モヒカンとマリア

 ヘレナが帰ってきた事により、少し騒がしくなったのだろう。誰の声だと外を見た子供たちが、話しているのが俺達だと知ると一斉に飛び出してくる。


 相変わらず元気な子供たちではあるが、気をつけろよ?元気が有り余りすぎて怪我をされても困るからな。


 「ジーザンだ!!またシスターを口説きに来たの?」

 「“また”ってなんだ“また”って。俺はマリアを口説いたことなんぞ1度もない!!」

 「嘘つけ!!この前シスターをご飯に誘ってた!!シスター、その日はかなり気合い入れてお洒落してたんだぞ!!で、襲ったの?しっぽりなの?」

 「どこで覚えたそんな言葉ァ!!」


 いつもの如く子供達に好かれているモヒカン。子供達がモヒカンの周りを囲み、ニヤニヤしながらマリア司教との進展を茶化す。


 報告では知っていたが、マリア司教はそんなに気合いを入れてモヒカンと飯に行ったんだな。


 ここら辺ではかなりの高級料理店に誘ったらしいが、モヒカンの貯蓄は大丈夫なのだろうか。


 まぁ、先最近は戦争続きで懐が暖かいとは思うが。


 モヒカンに群がる子供たちを見ていると、こちらにも子供達が寄ってくる。何度か顔を出しているし、少し遊んだこともある仲なので怖がられるようなことは無い。


 「なぁ、兄ちゃんは強いんだろ?世界最強の傭兵団だって聞いたぞ!!」

 「少なくとも、そこにいるモヒカンよりは強いな」

 「お、俺も強くなれるかな?!俺、強くなってこの街を守りたいんだ!!」


 確か、ガキ大将のポジションにいる問題児だったな。この子は。


 問題児と言っても、孤児院の誰かを傷つけたりするような子ではなく、暇さえあれば剣を振るう変わり者だ。良く訓練で怪我をしてマリア司教を困らせているという報告を読んだ覚えがある。


 街を守りたいために強くなるか。俺や花音とは違って動機が純粋だな。眩しすぎて目が開けられねぇ。


 俺はその子と視線を合わせるようにしゃがむと、優しく頭を撫でてやった。


 誰かを守るために強くなろうとする奴は嫌いじゃない。少しだけアドバイスをしてやろう。


 「強くなれるさ。俺も最初は弱かったんだ。努力をすれば、今よりは強くなれる。その先は才能次第だがな」

 「........じゃぁ、俺は強くなれない可能性もあるってこと?」

 「あぁ、そうだ。だが、この街を守れる程度には強くなれる。俺が言ってるのは、世界最強を目指す場合の話だ。誰かを守る、街を守る。その程度なら努力次第で幾らでも強くなれるさ........未来の英雄に1つアドバイスをやろう。異能や魔法に頼った戦い方をするな。先ずは基礎を固めろ。それだけで強くなる」

 「基礎?」

 「そう。基礎だ。ここで言うなら体力だな。先ずは長く走り続けられらだけの体力を身につけろ。それと同時に、魔力の扱い方も覚えるんだ。身体強化はできるか?」

 「うん」

 「なら、身体強化を長く維持できるようになれ。身体強化の強さを維持しつつ、使う魔力を少なくするんだ」

 「........?どうやって?」

 「それは自分で考えな。考えることも強くなるのに必要な要素だ。力だけが強くなるのに必要な要素じゃないんだぞ」

 「........分かった。頑張ってみるよ!!」


 少年はそう言うと、早速俺の言った事を実行しようと空き地を走り始めた。


 まだまだ荒削りだが、彼なりに魔力の扱い方を考えているのだろう。変な癖が付くといけないから、1週間後ぐらいにまた訪れて少しだけアドバイスしてやるか。


 「ふふっ」


 元気いっぱいの少年を見送った直後、後ろから笑い声が聞こえる。


 この上品な笑い方は、黒百合さんのものだな。


 俺が笑い声に振り返ると、黒百合さんは楽しそうに俺を見ていた。


 「仁君、先生みたいだったよ。アイリス団長より教え方が上手だし」

 「あの人と比べたら誰でも教え方が上手いだろうよ。あの人、“考えるな感じろ”の人間だから」

 「アイリスちゃん、教えるのてんでダメだからねぇ。とにかく実践あるのみって感じだったし」

 「一概にそれがダメという訳では無いんだがな。アイリス団長の場合は極端過ぎる」


 そりゃ、シンナス副団長も補佐に来るわけだ。師匠はそこら辺上手かったからな........あの人もまぁまぁ脳筋だけど。


 そういえば、ニーナ姉にまだ生きている事を伝えてない気がする。多分俺が生きてる事は勘づいているだろうが、姿を見せた覚えがない。


 ........うん。まぁいいや。どうせニーナ姉は馬鹿だしガサツだからそこら辺気にしてないだろ。


 「お久しぶりですね。ジンさんカノンさん、イスちゃん」


 ニーナ姉が馬鹿という事を考えていると、教会の方から1人のシスターがこちらへやってくる。


 おっとりとしつつも清楚なマリア司教は、丁寧に頭を下げるとにっこりと笑ってこちらを見ていた。


 やっぱり、モヒカンには持ったいねぇよこの人。見た目もそうだが、教会でそこそこの地位があり人々に親しまれている。


 教会が傭兵ギルドに付いた時も、それだけで冒険者ギルドが“悪”として見られる程には人気があった。


 ........やっぱり、モヒカンには持ったいねぇよ(2回目)


 俺は元気よく俺に飛びついてくる子供の相手をしながら、マリア司教に軽く頭を下げる。


 出来れば離して欲しいが、元気いっぱいの子供に言っても聞いてくれないだろう。こういう時は諦めが肝心である。


 「お久しぶりです。マリア司教。ヌーレは元気ですか?」

 「えぇ、元気が良すぎて少し困るぐらいには元気ですよ。最近は少しずつ言葉も覚えていますし........おそらく異能も発現しています」

 「........!!異能ですか」

 「はい。おそらくですが........」


 ヌーレの異能は特別だ。“千里の巫女”から継承される受け継がれる異能。


 能力がまるまる一緒ということは無いらしいが、それに似た能力が発現するという。


 五歳までに発現すると言われているため、ヌーレが異能を持つことに驚きはない。


 「なぜ異能が発現したと?」

 「本来見えない場所のものが見えていたり、少し前に誰がどこで何をしていたのかを拙い言葉で話していたので。異能以外に考えられないかと」


 なるほど。確かにそれは異能以外では不可能に近い。


 今の話から推測するに、母親が持っていた千里眼の様な能力の他にも何か別の能力も持っているな?多分、過去を見ることができるな。


 あれ?不味くね?


 これ俺がヌーレの母親を殺した事バレるくね?


 別にバレてもいいのだが、1歳半の子供に母親を殺した光景を見せるのはダメだろう。


 「過去を見たとして理解できるのか?」

 「まだできないでしょ。それに、ヌーレは母親の顔を覚えてないだろうしね」

 「ならいいのか........?いや、そもそも母親を奪った時点で良くはないんだがな」


 ワンチャン、ヌーレに物凄く嫌われることになりそうだ。


 俺はそんなことを思いつつ、マリア司教に黒百合さんとラファを紹介する。


 マリア司教は黒百合さんが大天使だと気づいた様だが、無理やり黙らせた。


 この人、神聖皇国との関係も持ってるから、黒百合さんの情報が入ってきてたのか。


 マリア司教が黒百合さんに対して少し及び腰になっている姿は、少しだけ面白かったと言っておこう。

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