オークに向かって走っていく。


 その太った体からは想像がつかないほどすばやく森の中をかけていくブデと、ブデの接近に気づいて棍棒を振り上げるオーク。


 「グオォォォォォ!!」


 咆哮を上げ、棍棒を振り下ろしたオークに対して、ブデの取った行動は冷静だった。


 振り下ろされる棍棒をスレスレで避けると、ハルバードの柄でオークの顎をかち上げる。


 ゴッ!!と言う鈍い音と共にアタマが上に上がったオークは、ブデを完全に見失った。


 そして、その隙を見逃してやるほどブデは甘くない。すばやくハルバードを長めに持つと、体重の乗った横凪をオークにお見舞いする。


 理想を言えば首をここで叩き切りたかったが、ブデの身長的にそれは不可能。


 ブデはオークの機動力を削ぐために片足を器用に切り飛ばし、一旦距離を取る。


 いい判断だ。続けざまに攻撃を食らわせに行っていたら、手痛い反撃を貰っていただろう。


 その証拠に、先程までブデがいた場所に棍棒が振り下ろされる。


 オークは片足を失った事によりバランスを崩し、地面に手をつけて倒れ込んだ。


 こうなればこっちの勝ち。どう料理するかは、包丁を握るブデに全て委ねられる。


 オークは何とか抵抗しようと手に持っていた棍棒を投げるが、真っ直ぐ飛んでくるだけの木の棒に今更ブデがやられるわけが無い。


 「終わりでふ」


 ブデは軽やかに棍棒を避けると、オークの死角に回って断頭台のようにハルバードをオークの首目掛けて振り下ろした。


 スパンと言う音が聞こえそうなほど鮮やかに首を切り飛ばしたブデは、オークが死んだ事を確認すると笑顔でこちらに手を振る。


 「やった!!やりました!!」

 「凄いよブデ君!!」


 純粋に喜ぶブデの笑顔は年相応の少年のものであり、またもやブデ以上に喜ぶサラサ先生に絞め落とされそうになっていた。


 ナイスファイト。いい戦い方だった。

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