嫌われた大天使
今後の対策(対策と言っていいか怪しいが)を考えた俺たちは、その日の内に団員達に自己の強化を命令しておいた。
天使たちの情報を集めることも並行して行うつもりだったのだが、そもそも俺は“天界”と呼ばれる天使達の住処を知らないし、分かったとしても人員を送り込む気にはなれない。
上級魔物である子供達とて、天使の目から逃れるのは至難の業なのだ。
その証拠に、黒百合さんとラファは隠れていた子供達をしっかりと見つけ出している。
もしかしたら、覗き見していたこともバレてたかもな。剣聖や禁忌のように近づかないようには言ってあったから、発見されなかっただけであって。
そんな訳で、天使達との戦いがいつか起こりうる事がほぼ確定しているのだが、それはそれとして俺達はやるべきことがある。
そう。イスが
まだ少しわちゃわちゃしているが、戦争が終わりようやく俺達も落ち着ける環境になっている。
イスが興味を失う前に、学園への入学を決めてしまいたい。
天使への対策が決まってから2日後、俺と花音とイス、黒百合さんとラファの五人は、バルサルに向けて森の中を走っていた。
「首都に行こうと思ってたんだが、黒百合さんとラファも着いてきたいとなると、やる事がまだあるよな」
「ごめんね仁くん。我儘言っちゃって」
「いいよいいよ。イスの遊び相手をしてもらって俺も助かってるからな。遊んではやりたいんだが、俺も花音も仕事があるし四六時中構ってやるのは無理なんだ。他の団員も基本忙しそうにしてるから、イスの遊び相手が少ないしな」
「シュナお姉ちゃんと遊ぶの楽しいの!!氷合戦とか、かなり苦戦するの!!」
「イスちゃんイスちゃん。私は?」
元気よく両手を振り上げて黒百合さんを褒めるイスに、ラファは自分を指さして尋ねる。
イスは先程まで笑顔だったのだが、一瞬で不愉快そうな顔をしながらこう言った。
「ラファは何やっても楽しくない。普通に嫌いだもん」
「嫌われてるな」
「なんでぇ........」
割とガチで凹むラファ。本人的には、可愛くても子供に罵られたりするのは興奮するよりも先にメンタルに来るらしい。
ラファはイスに物凄く嫌われている。理由は幾つか思い当たるが、1番大きい理由としては俺と花音に迷惑をかけているからだろう。
俺としては黒百合さんを天使たちから保護してくれた事があるので割と好意的に見ているが、イスにとってはそんな事どうでもいい話だ。
イスにとっては、俺と花音が重要なのだ。
黒百合さんを守るために、俺達を利用したことが気に食わないそうである。
「ま、まぁイスちゃん?私も悪いんだし........そのー、ね?もう少し優しくしてあげてもいいんじゃないかな?」
「ヤダ。シュナお姉ちゃんは純粋に仲間に入りたがってたし、パパとママも喜んでた。それで天使と戦うことになったとしても、私は許す。でも、コイツはパパとママを利用しようとした。しかもシュナお姉ちゃんにすら黙って。話す気無かったよね?問いかけられなければ、ずっと黙ってたよね?自分の立場を悪くするから。私は好きになれないよ。私はパパとママが許そうが、ラファのことは嫌い」
「ゴフッ........」
あ、ラファが精神的ダメージの末に吐血した。
イスの言ってることも分からなくらない。だが、ラファの立場からすればあれが最善だった。
俺や花音は黒百合さんを守ってくれてありがとうぐらいのスタンスだが、イスの目にはそういう風に映らなかったようだ。
俺達に問い詰められる前に天使共の話をしていれば、また違ったのかもしれないが。
「ジン団長、助けて........」
「俺たちを利用しようとした時点でこうなることは分かってただろ?諦めろ。あぁなると、イスは俺の説得でも首を縦には振らないよ」
「いや、バッシングを受けるのは分かってたよ?でも、かわいい子供から言われるのと魔物に言われることでは違うんだよ........いや、イスちゃんも魔物だけどさぁ」
「んー、残念だけど、私達がどうこうしてあげるのは無理かな。半分は自業自得だし」
小動物のようなつぶらな瞳で俺に助けを求めてくるが、イスはこうなるとテコでも動かない。
少しずつ信頼を取り戻してくれ、としか俺も花音も言えなかった。
ちなみに、ラファはイス以外とはそこそこ仲がいい。天使達と戦うことになる事を話したが、全員“なんだ、いつもの事か”ぐらいの反応だった。
流石は、毎度の如く俺の気分に振り回される団員達。潜ってきた修羅場の数が違うな。
今回の事も“団長がいいよって言うなら言うことないです”と口を揃えて言っていた。
唯一、イスだけがラファの事を快く思っていない。俺や花音が絡むことになると視野が狭くなるのは、イスの数少ない子供らしいところだな。
「ごめんね。私が天使の事を知らないばかりに........」
「気にすんな。天使の文献なんてほぼ無かったんだし、知りようがないだろ。むしろ、ラファと言う生ける天使を連れてきた事がすごいと思うぞ」
「そうだねぇ。ファフニールも流石に朱那ちゃんを仲間にすれば色々と話してくれただろうけど、昔の知識過ぎるからねぇ。その点、ラファちゃんは新しめの情報だから対策も立てやすいよ」
「新しめ(数千年前)」
「時間感覚バグってるねぇ........長生きしすぎると時間感覚バグるのは魔物も天使も共通なのかな?」
人間も歳を喰うと時間感覚がバグるし、似たようなものだろう。
小学校の頃は“最近(1週間前)”とかだったのに、おじいちゃんとかになると“最近(5年前)”とかザラにあるしな。
そりゃ、何万年も生きてきた厄災級魔物のちょっとが100年単位になる訳だ。
その基準で話されると困るからやめて欲しいが。
「歳は取りたくないもんだ」
「まだ20ちょっとの私達が言うセリフじゃないけどね」
「そうだな。人生百年時代........って言うか、この世界の平均寿命っていくつなんだ?」
「さぁ?教皇のおじいちゃんとか80すぎてるし、そんぐらいじゃない?まぁ、戦争の影響でめちゃくちゃ年齢が下がってると思うけど」
「それを言うなよ。まだ人生の4分の1が終わったぐらいか。先が長ぇな」
「ずーっと2人で一緒にいようね」
「そうだな」
俺はそう言うと、バルサルの城壁を視線に捉えるのだった。
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〜その後ろで〜
「なんかイチャついてるね」
「いつもの事なの。私の入り込む隙は無いの」
「イスちゃんも大変だね。私が話してる時も2人だけの世界に入ることあるし」
「イスちゃん、私が相手になってあげますよ?」
「煩い黙れ。話しかけるな」
「グハッ........」
勝手にイスに突撃して、勝手に自爆するラファエルであった。
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