学園:中
非日常も慣れれば日常
教師生活が始まってから早二ヶ月。この忙しい生活にも慣れ始め、コレが日常として定着しつつある頃。
俺達は、いつものように首都の拠点である別荘で報告書に目を通していた。
教師としての仕事が忙しくとも、俺達の本業は傭兵。各国(主に8大国)の同行は、逐一把握しておかなければならない。
「教皇はそろそろ引退するな。あと半年って所か?」
「そうだねぇ。仕事の引き継ぎとかも結構終わらせてるけど、肝心の教皇が決まってない。何時になったら決まるんだろう?」
「まだ選挙すらしてないからな。とは言え、候補者達の地盤固めが始まってるから、既に選挙は開始されているも同然か」
神聖皇国内では、既に候補者達の熾烈な票取り合戦が始まっている。
司教たちから支持を得る為に裏で金を積んだり弱みを握ったりと、後暗い様子しか書かれてないのを見るに、権力を握るための戦いというのはろくなもんじゃないというのがよく分かる。
汚い世界やで。ホンマ。
「枢機卿が5人ほど立候補してるけど、その中でも大きな派閥を持ってるのはフシコさんとラバートの2人か。教皇の爺さんが言ってた通りだな」
「現教皇と似たような思想を持つフシコさんは保守派からの支持が高くて、魔物絶対殺す主義のラバートさんは革新派からの支持が高い。分かりやすい右翼と左翼の対決だね」
「資本主義と共産主義じゃないだけ幾らかマシだな。革新派のラバートも国の為をちゃんと考えてはいる人だし、市民からも結構人気だ。その点はフシコさんも同じだしな」
「前の世界の権力者に見せてやりたいね」
「全くだ。問題は、そういう連中に見せても何も響かないという点だけどな」
言葉によって人を変えられるのであれば、第一次、第二次世界大戦は起こらなかったし、諸悪の根源たるヒトラーは絵師になってスターリンは畑を耕していた事だろう。
ファシストとコミーは死んでも治らないのだ。ついでにキャピタリストも。
「それで、どっちが勝ちそうだ?」
「フシコさんかな。派閥の大きさもそうだし、何より私達がちょこちょこ介入してるからね。この選挙って中立の司教をどれだけ抱き込めるかみたいな所があるから、その中立司教達にラバートさんの悪評やらを耳に入れさせるだけで簡単に揺れるよ」
「そりゃすごい。が、こちらも同じ事をされる可能性を考えると、安心できないな」
「その時は革新派の連中を殺せばいいんだよ。ほら、投票って所詮は多数決だから、反対するやつを皆殺しにすれば皆賛成になるでしょ?」
うん。なるにはなるけど、俺達も別に無実の司教を殺して回りたい訳じゃないからね?
花音はさも当然のように言っているが、あまりやりすぎると現教皇の爺さんにお叱りを受ける事になるだろう。
花音、相変わらず考え方が0か100かの両極端なの何とかならないのかなぁ。
俺はそう思いつつ、選挙のコントロールをどうするか悩んでいると、話を聞いていた黒百合さんがひょっこりと顔を出す。
「私が頑張ろうか?」
「ん?何をするんだ?」
「ほら、私天使様だからさ。“フシコさんに投票しないと天罰が下るよ”とか言えば、多くの司教はフシコさんに投票してくれるよきっと」
「........皆殺しよりかはこっちの方がいいけど、最終手段かな。今は子供達に頑張ってもらおう。他司教の弱みなんかもフシコさん側に情報を流しているんだし、何とかしてくれるって」
「そう?私とラファちゃんでフシコさんを支持すれば当選間違いなしだと思うけどなぁ」
当選は間違いないだろうが、それ、フシコさんにも迷惑がかかる可能性があるから。
天使から支持されたとなれば、彼にのしかかる重圧はかなりの物。その圧力に負けて潰れるなんて事も有り得そうで怖い。
どうしようも無くなればその手段をとってもいいが、あくまでも最終手段として考えておくべきである。
........いや、最終手段は花音の言ってた皆殺しか?そんなことをした日には、神聖皇国と敵対しそうではあるが。
「残念。数少ない天使の見せ場だったのに」
「やっぱり天使って肩書はチョロいねー。それだけで人々から尊敬されて、信仰されるんだよ?やってる事、詐欺師と変わんないのに」
「天使が言っちゃダメだろそのセリフ。詐欺師なのはそうだけどさ」
「いいのいいの。天使だからこそ言っていいんだよ。女神の使徒とか自称する痛々しい種族なんだから」
自分もその痛々しい種族の1人だというのに、酷い言いようだ。
黒百合さんも“そうだそうだー!!”とか言ってノリノリだし。
「他の国も後継者決めが盛んだねぇ。聖王国と大帝国も継承権争いが勃発してるし」
「あっちはあっちで大変そうだよな。特に大帝国は戦い方が激しすぎる。まだ貴族同士の小競り合いで済んでいるけど、もう暫くすれば国中で内戦が起こるぞ」
大帝国の皇太子を決める戦いは、選挙なんて生易しいものでは無い。
殺し殺されのデスマッチ。最後の一人になるまで殺し合いが行われ、皇帝に認められなければならないのだ。
何ともまぁ非効率なやり方だとは思うが、愚帝が生まれる可能性は大いに低くなるだろう。
愚か者はまず真っ先に死ぬのだから。
その愚か者を排除する為だけに、民にのしかかる負担というのがどれほどなのかは知らないが、国民からすれば身内内だけで終わらせろと思っている事だろう。
少なくとも、俺が大帝国の国民だったらそう思う。
「また世界は騒がしくなりそうだね。これを機に大国に踊り出ようとする国もあるかもしれないし」
「そういう動きはちょくちょく見られるな。中には既に戦争をしてる国も多くある。結局、戦争のない平和な世界が作りたければ、人類は滅ぶ以外に選択肢が無いって事だ」
「そうだねぇ。人間、“3人寄れば派閥が出来る”なんて言うぐらいだし、争いが絶えることは無いよ」
花音はそういうと、一枚の紙を俺に見せてきた。
そこには、獣王国内で不穏な動きがありと言う事が書かれている。
「獣王国も大変だな。獣人会とどっかの組織がまた揉めてんのか........」
「噂では、正教会国や正共和国の生き残り達が攻撃を仕掛けてるって話だね。しかも、度重なる攻撃で獣人会もかなり疲弊しているみたい」
「獣王は?」
「白色の獣人が何故迫害されるようになったのかを調べに、首都を離れてる。既に民間人にも被害が出てるみたい」
「........はぁ、少し手を回しておくか。獣人会は必要悪だからな。潰れると国が傾く可能性があるし」
奴隷を扱っていたり色々と汚い部分も多いが、それでも、彼らがいなければ国はさらに弱くなる。
綺麗すぎる水に魚は住めないように、国も多少濁っていなければ住むには適さないのだ。
俺はさっさと敵対組織をぶっ潰せよと思いつつも、子供達に陰ながら獣人会に手を貸すように指示を出しておくのだった。
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