パンドラの箱........?
天使との対決がほぼ決定事項となった翌日。
俺と花音は、
黒百合さんは徹夜で飲んでいたのでまだ熟睡中。ラファも二日酔いで死ぬほど顔色が悪いが、そんなことは関係ない。
「オエッ........それで、穏やかじゃない面子だけどなんの用?」
「分かってんだろ?俺達を利用して天使とドンパチやらせる気だろ。正直に吐いた方が身のためだぞ」
若干殺気を飛ばしつつ、俺は脅す口調でラファに話しかける。
ラファも俺や花音、更にはウロボロスやファフニール、ニーズヘッグにアスピドケロンと言った面子を見て自分の置かれた立場を理解したようだ。
「ちょっとだけ待って。このままだと吐くから。今からするのは敵対行為じゃない事を先に伝える」
「........?」
何を言っているのか分からず一瞬首を傾げたが、その答えは直ぐに分かる。
ラファから僅かに魔力が漏れ出したのだ。
俺は即座に攻撃態勢に移ったが、敵意が無い。
1秒もすれば、魔力は収まり昨日の酔っ払う前のラファがそこには立っていた。
「やっぱり二日酔いは堪えるね。酒は程々にしないと........」
「今のがお前の異能か」
「お、正解。流石はジン団長。一回見ただけで見抜けるんだね」
魔力の動きからして、おそらく自己治癒系の能力。ロムスから教わった、エルフの秘術と言われているらしい魔術と同じような魔力の動き方をしていた。
どれほどの物を治せるのかは知らないが、相手は大天使。黒百合さんと同等の出力を持っているに違いない。
俺は攻撃態勢を維持しつつも、質問を繰り返した。
「で、天使共と俺達を戦わせる気だな?」
「んー、極論を言えばそうなるね。私にはその気が無くとも、向こうは仕掛けてくると思うよ」
「........どういう意味だ?」
俺達を利用したい訳じゃない?
話が見えてこないな。
“詳しく話せ”と言う前に、ラファは勝手にひとりで語り始めた。
「私はね。天使が嫌いなんだよ。昔、私がこの異能を発現させた時に天使が現れてね。当時は........まだ5歳に行かない程度だったかな?その頃なんて親と一緒にいたいでしょ?」
「まぁ、人によるだろうが、多くの子供はそうだろうな」
俺もそのぐらいの歳の時は、親とよく一緒にいた。花音の方が一緒にいた時間が長かった気もするが。
「私、お父さんとお母さんの事が大好きだったからさ。離れたくなかったんだよ。でも、あの
「それで?」
「それからは苦痛の日々。天使は何たるかを教えられたけど、そんなことどうでもよかった。んで、大きくなって自由に出歩けるようになってから両親の元に行ったんだけど........そこには誰もいなかったんだよね。村は既に魔物に滅ぼされてたんだよ」
なるほど。それは天使の事を嫌いになりそうだ。
俺は同情はしつつも、警戒を緩めない。
その言葉が本当なのは表情や話の抑揚から何となく分かるが、彼女が演技の天才かもしれないからな。
「それで敵討ちを?」
「いや、それはもういいの。1度やった事はあるしね。でも、天使って死ぬと他の子がその異能を受け継ぐんだよ。異能の発現時期は知ってるでしょ?」
俺は無言で頷く。
異能の発現歯この世界に生まれ落ちてから5年以内。俺が最初から異能を持っていなかったのも、コレが原因だと考えられる。
俺が頷いたのを見て、ラファは話を続けた。
「そうなれば、私のような子を量産しちゃう。それに気づいてからは、天使殺しは辞めたよ。今の体制をひっくり返せるほどの力は私には無いからね。できたのは、新しく天使になった子の親代わりをしてあげることだけ。でも、
天使も随分と人間くさい。僅かな文献にあった天使のイメージとは、かなりかけ離れている。
異物の排除。
やっている事は人と何ら変わりない。
「堕天させられる事はなかったんだけど、私はもう天使とは絡みたくなくてね。そうしてフラフラと世界を旅してたんだけど、ある日異世界から魔王を討伐されるために来た人々がいると耳に挟んでね。しかも、その中に大天使の名を持つ者が居るとなれば、興味を持つでしょ?」
「それで?」
「接触しようと思ったのだけれど........他の天使たちの目があってねぇ。とりあえずは遠くから見てることにしたのよ。シュナちゃんと話せたのは魔王を討伐し終えてから。大変だったよ。いやホントに。天使共は直ぐに動き出そうとするから、数少ない伝手を使って動きを止めて貰っている間に接触。そして、保護したの」
「保護だと?」
「天使からね。あの子は天使の色に染っていない子。あんな可愛い子をドブ色に染める訳には行かないでしょ?」
「天使が動き出そうとしたってどういう事?」
これまで静かに聞いていた花音が口を挟む。確かに天使共が動き出そうとしたという部分は疑問だな。動くなら最初から動けばいいのに。
「今の天使は“女神の使徒”。女神イージスの願いである“魔王討伐”に選ばれた“
「なるほど........?確かにそれなら筋は通るか」
女神イージスの使徒である(設定)の天使が、女神の意思に背く事はできないという訳だ。
ラファの言い方からして、他の要素も絡んでいる気がするが。
「急いで接触したんだけど問題もあってね。私一人ではシュナちゃんを守れない」
「それで俺たちの所に逃げ込んだというわけか。厄介事を抱えながら」
「そういうこと。シュナちゃんが絡めば貴方達は間違いなく天使達から守ってくれる。それでいて、天使共と戦っても勝てるだけの力がある........だからお願いします。シュナちゃんを守ってください」
ぺこりと頭を下げるラファ。
最後の言葉に偽りはなかった。
「なんでそこまで黒百合さんに肩入れを?過去の罪滅ぼしか?」
「あ、仁、それは........」
花音がなにか言おうとする前に、ラファが答える。
その顔は赤く染まり興奮しているように見える。なんだろう。物凄く今の質問を後悔している自分がいる。まだ答えを聞いていないのに。
「シュナちゃん、すっごく可愛いんだよねぇ。私の好みど真ん中。しかも、S気があるし女王様が似合いそうでしょ?実際、凄く凄いんだよ?才能の塊。本人もすっごく楽しそうだったし........もう、アレを味わったら他に戻れないぐらいに凄いんだよ。あぁ、お姉様の事を考えたら頭がどうにかなりそう........」
ねっとりとした声。あまりにも粘り気が強すぎて、耳が窒息してしまいそうだ。
凄く凄いとか語彙力ゼロかよ。いや、詳しく話さなくて結構です。
一気に緩んだ空気と、なんとも言えない顔になる俺達。
人の趣味嗜好に何か言うことはしないが、黒百合さん、色々と拗らせすぎて性癖まで歪んだのか。
「花音、前にラファの耳元で黒百合さんが何か言ってたのに引いてたのって........」
「うん。朱那ちゃんが女王様になってたからだね。“調子に乗りすぎだよ?後でお仕置ね”って言ってたのが聞こえちゃったね。しかも、まぁまぁドスの聞いた声で」
「........この事は触れないでおこうか。人には触れられたくないこととかあるしな」
「あー、仁も──────────」
「花音、シャラップ」
俺は無理やり花音を黙らせると、ラファに視線を向ける。
信用してもいいかな。黒百合さんを守りたいのは本心だろうし、黒百合さんになにかする様な真似をしなければ裏切ることもないだろう。
俺はパンドラの箱を開けた気分になりながら、天使との戦争に備えるためにするべきことを頭の中で考えるのだった。
........ダメだ。女王様のインパクトが強すぎて頭が回らねぇ。
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