日和見主義
女王様黒百合朱那のインパクトが強すぎたその日、俺と花音、そしてラファや厄災級魔物達を加えた数名で今後の対策を練ることとなった。
ラファ曰く、そのツテとやらであと2年は天使達は動けないらしい。
一体どんな手を使ったのか気になるが、本人が教える気が無さそうなので詳しくは聞かなかった。
天使を抑えられるだけのツテとか絶対にヤバいやつである。既に話は終わっており、俺ではどうしようもないので気にしないことにした。
「先手をとって殴りに行くのは?」
「その案は賛成だが、今はやめておいた方がいいな。団長殿や副団長殿と言えど、
俺の出した案にファフニールは賛成しつつも僅かに反対する。
最年長者であり、天使の強さを正確に知る数少ない魔物だ。普段は好き勝手やって迷惑をかけたりもしているが、今は真面目モードである。
「そんなに強いのか」
「強い。タイマンならば団長殿も余裕で勝てるが、奴らはそれなりに連携も取れる。
「変わってないね。七番も変わってない」
ファフニールはその話を聞くと、少し考えた後結論を出した。
「やはり、今の戦力では少し厳しいところもある。雑魚の天使も数が多い。そこそこの強さを持っているから厄介だ」
「勝てないってことか?」
「勝てはする。だが、大きな怪我を負うリスクが高い。我やウロボロスはともかく、リンドブルムは相性が悪いしな」
「むぅ、余裕と言いたいけど、あたしの力は確かに天使には相性が悪いね。余裕で勝てるけど」
少し頬をふくらませるリンドブルムは、その白銀に輝く翼をパタパタとはためかせる。
俺は、その白銀の翼が赤く染るところを見たくない。
「意地を張るな。貴様、言っていたではないか。数百近い天使共の戦った時に傷を負ったと」
「うぐっ!!あ、あれは天使共が卑怯な手を使っただげであって──────────」
「ふはははは!!リンドブルムも所詮は小娘と言うことだな!!お主は拠点で縮こまっていれば良いだろう?その間にワシが全て終わらせてやるわ!!」
頑張って言い訳をするリンドブルムの言葉に割って入ったウロボロスは、盛大に笑いながらリンドブルムをバカにする。
いつもの見なれている光景であり、コレにリンドブルムがキレて言い争うまでがワンセットだ。
「あ?その前にテメェの生命活動を終わらせてやろうか?クソジジィ」
「やれるもんならやってみろ。お主の降らす雨など小雨にもならぬわ」
「あ゛ぁ゛?殺すぞ。回るだけが取り柄の蛇が」
「今ここで殺るか?石を降らせるだけの小娘が」
お互いを渦巻く殺気。だが、そこに本当の殺意は無い。
俺達はそれが分かっているから平然としているが、このやり取りを初めて見る
「と、止めなくていいの?」
「いいのいいの。何時も二人はあんな感じだから」
「そうそう。それに、こういう時に止める魔物もいるしね」
花音がそう言うと、2人が発する殺気よりも濃い怒気が後ろから現れる。
ゴゴゴゴと、どこかのスタンド使いが発しそうな効果音をリアルで出しながらその魔物はウロボロスの頭に見えない何かを打ち下ろした。
ゴン!!と、思わず顔を顰めたくなる程痛々しい音が拠点に響き渡る。
あれ、人に打ったら即ミンチだな。
地面に沈んだウロボロスは、その鱗に冷や汗をかきながら恐る恐るある魔物に視線を向けた。
「あ、アスピよ........」
「ウ、ロ、ち、ゃ、ん?リンちゃんに何喧嘩売ってんのかなぁ?この前言ったよね?仲間内での喧嘩はダメだよって」
「い、いや、コレはそのー、予定調和と言うかなんと言うか........」
「正座」
「い、いや、前も言ったがワシ、足なんてない──────────」
「せ・い・ざ」
「はい........」
あのウロボロスが完全に尻に敷かれている。
あの島にいた頃を知っている俺たちからすれば、かなり異様な光景だな。何度観ても慣れない。
「ウロちゃん、どう頑張ってもアスピちゃんには勝てないよね」
「惚れた弱みってやつなのかもな。見ろよ。全員の目が生暖かいぞ」
アスピドケロンに説教されるウロボロスを見ている魔物たちの目は、近所の子供を見守るおばさんのように優しかった。
つい先程まで険悪なムードで言い合いをしていたリンドブルムですら、優しい目をしている。
「ウロボロスは一生アスピドケロンには勝てないな」
「そうだね。アスピちゃんの説教は長いし、私達だけで話を進めようか」
その後、それぞれがさらに強くなってから天使達に攻撃を仕掛けることが決まった。
数は明らかに天使側が有利であり、一対多を強いられる事は目に見えている。俺達は、天使を数百体相手にしても1人で勝てるだけの力を手に入れるのを目標に、この2年間を修行することになった。
まぁ、黒百合さんがこの生活に慣れてないし、イスの学園やらなんやらやる事があるので少しゆっくりするぐらいがちょうどいいだろう。焦りは禁物だ。
まずは“
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天界。
人々にそう呼ばれる空の陸地では、天使と呼ばれる自称“女神の使徒”が住んでいた。
その中でも
「
「
「いや、それは無いだろう。そんなことをすれば、下の天使たちの反感を買う。彼女は天使の代表として魔王と戦ったのだ」
「では、放置するのは?」
「それも無理だ。私はいいと思うぞ?我々の持つ天使の力は、本来この世界で散った天使たちの物だ。あくまで我々はその力を受け継ぎ使命を代行するため。基本は自由だ。どこで何をしていようが、勝手さ」
「ならなぜ?」
「五番、六番、七番派閥がそこら辺を勘違いしている。まぁ、五番と六番は比較的新しい天使だし、天使が“女神の使徒”と勘違いしているのも仕方が無いがな」
「それが最大派閥なんだから嫌になるねぇ」
「こうなるなら我らも派閥を作るべきだったな。様子見が過ぎた」
大天使の1人がそう言うと、もう1人の大天使がつまらなさそうに欠伸を噛み殺す。
「いっその事俺達が始末するか?」
「やめておけ。我もお前も基本は流れに身を任せるタイプだろう?こういう時に動くと、大体ろくな事がない」
「........あーうん。無いな」
大天使の1人は何かを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔で頷く。
今まで何度か動いてきて、まともだった事など1度もなかった。
「我らは動かん。たとえそれで死んだとしてもな」
「だから日和見主義なんて言われるんだぞ」
「ハッハッハ。間違ってないだろ。我らは昔から見てるだけだ」
大天使はそう言うと、天井を見上げて大きくため息をついた。
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