超金持ち
その日、俺達は神聖皇国の大聖堂に顔を出していた。
ようやく黒百合さんが正式に俺達の仲間になると言うのに、俺も花音もイスもその顔は暗い。
何故かって?
黒百合さんと
「有名になったとは言え、あそこまで人が寄ってくるとは思わなかった。芸能人が変装する理由が真の意味で分かった気がする」
「コミケよりも酷かったねぇ。死ぬかと思った」
「人、人、人........うっぷ」
神聖皇国と正教会国の全面戦争。世界中を巻き込んだ戦争似て、俺達はあまりにも目立ちすぎた。
その英雄譚とも取れる歌は兵士達の間で広がり、次第に民間人にも広がっていく。
元々“影の英雄”と言われていたのだ。あの時は多少人が寄ってくるだけで済んだのだが、歌にもなればその英雄を一目見たいと溢れんばかりの人々が押し寄せてきたのだ。
全身黒のローブ。その背中に描かれた特徴的な逆ケルト十字。白の中に刻まれたルーン文字の仮面。
こんな目立つ格好をしていれば、そりゃ人も寄ってくるだろう。
始めは休日だった兵士が俺達には気づき、話しかけてきたので対応していたのだが、兵士が話しているのを見て本物と確信した人々が次から次へとよってくる。
正直、剣聖と殺し合うよりも怖かった。
だって目がキマってるんだもん。
街な大通りが通行止めになるほど集まった人の数は、およそ数百人。途中で見回りをしていた兵士さん達が助けてくれなかったら、俺達は人混みの波に飲まれて居たかもしれない。
下手に突き飛ばしたりとかも出来ないから、余計にタチが悪いな。
そんな事があったため、俺達の顔色は死ぬほど悪かった。
元々人混みがあまり得意では無いイスに限っては、今にも吐きそうである。
普通に歩くのも辛そうなので俺が背負っているが、大丈夫なのかコレ。
「今度来る時は、変装するかエドストルを連れてこよう。アイツの異能なら何とかなるだろ」
「それよりも、ドッペルに認識阻害の魔道具を作って貰った方がいいと思うけどね。もうすぐでしょ?エドストルの腕が出来上がるのは」
剣聖との戦いで左腕を失ったエドストル。彼の左腕はドッペルが義手を作っているのだが、これがとんでもないスペックを叩き出しそうなのだ。
厄災級魔物達の素材を使っているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、だとしてもオーバースペックである。
多分、左腕からビーム打てるぞ。アレ。
「絶対、作ってもらうの........人混みは懲り懲りなの........おえっ」
「イス、吐くなよ?もし吐くなら背中から降りてくれよ?」
「大丈夫なの。吐くならあっちの世界で吐くから」
さすがに我が子とは言え、背中に吐瀉物をかけられて喜べる程俺は人間できていない。
え?親は子供の全てを受け入れるべきだろって?
無理難題がすぎるだろ。
そんなこんなでようやく辿り着いたいつもの部屋には、既に先客がいた。
「お。これはこれは“黒滅”さんじゃないですか........大丈夫か?すげぇ調子悪そうだけど」
「よう。剣聖にフルボッコにされたあと、アイリス団長に泣き付かれた龍二君。有名税を支払ったら、こんな有様だ」
「おい待て、何でそれを知ってんだよ」
そりゃ、報告書で読みましたからね。
イチャイチャの詳しい事までは知らないが、乙女になったアイリス団長に泣き付かれ、戦争が終わった後宜しくやっていたのは知っている。
黒百合さんが聞いたら発狂しそうだな。
俺は調子の悪いイスをベッドに寝かせると、久しぶりに会う親友に話しかけた。
「最近はどうだ?」
「どうもこうもねェよ。ようやく戦争が終わって一段落したが、魔物の脅威や犯罪者の脅威は去ってないんだ。見回りしながら戦ってるよ」
「そりゃすげぇ。俺達は暇で暇で仕方がないってのに」
「お前も少しは働けよ。仮にも傭兵団の長だろ?仕事ぐらい自分で取ってこい」
「生憎、働かなくてもやって行けるだけの金はあるんでな。聞くか?貯金残高がいくら有るか」
「........幾らなんだ?」
ゴクリと唾を飲み込みながら真剣な顔をして聞く龍二。
こういう所はノリが良くて助かるな。
「白金貨5万枚」
「........ん?ごめん聞き間違え他かもしれないから、もっかい言ってくれる?」
「白金貨5万枚」
「........すまん、最近は耳の調子が悪くてな。もう1回言ってくれねぇか?」
「白金貨5万枚」
「........ごめんやっぱい聞き間違え──────────」
「聞き間違えじゃないよー」
何度も聞き返す龍二に、花音はとどめを刺す。
俺と花音の顔を見て、嘘を言っていないと察した龍二は顔を真っ青にしながら日本円に計算し直していた。
「ご、ごちょうえん........お前、この世界の全てを手に入れようとでもしてる?」
「誰が“
大体、5兆あっても世界の全てを手に入れるのは無理だろ。
だったら団員動かした方が早いわ。
口をあんぐりと開けて固まる龍二、俺は追い打ちをかけるように白金貨を取り出して龍二に放り投げてやった。
「やるよ。1億なんて端金だ」
「うっわ。すげぇやな奴じゃん。金銭感覚バグったか?」
「いや、1億は大金だと思うぞ。俺も花音も金銭感覚は庶民だ。少し緩くなっているかもしれんがな」
「この前、パンが高いって言って値切ってたもんね。大量に買うから安くしろって」
それ、戦争が終わった後に暇つぶしでよったよく分からん街のパン屋の話だね。
コッペパンみたいなのが1個銅貨8枚はさすがに高い。800円だぞ。
美味しければ別だが、普通に庶民が買うようなパンだったし。
「俺なんて月金貨1枚と大銀貨5枚だぞ。貯金もしてるけど、それでも大金貨数枚程度だからな」
「めっちゃ高給取りじゃねぇか。お前、そんなに偉くなっのか?」
「一応、異能師団の中ではトップスリーの役職だな。ウチは実力主義だし」
日本円にして月収150万。クッソ高給取りだろうが。年収1800万だぞ。
神聖皇国の物価から見て、相当豪勢に金を使っても問題ないはずだ。
まぁ、ウチの傭兵団の月収大体700億近いけど。
一体どこからこれだけの金を集めてきているのだろうか。子供達には本当に頭が上がらない。
最近ウチの傭兵団は給料制は意味をなくしている。もう、必要な分だけ金庫から持ってっていいよとやっているのだ。
一応、給料も上げてはいるが、一向に減らないしな。
戦争が終わっ後、吸血鬼夫婦が酒を爆買いしても金庫の中身は少しも減らなかった。
「一体どうやってそれだけの金を手にしてんだ?もしかして、やべー事やってる?」
「ある意味ではそうかもな。犯罪的組織の資金をまるまるパクるのがヤバいっ言うなら、ヤバいだろ」
「イカれてんだろ。命がいくつあっても足らねぇよ」
龍二は俺や花音がカチコミをかけていると思っているようだが、実際は子供達がこっそり盗み出しているだけ。
この前、幾ら盗み出したのかを聞いたら白金貨8枚分(8億)とか言ってやがった。
俺は、改めて子供たちとベオークに感謝しつつ、人混みによって削られた体力と精神を回復させるのだった。
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