傭兵になろう!!(大天使バージョン)

 傭兵と言う身分は結構楽である。冒険者のようにギルドからのノルマも無ければ、仕事をするのも自由。


 それでいながら、街への出入りは傭兵という身分で簡単に通る。


 もちろん、犯罪を犯せば傭兵としての身分は取り上げられるが、それ以外で剥奪されることはほぼ無かった。


 バルサルに辿り着き、門を潜った俺達は人目を避けながら傭兵ギルドへと向かう。


 今や“揺レ動ク者グングニル”の名を知らぬものは居ないた言っても過言ではない。


 特に、世界最強の傭兵団と言われた狂戦士達バーサーカーをフルボッコにしたのを見ているアゼル共和国では、子供ですらその名を知っていた。


 「前に調べた時も思ったが、人気があり過ぎだろ。神聖皇国と同じように、グッズが売られてるとは思わなかったぞ」

 「それだけ私達の人気が凄いって事だね。謎に包まれてる部分も多いし、そこら辺も人気の理由にありそう」

 「さっき子供が私達の服を着てたの。多分ごっこ遊び相手してたの」

 「凄いね。神聖皇国でも、仁くん達の人気は凄かったけどここもかなりの人気があるよ」

 「ほへー。独裁政治を行い、無理やり皇帝バンザイしている国ぐらい人気があるね。違う点があるとすれば、笑顔が本物ってところかな」


 ラファ、もう少しマシな例えはなかったのか。


 戦争が終わり、正教会国側のイージス教が滅んだこの世界にも、もちろん独裁国家は存在する。


 全ては王が決め、王の意志によって国が動くのだ。


 前の世界で言う北朝鮮のような国だな。


 世界を渡り歩いてきたラファの目には、この光景が独裁国家と同じように見えるらしい。


 笑顔が本物。つまり、心の底から俺達の事が好きな事を除けば。


 「首都とかちょっと行き辛いな。神聖皇国と同じく人が寄ってきそうだ」

 「バルサルはそこら辺ある程度弁えてる人が多いもんね。偶にサインとか求められるけど」

 「居心地がいいの」


 民度の高いバルサル。ここを拠点にしてよかったな。


 そう思いながらしばらく歩くと、久々の傭兵ギルドが視界に入ってくる。


 冒険者ギルドと揉めていた時とは違い、監視するような視線は一切無かった。


 中には見知った気配が幾つもある。朝っぱらから飲んでいるダメ人間が沢山いるな。


 俺は傭兵ギルドの扉をバン!!と開くと、視線を集めながらもズカズカとギルド内へ入っていった。


 「よう。久しぶりだな。数ヶ月も顔を出さなかったから心配してたぜ?」


 俺達が入っていくと同時に、部屋の奥で飲んでいたアッガスがこちらへ寄ってくる。


 俺達の面子を見て、無謀にもちょっかいをかけようとしたヤツらはそれだけで大人しくなった。


 「久しぶりだな。アッガス。俺達がそんなに簡単に死ぬタマだと思ってんのか?神聖皇国の戦争に参加してたんだよ」

 「知ってるさ。ここまでウワサは届いてるぜ?なぁ?“黒滅”さんよぉ」

 「ふははは!!昔みたいに超新星ルーキーとは呼べなくなったな!!神聖皇国に付けられた二つ名の方がかっこいい!!」


 そう言って会話に入ってきたのはギルドマスターだ。今日は仕事に追われていないのか、楽しそうに串焼きを口に頬張っている。


 「分かってるじゃないかギルドマスター。まぁ、個人的には超新星ルーキーも悪くは無いと思ってたがな」

 「ははは!!そう言ってくれると嬉しいがな!!んで、久々に顔を出した“黒滅”様はなんの御用で?」

 「この二人を傭兵登録したい。試験をやってくれるか?」


 俺が黒百合さんとラファを指さしてギルドマスターにそう言うと、ギルドマスターの顔が明らかに歪む。


 今まで見てきたギルドマスターの顔の中で、一番嫌そうな顔をしているな。


 「........ジンが連れてきたんだろ?もう合格でいいよ。俺、あんな目に会うのはもう懲り懲りだ」

 「そう言うなよギルドマスター。実力はちゃんと確かめないといけないだろ?アッガスもそう思うよな?」

 「もちろんだ。ギルドマスター、職務放棄はダメですぜ?」


 ニヤニヤとしながらギルドマスターにそう言うアッガスは、明らかに今の状況を楽しんでいた。


 アッガスは知ってるもんな。俺が連れてきた団員にボコボコにされたギルドマスターの姿を。


 そしてギルドマスターは覚えている。子供に近い見た目の団員にボコられたのを。


 「やりたくねぇ........そうだ!!アッガス。お前が試験官をやれ」

 「は?なんとで俺がやらなくちゃならないんだよ」

 「傭兵ギルドの規定では、必ずしもギルドマスターが試験官を務める必要は無いからな。ギルドで信頼と実績のある者が試験官を務めても問題ない!!」

 「いやいや、今までギルドマスターがずっと試験官をやってきただろ!!俺に押し付けんな!!」

 「これはギルドマスターの命令だぞ!!アッガス、試験官をやるんだ!!」

 「嫌だね!!明らかに職務放棄をしようとしてる奴の言うことなんて誰が聞くか!!その理論ならジンやカノンが試験官をやればいいだろうが!!」

 「........それだァ!!」


 ギルドマスターはそう言って俺の方に視線を向ける。


 バカなのかコイツら。いや、馬鹿なんだろうな。身内が試験官なんて不正し放題じゃねぇか。どれだけ試験官をやりたくねぇんだよ。


 「ジン!!お前がやれ」

 「俺は構わんが、いいのか?身内が試験官なんて不正し放題だぞ?仮にもこの街の顔役たる傭兵ギルドが、そんな裏口スレスレの事をやっていいのか?下手したら冒険者ギルドが嬉々として騒ぎ立てるぞ」

 「........こういう時だけは口が回るな。クソっ、いつもの馬鹿なジンはどこに行ったんだよ!!」

 「ジン、こういう時だけ賢くなるな!!いつもみたいにしててくれよ!!」


 お前ら俺をなんだと思ってんだ。今ここでこの二人を叩きのめそうかとも考えたが、どうせ無駄なので放置しておく。


 大体、他の団員と違って黒百合さんは優しいぞ........多分。保証はできないが。


 傭兵ってバカしかいねぇのかと思いつつ、最悪モヒカン呼び出して試験官をやらせるかなんて考えていたその時だった。


 「僕がやりましょうか?」


 後ろで声がした。


 青年のような爽やかな声につられて振り向くと、そこには青髪のクールな青年が手を上げながらこちらへ歩いてきている。


 んー?見覚えのない傭兵だな。誰だこいつ。


 「元冒険者のリレイド。ランクは金級で、冒険者ギルドの前ギルドマスターの息がかかってなかった真面目くんだ。冒険者ギルドの仕事がこっちにも流れるようになってから、傭兵ギルドに来た奴だな。前にお前たちが来た時はまだいなかった」

 「金級か。そこそこ強いな」

 「お前が言うと嫌味にしか聞こえないな」

 「そりゃどうも」


 アッガスがご丁寧に彼の解説をしてくれる。


 へぇ、多分重要人物じゃなくて報告書では弾かれた人だな。腐敗が酷かった時の冒険者ギルドで、腐ることなく真面目に働いていたのは評価できる。


 きっと根っからの良い奴なのだろう。だって全身から良い奴オーラ出てるし。


 「リレイド、お前がやるのか?」

 「はい。信頼はともかく、僕の実力は知っているでしょう?それに、噂の彼らと戦ってみたいですしね」

 「よし、リレイドで決定だ。文句ないよな?ジン」

 「誰でもいいよ。ここにいる連中にはまず負けないだろうしな」


 ギルドマスターはこの際誰でもいいのか、もうリレイド君に試験官をやらせる気満々だ。


 どんだけ試験官やりたくないのよ。


 ちなみに、黒百合さんとラファは話に着いてこれずイスと花音と雑談していた。緊張感の欠けらも無いな。


 下手に緊張するよりはマシだからいいか。

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