それぞれの訓練

 今日も今日とて学園に足を運んでは、生徒達に戦い方を教える毎日。補習科が使う運動場では、生徒達が各々のスキルアップの為に自己鍛錬に励んでいた。


 「いいぞブデ。その調子だ」

 「はい!!」


 ハルバードを振り回すブデは、初めてハルバードを握った時よりも明らかに動きが良くなっており、剣を振るっていた時よりも威力もスピードも桁違いに上がっている。


 それでいながら、彼の目は的確に俺の振るう剣を捌いていた。


 防御する際は素早くハルバードを短く持ち、振るわれた剣を滑らかに受け流す。


 飲み込みの早い彼は、この補習科の中でもかなりの実力者となっているのを見るに、やはり努力の方向性が間違っていたと言えるだろう。


 後は、本人がとても真面目という点もか。


 俺達がどれだけ教えようとも、本人のやる気がなければ所詮は暖簾に腕押し。教え方と本人のやる気によって、生徒は成長するものである。


 「魔力操作もかなり上手くなってるな。身体強化の効率もかなり良くなってる。最初の頃と比べれば天と地ほど違うぞ」

 「毎日、言われたメニューをこなしてまふからね。正直、これで強くなれるのかと言う疑問はありましたけど........」

 「それでもちゃんとやったんだ。偉いぞ」


 ブデ達には、家でも最低限のトレーニングをしてもらう事にしている。彼は半信半疑だった様だが、それでも実力が付いてきたという実感が湧けばやる気も起きるというものだ。


 トレーニングをしてて一番ダルいのは、目に見えた成果がない時。なるべく分かりやすい変化が早く起こるトレーニングをさせたのは、正解だったな。


 ブデの反撃を剣で捌きつつ、俺は彼が既に基礎科の生徒達並に強いである事は黙っておく。


 目指すは応用科の生徒達をボッコボコにする事だ。まだ目標には届いていない。


 それにしても、魔道具を作っていたドッペルに無理に頼んだ甲斐があったな。


 俺は基本的に武器を使った戦い方をしない。対面した際に、どのような戦い方をしてくるのかを理解しておくためにある程度の武器の基礎は知っていても、人に教えれる程ではなかった。


 ではどうするか?


 できるヤツに聞いて自分も学べばいい。


 幸いウチには、全武器の達人であるドッペルゲンガーと言う厄災級魔物が居るのだから、聞く人には困らなかった。


 すまんなドッペル。ちょっと迷惑そうな顔をしつつも、俺の我儘を聞いてくれたことには感謝しかない。


 次いでに、四年生達が武闘大会で使う武器を作成してもらっている。心底面倒臭そうな顔をされたが、ドッペルは引き受けてくれた。


 やはり、持つべきは千の顔を持つドッペルゲンガーだな。


 「ふぅふぅふぅ、全く当たらない........」

 「そりゃ仮にも先生だぞ?まだまだヒヨっ子の生徒に殴られてちゃ、俺の立つ瀬が無いよ」

 「先生は相変わらず強いでふね。何をしたらそこまでになれるんですか?」

 「俺か?全く参考にならないと思うが........そうだな。俺の場合は出来なきゃ死ぬだけみたいな事ばかりだったぞ。ドラゴンの巣に放り込まれて2週間そこで生き延びたり、気持ち悪い魔物の群れを真正面から受け止めたり。後はゴブリンキングの群れにカチコミをかけて滅ぼしたりもしたな。今となってはいい思い出だが、当時は生きた心地がしなかった」

 「えぇ........」


 俺が実感の籠った声で話したのが伝わったのか、ブデは若干引き気味になりつつも当時の話を聞いてくる。


 俺も休憩がてら少し話すかと思い、昔の修行を思い出しながらブデに色々と語ってあげることにした。


 ドラゴンの巣に放り込まれ、ポカって見つかって追いかけられた話や、ゴブリンエンペラーとの死闘。人に化ける魔物とのやり取りや、厄災級魔物にボコられた話など、どれもが嘘に聞こえてしまうような話でも彼は結構楽しんで聞いていた。


 「んで、そんなことばかりしてたら強くなった。やってみるか?」

 「いや、いいでふ。僕の場合は間違いなく死ねるので」

 「だろうな。俺も1歩間違えれば死んでただろうし、普通に生きて行く分にはこんな強さ必要無いしな。さて、続きをやるか。構えろ、今は実践経験が最も重要だ」

 「はい!!」


 俺は剣を、ブデはハルバードを構え、再び指導稽古を始めるのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 ブデが仁の指導に振り回されている頃、他の生徒たちも己の技術を磨くために鍛錬をしていた。


 「ほっ!!」

 「動きが直線的すぎるよ。スピードが武器だとしても、ちゃんとフェイントは入れるように」

 「いけ!!」

 「そうそういい感じだね。全体的な基礎能力が上がって来てるから、それを活かして戦おう」

 「え、えっとその........」

 「もっと自信を持って気楽に行こー?大丈夫、死にはしないから」


 花音にひっくり返されるミミル、朱那に褒められながらもしっかりと反撃を貰うビビット、ビビりつつも獣人特有の身体能力で戦うライジン。


 彼らは、それぞれの強みを生かせるだけの強さを手に入れつつあった。


 自分のスピードに振り回されないだけの戦い方を身につけ始めているミミル、全体的な基礎能力の底上げに伴いかなりの成長をしているビビット、内気な性格でありながらも徐々に狩人の目をし始めるライジン。


 皆仁達の教えによって生まれ変わりつつある中、彼女だけは相も変わらずマイペースにしている。


 「お、いいこと思いついた。煙が出る爆弾の中に極小の鉄も混ぜよう。そうすれば、攻撃しつつ目潰しもできる。どう?先生」

 「いいんじゃないかな?ただ、その小さな爆弾の中に鉄を仕込めるの?」

 「余裕です余裕。ちょっと前に爆弾の極小化の実験をしてたので。ちょっと作ってきます」

 「え?ちょっ........」


 サラサが止める間もなく、エレノラは運動場を出ていき、実験室へと向かってしまう。


 彼女は、思いついた事を直ぐに行動に移す癖があった。特に爆弾に関しては自制があまり聞かず、酷い時は普通の授業中に妙案が浮かんだと言って教室を抜け出すなんて事もあったのだ。


 今ではそこまで酷くは無いが、仁によって爆弾を活かした戦い方を身につけつつある彼女の悪い癖は再発し始めている。


 戦闘に使えそうな爆弾を思い付くと、直ぐに作ろうと実験室に向かう日が多くなっていた。


 サラサも止めるべきなのは分かっているが、あそこまで楽しそうにしているエレノラに注意するのは少し気が引ける。サラサは生徒の笑顔に弱かった。


 「ほんと、爆弾のことになると人が変わるんだから.......」


 サラサはそういうと、追いかけても無駄だなと思い他の生徒達の指導に行くのだった。


 “爆殺魔ボマー”エレノラ、彼女がそう呼ばれ始める日はそう遠くない。

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