種族的にはね

 美人好きの変態ロリババァと花音のプロレスを終え、俺達は街の案内を再開した。


 結局、花音がマルネスを軽く痛めつけて終わったが、その後黒百合さんに優しくされて興奮していたのでマルネスはある意味勝ったと言えるだろう。


 ........ラファとマルネスがお互いにシンパシーを感じあって熱い握手を交わしていたが、俺は何も見なかったことにした。


 街の案内は続き、普段よく利用するパン屋やアル中のエルフの所にも顔を出す。


 皆、俺達を見て感謝を口にすると、少しだけサービスしてくれる。


 特に正教会国を嫌うエルフの爺さんはサービスが手厚く、酒の味がわかる黒百合さんとラファには色々と豆知識を披露しながら酒をほぼ原価出売ってくれた。


 輸送費なども考えると明らかに赤字だったので、少し多めにお金は払っておいたがそれでも赤字だろう。


 よくよく見れば、正教会国側の酒が一切売られてない。今更ながらに気づいたがこの爺さん、自分の好きな国からの酒しか仕入れてないんだな。


 酒が大好きな黒百合さんは、質より量派だったらしく、安くて美味い酒を大量に買っていった。


 まだまだ拠点には多くの酒が在庫としてあるのだが、そんなに買ってどうするんですかねぇ。


 この前の飲みっぷりを見るに、一瞬で無くなってしまうそうではあるが。


 ちなみに、金は黒百合さん自身が出していた。一応神聖皇国に所属していた際に貰った給料が、沢山残っているらしい。


 マジックポーチに入り切らないぐらいまで買ったにもかかわらず、まだ大金貨が数枚残っている辺り、黒百合さんは大銀貨2枚以上を給料で貰ってたんだな。


 そんなこんながありながら帰ってきた傭兵ギルドでは、既に酒盛りが行われていた。


 いつものメンツである傭兵達に加え、冒険者ギルドから流れてきた傭兵達も楽しそうに酒を飲んでは飯を食っている。


 まだ日が出ていると言うのに、楽しそうな奴らだ。


 「よう!!ジン!!先に飲んでるぞ」

 「少しは待てができないのか?お前らは。少し賢い犬ですら“待て”はできるって言うのに........」

 「生憎、犬畜生とは違って俺達は自由だからな!!そもそも、ジン達を待つ義理なんてないだろう?」

 「確かに」


 既に出来上がりかけているアッガスは、エールの入った木のジョッキを掲げながら俺と肩を組む。


 かなり上機嫌だな。


 「なんかいいことでもあったのか?」

 「いや?特には無いが?」

 「ないのにそのテンションなのか」

 「酒は楽しく飲まないとな!!皆で盛り上がって飲む方が美味いだろ?特に、安い酒はな!!」

 「分かるよ。エールとかはその日の気分で味が変わるんだよ。楽しい時は美味しいし、悲しい時は不味いんだよね」

 「話がわかるな!!えーと、シュナだったか?ジンは酒がダメらしいが、シュナは分かるんだな!!」

 「まぁね!!」


 意気投合したアッガスと黒百合さんはそのまま酒を飲むようで、1番盛りあがっているテーブルに消えていく。


 黒百合さんは酒に強いから大丈夫だとは思うが、少し心配だな。


 あの人、滅茶苦茶天然だし。


 「ラファ、黒百合さんが暴走しないように頼めるか?」

 「大丈夫だよ。こんな野郎共が溢れる場所でシュナちゃんを1人にはしないから」

 「お前も飲まれるなよ?」

 「大丈夫大丈夫。酔えなくなっちゃうけど、ちゃんと回復しながら飲むから」


 いや、回復が必要になるまで飲むなよ。


 俺がそういう前に、ラファも黒百合さんの後を追って行った。


 ラファはちゃんと酔う時と酔わない時を弁えてそうだし、任せても問題ないか。


 俺はそう思いながら、相変わらず筋肉がムキムキのゼート達が座る席にお邪魔した。


 こちらも騒がしいっちゃ騒がしいが、アッガス達が座る席よりは静かである。ここなら普通に飯も食えるな。


 「よう。久しぶりだな」

 「久しぶりだなゼート。景気はどうだい?」

 「俺達は傭兵の懐は暖かいぜ。戦争が起きた後だからな。どこぞの英雄様が率いる傭兵団が主役を食っちまったお陰で、ボーナスはほとんど出なかったけど」

 「そいつは悪い事をしたな。ゼートに“神突”を渡してやれば良かったか」

 「それは辞めてくれ。命あっての金だ。使う前に死にたかねぇよ」


 ちびちびとエールを飲みながら、ゼートは串焼きを頬張る。


 俺も果実水を頼むとゼートの前にあった串焼きを1つ頂いた。


 「随分と人が増えたな。ここの傭兵ギルドも。俺が来た時は半分も席が埋まってなかったってのに、今じゃ満席だ」

 「冒険者ギルドとの争いに勝ったからな。今じゃ冒険者ギルドの依頼がこちらへ流れてくるし、仕事を選びたい放題だ。楽だぞ?魔物を狩って来るだけで3日分の金が手に入るしな」

 「新入りとの揉め事もないのか?」

 「今をときめく傭兵ギルド様だぞ?古参に目をつけられるような真似をしてみろ。あっという間に街の嫌われ者だ。そこら辺をわかってないバカどももいるが、大抵は弁えてるさ」


 そして、その弁えてない馬鹿どもは牢にぶち込まれるか街を去るという訳だ。


 子供たちの報告書で大まかな内情は知っているが、やはり現地の人に話を聞くと受ける印象が変わるな。


 「冒険者ギルドはどうだ?」

 「あっちもあっちで頑張ってはいるさ。悪の元凶は取り除いたんだし、依頼もまだ入ってくる。昔に比べれば、傭兵ギルドとの仲も良くなった」

 「昔に比べれば........ねぇ。それってどのぐらい?」

 「殺し合う仲から半殺しにし合う仲ぐらいかな。殺されないだけマシだろ?」


 それは何も変わってないんだよ。


 肩を組んで笑い合う仲になれとは言わないが、出会ったら喧嘩してる時点でダメなんよ。


 子供達の報告でも仲はあまり宜しくないとは言われていたが、ここまでとは思わなかった。


 俺が数ヶ月前に来た時よりも人が傭兵ギルドに流れているから、冒険者ギルドにとっては目の上にたんこぶ所ではないんだろうな。


 それでもやって行けるだけの組織力とノウハウがある辺り、さすがとも言えるが。


 そうやって傭兵ギルドと冒険者ギルドの対立を聞いていると、ゼートに肩を組む輩が現れる。


 「よぉ、随分と辛気臭く飲んでるじゃねぇか。腹の調子でも悪いのか?」

 「またかよベリアル。誰かを絞め殺して次は俺か?相変わらず本能に生きてんな」

 「縊り殺されてぇのかテメェは。誰がゴリラ女だって?」


 ベリアルはそう言うと、笑顔のままゼートの首を徐々に締めていく。


 ベリアルは数少ない女傭兵だ。冒険者が傭兵ギルドに流れてくる前の古参の1人であり、皆からはその脳筋思考と素晴らしい筋肉によって“ゴリラ”と呼ばれていたりする。


 しかし、顔はかなり綺麗であり、健康的な褐色肌と鍛え上げられた筋肉は刺さる人には刺さるだろう........直ぐに手を出す正確に目を瞑れば。


 そして、ゼートはよく彼女に絡まれる。デキてはいないが、多分お互いに悪くは思ってないだろう。


 「ちょ、締まる締まる。死ぬって」

 「殺そうとしてんだから当たり前だろ?誰がゴリラ女だって?ん?」

 「言ってねぇ!!言ってもないのに聞こえるのは、自覚があるってことだろうが!!」

 「知らないね。なぁ?ジン。わたしはゴリラか?」

 「種族的には人間だな」


 “種族的には”ね。


 暗に“お前はゴリラだよ”と言っているのだが、残念ながらこの脳筋にはそれが理解できない。


 「ほら見ろ。私は人間だよ」

 「いや、今のは暗に“お前は脳筋思考の本能に生きるゴリラ”って言ってたぞ!!」

 「お前が勝手に解釈してるだけだろ。ジンはそんなこと言わん」

 「待って待って!!マジで死ぬから!!おいジン!!俺の串焼き食ってないで助けろ!!」

 「串焼き美味しいなー(棒)」

 「ジン、てめぇぇぇぇぇ!!」


 俺はじゃれる二人を微笑ましく思いながら、串焼きをゆっくりと味わうのだった。

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