崩れ始める世界

 戦争が終わり、仮初の平和が戻ってきた。


 今後、パワーバランスが崩れたこの世界がどうなるのかは知らないが、少なくとも今回程の戦争が起こることは無いだろう。


 全世界を巻き込んだ世界大戦は終結したのだ。


 11大国と呼ばれた時代は終わり、今後は神聖皇国を中心に世界は回っていくことだろう。それがいい事かどうかは俺には分からない。


 11から8にまで減った大国、さらにその内2ヶ国は膨大な戦力である灰輝級ミスリル冒険者を失っている。


 今後、この戦争で力をつけた中小国が大国になり変わろうとするかもしれない。


 が、俺達にはあまり関係の無い話だった。


 俺達が拠点として使っているアゼル共和国も、馬鹿では無い。勝てる相手と勝てない相手の違いは分かる。


 それに、アゼル共和国は二度にわたる戦争でだいぶ疲弊していた。


 俺達が参加した2度目の戦争では大した被害は出なかったものの、被害は出ているのだ。


 「そもそも大国には他にも灰輝級ミスリル冒険者がいるからな。戦力的にはまだまだ大国だし」

 「大国間のパワーバランスが崩れただけであって、中小国が敵う相手ではないよねぇ。それこそ、中小国連合が大国に挑むとかじゃなければ........だけど」


 戦争が終わって凱旋を拒否してから1週間後、徐々に普段通りの形を取り戻しつつある世界を見ながら、俺と花音はいつもの聖堂で報告書を眺める。


 既に教皇とは顔を合わせ、俺たちの仕事が完了したことは伝えておいた。


 教皇も報告で俺達の活躍が耳に入っいるらしく、かなり喜んでいたな。途中で咳き込んで心配になったが。


 この戦後処理をした後、教皇はその座を下りる。おそらく、新たな教皇にはフシコ・ラ・センデルスになるだろう。


 彼は話しがわかる人物だ。教皇からの信頼も厚く、民衆からの支持も高い。


 今後の神聖皇国ともいい関係を作れるだろう。


 「エドストルの左腕も順調に作られてるし、面白い収穫もあったな」

 「失われた古代技術ロストテクノロジーだね。結界系の魔道具だったかな?」


 正教会国の混乱に乗じて、俺達はちょいと戦場からネコババをしている。


 ドッペルですら作れないという“失われた古代技術ロストテクノロジー”の魔道具を1つ、手に入れたのだ。


 系統は結界系の魔道具であり、魔力を込めるとその魔力量に応じた硬さの結界が出来上がる。


 範囲も自由に決められる上に、魔力量に限界が無いので、俺が使うととんでもなく硬い結界が出来上がるのだ。


 試しにイスの世界でリンドブルムに流星を落としてもらったが、余裕の無傷ったのはさすがに驚いた。


 まぁ、これ使うぐらいなら異能を使った方が効率的な上に展開も早いので俺が使うことは無いが。


 土産とばかりにドッペルに持っていくと、ドッペルは玩具を与えられた子供のように喜び、たった5日でその全てを解析した後エドストルの義手にこの機構を取り付けると張り切っていた。


 エドストルとしては普通の義手で良かったそうなのだが、テンションが上がりまくったドッペルを止める訳にも行かずあれよこれよと色んな昨日を取り付けられている。


 下手しなくても、世界最強の義手が出来上がりそうだ。


 「そういえば、剣聖も持ってたよね?結界系の魔道具」

 「持ってたな。今は剣聖の弟子が持ってるみたいだが」


 剣聖の残した弟子、バッドス君は帰ってこない剣聖を待ち続けている。


 鍛錬を怠ることは無いが、心ここに在らずと言った感じだ。


 剣聖が死んだとは思っていないようだが、死にかけているのではないかとは思っているらしい。


 彼は、あの戦いから逃げ出していたから何があったのかは分からないんだよな。


 教えてやる義理もないので放置である。


 「剣聖はなんで持ってたんだろう?剣聖の居場所も掴めないし」

 「さぁな。戦いに巻き込まれないように子供達を避難させたのは痛かったな。危険な目に子供達を合わせるつもりなんてないから、そんな手は取れないけど」

『さすがはジン。優しい』


 ひょっこりと影から顔を出してきたベオークは、そのまま俺の頭の上に乗るとペシペシと頭を叩く。


 戦争中は情報操作のために別行動をしていた為、寂しかったのだろう。最近はよく甘えてくる。


 同じ理由からマーナガルムも最近は甘え方がすごい。ちょっと甘えすぎで花音の逆鱗に触れかけたが。


 フェンリルも同じような理由から花音に甘えている。なんだアイツら可愛すぎか?


 「今後はのんびりできそうだな」

 「先ずはイスの学校からかな?リーゼンお嬢様に話を通しておかないと」

 「学園も戦争の影響で延期になったしな。今度話しをしに行こう」


 ところで、暗殺者の話とかあったはずだがどうなったのだろうか。


 俺はまぁいいやと思考を放棄すると、久々ののんびりとした時間を過ごした。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 深く沈む闇夜中。女神の目も届かない場所で影は堕落した者と話す。


 「ようやくお目覚めかい?」

 「我の力を使っときながらその言いようは如何なものかな。“祖”よ」

 「その呼び方は止してくれ。僕はその呼び方が嫌いなんだ」

 「ではなんと呼べと?」

 「それ以外ならなんでもいいよ。最近だと“影”って呼ばれてるね」

 「悪魔共にか」

 「うんうん。君もそう呼ぶかい?」


 蠢く何かは少し考えるような仕草をしたあと、どうせそれ以外の名前で呼ぶと面倒くさそうだなと思い“影”と呼ぶようにした。


 「わかった。では影よ。早速だが計画は?」

 「今は特になし。後は日和見主義者どもを消せばいいけど、それは堕天使に任せるさ」

 「ほう?まだしばらくは暇そうだな 」

 「そう言うなよ。封印されていた間も割と忙しかっただろ?」

 「そうだな。少しは休むか」

 「そうそう。君はまだ万全じゃないんだ。悪魔達の犠牲を忘れてはいけないよ」


 蠢く何かはゆっくりと頷くと、退屈そうに天井を見上げる。


 夢から覚めたとは言え、全盛期の半分以下では目的は果たせない。


 「もう少し寝るか」

 「それは辞めてくれ。君、一度寝ると長いだろ。と言うか、今も寝てるだろ」

 「うむ........」

 「大丈夫。暇つぶしには彼が居るから、何とでもなると思うよ」


 影がそう言って指さす方向には、人形がふらりと立っていた。


 「やっほー!!久しぶりだな!!」

 「........かつての敵に良くもまぁそんな2明るいテンションで話しかけられるな」

 「過去は過去だろ?俺はあんまりその辺気にしないから。大事なのは今と未来だろ」

 「ならば、悪魔ともなかよくなったのか?」

 「おう!!今は週一で飲むぐらいには仲良くなったぞ」


 蠢く何かは、自分の欠片を創り出すと人形の頭を軽く叩いた。


 「いで、何すんだよ」

 「いや、本当に本人か確認しただけだ。その魂は本物だな。懐かしさを感じるぞ」

 「ケッ!!自分の魂を悪魔に宿らせて魔王を演じ、殺されたフリをするやつは魂の確認方法も独特だな。しかも殺された後は女神の目から隠れて魂を再集結させるとか、流石は魔王だ。なぁ?──────────」


 人形は大きく口を歪めると、その蠢く何かの名前を呼ぶ。


 かつて人類を滅ぼさんとした悪逆非道な王。人々はその者を恐れてこう呼んだ。


 「大魔王アザトース」





 魔王の伏線回収。殺された魔王達は、魔王の力を貰った悪魔です。だから、死んだ時に塵になって消えたでしょ?名前も同じやつとかも。


そして、これにて第三部五章はおしまいです。ついでに第三部“神正世界戦争”も終わりです。

長かった。最初は60話程度の予定だったのに、100話以上もかかったぞ。

後、二部+‪α(if)あるのでもうしばらくお付き合い下さい。

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