仮初の平和
戦争後の情勢
戦争が終結し、国のために戦った英雄達の凱旋が終わってから早一ヶ月。
イージス教を統一した神聖皇国は、実質上世界の覇者と成り上がった。
聖王国と大帝国は王位やら帝位やらの争いが表面上に現れ始め、大きく国力を損なうことになるだろう。
そうなれば、自然と神聖皇国との力関係が大きく傾くはずだ。
「神聖皇国は想定よりもかなり戦争の被害を抑えれたんだな。道理で教皇の爺さんが喜んでいた訳だ」
「戦争後の疲弊を突いて聖王国や大帝国が攻めてくる心配も無いし、例え攻めてきたとしても何とかなるもんね」
「俺達と言う切り札を手にしてるからな。その気になれば、今すぐにでも国を滅ぼせちまう」
いつもの聖堂でのんびりと報告書を読む俺と花音は、二人して大きな欠伸をしながら眠い眼を擦る。
戦争が終わってからは、各国の状況を事細かに調べる必要が無くなった為、報告書の量は落ち着いていた。
それでもそこそこの量があるのだが、いちばん忙しかった時期に比べれば大した事ない。
夏休みの宿題と冬休みの宿題ぐらいの差があった。
........そういえば、学校の場所によって夏休みと冬休みの長さが違ってたよな。北海道は冬休みが長く、沖縄は夏休みが長い。
俺が住んでいた場所は夏休みの方が長かった為、夏休みの宿題の方が多かったが、北海道とかでは冬休みの方が宿題は多いのだろうか。
そんな下らないことを考えながら、俺は報告書に目を通していく。
「神聖皇国は新たな教皇を決める準備。聖王国と大帝国は王と皇帝を選ぶ為の争いがスタート。んで、亜人連合は種族を纏めるために天聖が動き始め、合衆国は国力をつけるために制度の見直し。獣王国は白色の獣人の迫害を無くすために獣王が奔走し始め、大きな戦力を失った大エルフ国とドワーフ連合国は新たな英雄探しか」
「どの国も忙しそうだねぇ。その隙を見て中小国は大国に成り上がる為に戦争を仕掛けようか様子見してるし、イージス教が国教ではない国ではイージス教を敵として見なす動きも始まってる。今度は中小国の戦争がメインになるのかな?」
「俺達の世界でも第二次世界大戦が終わっても尚戦争を続ける国があるんだし、全く戦争のない世界は作れないだろうな。国の数が半分近く減ったとは言え、まだ300以上もあるんだ。戦争はどこかしらで起こっているだろうよ」
中には正教会国のイージス教を引き継いだと言う国まで現れている。
正教会国とその同盟国達が辿った末路を見て、そんな幻想を言える辺り頭の中はお花畑でいっぱいだな。
その頭の悪さに尊敬の念まで出てくるぞ。
「アゼル共和国はあのお爺さんの後継者を探し始めてるね。アゼル共和国も大きく変わりそうだよ」
「あのジジィもいい年してるからな。そろそろポックリ死んでも可笑しくない。後継者探しも始まるだろうさ。と言うか、今の今まで探してないのがおかしい」
アゼル共和国一の権力者であるブラバム・ド・ラインヘルツ。年齢は既に80を超えており、いつ死んでもおかしくはなかった。
今から後継者を探して見つかるものなのか?とは思うが、自分の派閥から探すのだろう。
あのジジィの事だ。きっと既に何人か目星は付けている。
一応ホームとしている国なので動向は逐一監視してはいるが、特に手を出すという事はしないつもりだ。
リーゼンお嬢様が絡む事となれば、借りもあるので手を出したりもするが、あのジジィ関係はスルーするつもりである。
あのジジィには貸しが1つあるのだが、別に無理に使おうとする必要は無いしな。権力だけなら、ブルーノ元老院から貰った物だけでも十分にあるし。
「アゼル共和国の周辺国家も大人しいから、しばらくは本当に暇になりそうだね。イスの学園ぐらいかな?忙しいのは」
「イスの学園に関しても特に何かやる必要はなさそうだけどな。入学試験も無いに等しいし、金は腐るほどあるし。問題があるとすれば、見学の時にイスが飽きないかどうかだな」
「イス、興味が無くなって飽きると二度と関心を持たないからねぇ」
「遊びとかならともかく、相手は学園という学び場だ。イスの優秀すぎる頭だと、幼稚な遊び以下に見えるかもしれない可能性があるからな........」
学園が始まるのはあと二ヶ月後。戦争があった為入学が伸ばされていたらしいく、戦争に参加していた教師が亡くなったりもしたので色々と忙しそうであった。
既に授業を再開しているところもあるが、新入生が入ってくるのは2ヶ月後である。
それまでにリーゼンお嬢様に話を通して、見学会に参加しなければ。
時間はまだあるのでゆっくりしていて大丈夫だが、少なくとも一ヶ月前には見ておきたいな。
「リーゼンお嬢様は経営が忙しそうだ。11歳にして経営者とかスゴすぎるけど」
「戦争の影響で、物価が上がっちゃったからねぇ。リーゼンちゃんが経営してる料理屋も打撃を受けてるみたいだよ」
「それでも余裕で黒字が出てる辺り、流石としていえないけどな」
これだけ優秀なのだから、学園に通っても学べるものは殆どないだろう。だって、やってる事が大人よりも凄いんだもん。
経営に関してはよく分からないが、大人が経営してる店とかは普通に赤字になっているところも多い。
戦争の影響と言えばそれまでだが、その中でちゃんと黒字を維持できるのはリーゼンお嬢様の手腕によるものだろう。
今度褒めてあげよう。特別に、異能の鍛え方でも教えてやるか。
ファフニール直伝のやり方だ。俺も花音もこの鍛え方で異能の出力が上がったので、間違いないだろう。
リーゼンお嬢様。俺や花音に褒められるのがかなり嬉しいみたいだしな。
カエナル夫人が羨ましそうに話していた。
“私が褒めてもあそこまで喜ばないわよ。羨ましいわ”と。
多分、お世辞じゃなくて本心で言っているのが分かるんだろうな。カエナル夫人も本心で褒めてはいるのだろうが、親から褒められるのと師から褒められるのとでは話が違う。
「他は特に何も無いか。しばらくは俺達には関係する厄介事は起きなさそうで何よりだな」
「1つあるとすれば、朱那ちゃんとそのお仲間かな?朱那ちゃんはともかく、そのお仲間さんを見てないからねぇ」
「あのポンコツ黒百合さんと仲良くなれるんだから、変人だろうな。聞いた話だといい子らしいが」
「えーとなんだっけ?確か
俺でも知っている有名な大天使。その1人が黒百合さんと仲良くなって俺達の仲間に入るという。
危ない人には直感が働く黒百合さんの事だ。多分その
だが、何となく面倒事になりそうだなという直感だけは残っていた。
まぁ、既に受け入れるとは行ってしまったので今更“ダメです”とは言わないが。
「さて、そろそろ迎えに行くか。黒百合さんも待ってるだろ」
「朱那ちゃん元気かなぁ」
報告書を見終えた俺と花音は、黒百合さんを迎えに行くために席を立つ。
今日は歓迎会だ。美味い飯をたくさん用意しておこう。
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