歓迎会
拠点へと帰ってきた俺達は、予定通り歓迎会を開くことになった。
既にアンスールやシルフォード達が準備をしてくれていた為、黒百合さん達が拠点を訪れると同時に歓迎会の開始だ。
「貴方がクロユリさんね?私はアラクネ。アンスールという名前があるから、それで呼んで欲しいわ」
「分かったよ。よろしくねアンスールさん。私の事は朱那って呼んでくれればいいから」
「わかったわ。よろしくね。シュナ」
黒百合さん達には、既にどんな魔物がいるのかを話している。
黒百合さんもラファも魔物に対して敵対心は無いので、驚きこそすれど殺気を見せることは無かった。
イスのドラゴン状態を見て2人とも“かっこいい!!”と言って興奮するような人だからな。意思疎通が出来る魔物には割と好意的なのだろう。
2人が魔物たちの自己紹介をしている間、俺はファフニールと話していた。
「知ってたな?天使が“女神イージスの使徒では無い”って事」
「もちろん知っておる。我が知らぬのはここ数万年の世界の動きぐらいだからな」
「........あぁ、あの島にいた頃か」
「あそこは本当に退屈だった。寝る食う、他の魔物と話すぐらいしかやることが無くて困る。本当に感謝しているぞ」
「それは良かった。そう言われると、一緒になって出てきた甲斐があったな。それで?なんで言わなかったんだ?」
「言う必要が無いのと、この世には知らぬ方がいい事があるからの。団長殿に意地悪をしている訳では無いぞ?我が話してもいいと判断したところは、ちゃんと話している」
「つまり、俺や花音が天使の真実を知ると面倒事になると判断した訳だ」
「まぁ、そういうことだな」
それってつまり、今から面倒事が起こるっていう事だな?
知らなければ良かった話を、知っちゃったんだし。
別に言いふらすとかは考えていないが、天使にとっては知っている事その物が不都合になる場合もあるだろう。
アレ?もしかして今度は天使とドンパチやらかす可能性が出てきた?
「なぁ、ファフニール。もしかして天使が口封じとかしに来る可能性があったりする?」
「あるだろうな。良いでは無いか。女神様の使徒ではない天使共など、いくら殺しても文句は言われん」
そういうファフニールの顔は、明らかに楽しそうだった。
もう6年近く一緒にいると分かる。この顔は、絶対楽しいと思ってる。
俺は脳裏に浮かんだ嫌な推測を、ファフニールに恐る恐る尋ねた。
「........おい、ファフニール。お前俺が天使を仲間にするって言った時何も言わなかったのって........」
「ふはははは!!なんの事かさっぱりだな!!イヤイヤ、十数万年前にちょいと天使と揉めた訳では無いぞ?ウン。決して今の天使に八つ当たりしたい訳では無いからな!!」
や り や が っ た 。
確信犯だよコイツ。十数万年前の恨みをここで晴らそうとしてるよ。
うわ、絶対面倒になるじゃん。天使との戦争有り得るじゃん。
やっと世界戦争を終えたと思ったら、今度は天使と全面戦争ですか?やりたくねぇ。と言うか、めんどくせぇ。
天使のやり方によっては、俺達が新たな魔王としてこの世界に君臨する羽目になる。
それはそれで楽しそうではあるが、だからと言って率先してやりたい訳では無いのだ。
「ちなみに、ニーズヘッグ辺りも同じような考えだぞ。多分リンドブルムもな」
「ファッキンクソッタレ。お前ら、俺の苦労は勘定に入ってるのか?」
「ふははは!!団長殿が
「んで、苦労は勘定に入ってるのか?」
「もちろん入っておらんな!!」
黒百合さんを仲間にする時点で定められた運命とは言え、俺はファフニールを1発ぐらい殴っても許されると思うんだ。
まぁ、俺も恨みを晴らすためにファフニール達には苦労をかけたと考えれば、おあいこだが。
俺は握った拳を収めると、ファフニールの頭の上に乗る。
最初であった頃は背中にすら乗せてくれなかったのだが、今となっては椅子感覚で座らせてくれた。
「それにしても、天使は随分と恨みを買うのが上手いな。下手したら俺らより買ってるんじゃないか?」
「買っているだろうな。我はついで程度だが、中には天使を殺すためだけに生きる者も多いだろう。無論、この傭兵団の中にはおらぬだろうがな」
「居たら困る。そしたら今頃ここは戦場さ」
俺はそう言いながら、厄災級魔物達と仲良く話す黒百合さんとラファを見る。
黒百合さんは天使初心者なので、こうなることは分かってなかっただろう。だが、
「黒百合さんを利用していると思うか?」
「クロユリ........あぁ、
「あぁ。場合によっては、
「ふはは。我が団長殿は相変わらず恐ろしいな。少しは利用しているだろう。だが、やり方がまどろっこしい。それこそ、無理やり
「俺たちと戦争がしたいならもっと簡単なやり方があるわけか」
「そうだ。案外、奴は味方かもしれんぞ?それこそ、天使に深い恨みを持つ者なのかもな」
「........勘か?」
「長年生きてきた者の勘だ」
ファフニールの勘はよく当たるからな。年の功と言うべきか、ファフニールの洞察力から来る推測はバカに出来ない。
「仕方ない。本人に直接聞くか。ファフニール、万が一に備えてウロボロスとアスピドケロンにも話を通しておいてくれるか?」
「あいわかった。今回ばかりは軽率だったな。我としては楽しいが」
「勘弁願いたいぜ。ホントに」
俺はファフニールの頭から飛び降りると、ギャーギャー煩い歓迎会の方に戻る。
酒を飲んで少し頬を赤くした黒百合さんは、俺に気づくと満面の笑みでこちらへ寄ってきた。
「アレ?仁くん戻ってきたんだ。あ、今は団長さんって呼んだ方がいいかな?」
「仁でいいよ。流石に同級生に“団長”呼びされるのはむず痒いからね」
「そっか」
黒百合さんはそういうと、ジョッキに入ったワインを一気に飲み欲した。
マジかよ。それ、かなり強い酒のはずなんだけど。
「えへへー。こうして誰かと楽しく飲むことって滅多になかったから嬉しいよ。ラファちゃんも楽しそうだしね」
「そりゃ良かった........が、大丈夫か?そんなペースで飲むと潰れるぞ?」
「大丈夫!!私、結構お酒には強いから!!」
そう言った黒百合さんは本当に酒に強く、豪酒である吸血鬼夫婦と朝まで飲んでいた。
酒の味もわかるそうで、吸血鬼夫婦からはとても気に入られたそうな。
尚、それに付き合わされたラファは、二日酔いで死ぬほど顔色が悪かった。なんと言うか、大変だね。君も。
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