変態幼女

 孤児院の子供達と少しだけ遊んだ後、モヒカンを生贄にして俺達は街の案内に戻る。


 孤児院の子供達は元気が良すぎて困る。こちらも元気を貰うどころか、疲れるからな。


 皆いい子なので遊んでいて楽しいが、怪我をさせないようにとか気を使うことが多い。


 イスなら割と手加減なしでも問題ないんだよなぁ。遊びという名の組手とか。


 ヌーレの様子も見に行ったが、まだまだ赤ん坊の彼女はお昼寝の真っ最中であり、軽く顔をつついただけで終わってしまった。寝る子は育つと言うし、いっぱい寝て元気に育ってくれ。


 ヌーレの養育費と教会への寄付という事で、俺はマリア司教に大金貨を渡し、何か言われる前にさっさと逃げた。


 大丈夫、大金貨が端金と言えるぐらいには稼いでるから。


 元気のよすぎる子供達はモヒカンに押し付け、俺は謎多きロリババァの元に向かう。


 ずっと監視をしているのだが、相変わらず尻尾を掴ませてくれない。未だに“人類の祖”が何か分からない俺にとって、彼女との交流は必要不可欠なものである。


 ただ、ひとつ懸念があるとすればあのロリババァが黒百合さんを見て暴走しないのかという点だ。


 美人や美少女を見ると我を忘れる変態に、黒百合さんを合わせていいものかと不安になる。


 「大丈夫か?あのロリババァに黒百合さんとラファを紹介しても」

 「大丈夫でしょ。マルネスも、相手が本気で嫌がってたらやらないと思うよ........多分」

 「自信無ぇじゃん」

 「いや、無いとは思うけどマルネスだしなぁ........」


 超絶美人ドッペルゲンガーの時もそうだったが、マルネスは美人や美少女を見ると理性の半分以上が吹っ飛ぶからな。客観的に見ても“美人”である黒百合さんと合わせていいものか、悩みどころである。


 「大丈夫だとは思うけどね。シュナちゃん、変態への耐性は高そうだし」

 「既に隣に変態が居るからな。今でも聞かなきゃ良かったって後悔してるぜ」


 まぁ、ラファという変態が既にいるし大丈夫か。


 俺は一抹の不安を抱えながらも、マルネス魔道具店に辿り着く。


 ノックもせずに入ると、机の上に足を投げ出して爆睡するマルネスがそこにはいた。


 ご丁寧に、開いた本を顔の上に乗せてアイマスク代わりにしている。


 俺はマルネスに近づくと、本を取り上げて本の角で軽く頭を叩いてやった。


 「客が来たんだから接客しろ」

 「........ふぇ?........なんだ君か。麗しき乙女の睡眠を邪魔するとはいい度胸だな。悪魔にでも育てられたのかい?」

 「生憎、俺の目の前に麗しき乙女は居ないんでね。居るのは歳を食った老婆だけだ」

 「老人は労るものじゃないのか?」

 「老人だからこそ健康には気をつけるんだろ。大丈夫?おばあちゃん。こんな時間に寝ると夜眠れなくなるよ?」

 「........相変わらずの減らず口だ。舌が三枚ぐらいあるんじゃないか?」

 「誰が英国紳士だ。俺は大和魂を持った和人だよ」

 「........???」

 「いや、なんでもない。忘れてくれ」


 しまった。三枚舌に反応して前の世界のツッコミをしてしまった。


 英国紳士ブリカスとか大和魂根性論の話をしても分からないわな。だって世界が違ぇんだもん。


 今度、三枚舌外交をしてる国でも見つけてくるか。出来れば有名な国で。


 俺のツッコミが理解出来ず首を傾げるマルネスは“まぁいいや”と、深く考えるのを辞めると寝癖を直していつものホンワカとした表情に戻る。


 「んで、影の英雄:不滅の黒滅様はこんなしょぼくれた魔道具店になんの御用ですか?」

 「お、歌を知ってんのか?」

 「知ってるよ。新たな英雄の話は広がるのが早いからね。歌もここまで届いてる」

 「傭兵達は、そんな事一言も言ってなかったけどな」

 「彼らなりに気を使ったんだろ。困るだろ?偉くなったら態度を変えてくるような連中は」

 「お前はもう少し態度を改めた方がいいとは思うけどな」

 「その言葉、そっくりそのまま返すよ。英雄になったんだ。少しぐらいは皆の模範になるような態度をしたらどうだ?」

 「相変わらずの減らず口だ事」

 「君ほどじゃぁない........所で、あちらの滅茶苦茶美人なお姉様は何処の何方で?」


 マルネスは黒百合さんを指さすと、若干鼻息荒く問いかける。


 もう既に理性が本能に負けつつあるが、大丈夫か?


 「新しく揺レ動ク者グングニルに入った黒百合朱那さんだ」

 「クロユリシュナ........?まさか、異世界から来た大天使か」


 流石はマルネス。黒百合さんの名前を聞いただけでその結論に至れるとは。


 俺は大きく頷くと、マルネスは少し何かを考えるような素振りを見せた後黒百合さんに右手を差し出した。


 「私はマルネス。この魔道具店の店主だ。よろしく」

 「よろしくお願いします。マルネスさん。私は黒百合朱那。シュナって呼んでください」

 「時に、シュナちゃん。君は君の世界を奪った女神についてどう思ってる?」


 突如として投げかけられた質問。


 どうしてだろうか。黒百合さんに投げかけられた質問のはずなのに、俺や花音にも問われているような気がする。


 「女神イージスの事ですか?」

 「そうだ。聞いた話だと、君達のいた世界は比較的平和だったそうじゃないか。自分の人生を歪められた今、女神に恨みの一つや二つはあるんじゃないか?」

 「まぁ........ないと言えば嘘になりますね。女神の顔面を思いっきり引っぱたく権利ぐらいは欲しいです」

 「なるほど........所で話は変わるんだが“この雌豚が!!”って罵って──────────ゴフッ!!」


 突如として吹っ飛ぶマルネス。


 ナイスだ花音。よく蹴っ飛ばしたぞ。


 急に話が変わりすぎて全く反応できなかった。花音ですら、反応が遅れるレベルで変わり身が早かった。


 店の中をゴロゴロと転がったマルネスは、すぐに起き上がると花音に向かって叫ぶ。


 「何するんだよ!!」

 「それはこっちのセリフだよ。私が言ってあげるから、それで満足してね。この雌豚が。発情してんじゃねぇよ。ミンチにされてぇのか」

 「壊れた人形に言われても何も感じない!!後、普通に怖い!!」

 「誰が壊れた人形だ!!私は普通の可愛い女の子でしょ?!」

 「どこをどう見たらそうなる?!魂まで狂気に染った奴をそもそも人間とは呼ばないんだよ!!鏡で自分の魂を見直して来い!!」

 「ぶち殺すぞクソアマァ!!」

 「上等だよ!!かかって来い!!遊ばれる存在である人形が人間様に勝てると思うなよ!!私はカノンを倒してシュナお姉様に罵ってもらうんだ!!」

 「私が人形じゃねぇ!!お前がなるんだよ!!」


 割とマジで殴りにかかる花音とマルネス。殺気は感じられないので、やっていることはプロレスに近いな。


 仲がいいなぁと思いつつ、花音とマルネスの殴り合いを眺める。


 体術は圧倒的にマルネスが劣るものの、魔道具のお陰で手数が多い。上手く魔道具を使って花音の動きを制限していた。


 花音も本気でやればマルネスを瞬殺できるのだが、プロレスなので手加減している。


 楽しそうでなによりだな。


 「ママ、ちょっと楽しそうなの」

 「そうだな。前も思ったがあの二人は割と相性がいいのかもしれん」

 「え?仁君止めないの?」

 「いいのいいの。いつもあんな感じだから」

 「........シュナの本質を一瞬で見抜くとは。あのマルネスとやら、なかなかやりますね」


 結果は花音の勝ちで終わったが、プロレスが終わるまで俺達は魔道具を見て時間を潰すのだった。


 お、イカサマコインのバリエーションが増えてる。

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