神正世界戦争:黒滅vs剣聖⑤
剣聖は、今すぐにでもその場から逃げ出したかった。
先程とは比べ物にならないほどの
剣とて弱い時期はあった。ある日偶然、竜種と出会いなし崩し的に戦うことになってしまった事がある。
まだまだ剣の道半ばでであった圧倒的強者は、当時の剣聖を押しつぶすほどの重圧を放っていたが、今回はそれとは比べ物にならない。
少しでも黒滅が自分から視線を外した隙に逃げること以外考えられない程、黒滅の圧は大きかった。
「笑えんのぉ........これは流石に」
思わず口からこぼれ落ちた一言は、剣聖の余裕が如何に無いかを表している。
剣聖の人生の集大成である“天”を放ったとしても、今の黒滅に当たる気はしない。
「最初から使えば、儂など圧倒できただろうに。それを行わんかったという事は、舐められていたのか、はたまた何らかの制約があるのか。どちらにしろ、全力でも勝てる気がせんのぉ」
剣聖は独り言を呟きつつ逃げる隙を伺うが、隙が全くない。
黒滅の視線は常に剣聖に向いており、少しでも不自然な動きを見せれば狩られてしまうだろう。
「圧倒的な魔力量による身体強化。しかも、それを自分なりに工夫して圧縮しておる。アレは“禁術”に並ぶ技じゃな。体表に現れている稲妻は、強引に圧縮された魔力が擦れあって発生した自然界では先ず起こりえない神の領域。儂も見たのは2度目じゃ」
剣聖は冷静に黒滅を分析しつつ、どうしたものかと考える。
逃げるのは無理。だからといって立ち向かったところで瞬殺されるだろう。剣聖の魔力操作と耐久力ならば、多少の攻撃は耐えられるが、持って5発が限界だ。
外からの支援は期待できるが、今の黒滅を前に手を出せるかと言われれば怪しい。精々、自分が死ぬ前に助け舟を出してくれるぐらいだろう。
「主も人が悪い。あんな化け物がいるなら言ってくれればいいも──────────」
剣聖が独り言を呟いていたその時だった。
僅かな残像を残し黒滅の姿が掻き消える。
剣聖はすぐ様反応したつもりだったが、圧倒的に遅かった。
「ゴカッ──────────」
姿をとらえるよりも早く剣聖に接近した黒滅は、その右足を剣聖の腹に思いっきりねじ込んだ。
剣聖の体がくの字に曲がり、体が浮き上がる。
真横に吹っ飛ばされた剣聖は、肺の中から吐き出された空気を何とか吸い込もうとするが、上手くいかない。
そして、剣聖は見た。
黒滅が動ききってから崩れていく世界を。
世界全ての動きが黒滅よりも遅く、黒滅が動いた後にその余波が動いている。
衝撃が黒滅を追いかけるよりも黒滅の動きが早いのだ。某狩人×狩人の漫画に出てくる会長の如く、音すらも置き去りにした黒滅の動きに、世界がついていけてない。
音速をいとも容易く超えた動きは、ソニックブームを生み出して辺り一体を破砕していく。ただの移動で、つい先程まで剣聖と黒滅が戦っていた時に出た余波を大きく上回る破壊力を実現していた。
この速さが乗った蹴りを受けて、体と胴体が泣き別れない剣聖も異常だが、それ以上にその速度で問題なく動ける黒滅の方が異常だ。
文字通り、人間を辞めている。
そして、呼吸ができず思考が遅くなる剣聖が次に見たのは、自分が吹き飛ばされる先に既にいる黒滅の姿だ。
いつ移動したのかも分からなかった。気配すらも追わせてくれない黒滅は、既に剣聖の後ろに立っている。
剣聖もかなりの勢いで飛ばされているにもか変わらず、それすらも追い越す。人の理解出来る範疇を大きく超えていた。
「コヒュッ──────────」
何も反応出来ず、剣聖は次の攻撃も無防備に受けた。
背中に攻撃が来ることは分かりきっていたので、魔力だけは何とか防御に回せたがそれだけでは今の黒滅の攻撃を防ぐことは出来ない。
背骨の折れる感覚が全身を駆け巡りながら、剣聖は空高く打ち上げられた。
黒滅の放った攻撃の余波によって空をおおっていた分厚い雲は霧散させられ、太陽が空を照らす。
以前“傲慢の魔王”と戦った時のように何らかの技を使ったのではなく、単純な力技で豪雨降らせる雲の全てを霧散させたのだ。
剣聖は重力に逆らいながら天を登り、その頂上に行く途中で撃ち落とされる。
いつの間にか天を昇った黒滅が、剣聖の土手っ腹に右の拳を打ち付けたのだ。
最早声すらあげられない剣聖は、雨が落ちるよりも早く地面へと叩きつけられ、隕石が衝突したかのようなクレーターが出来上がる。
「死ね」
全身の骨が砕け、それでも辛うじて生きている剣聖にトドメを刺さんと黒滅が空から降ってくる。
が、その攻撃は剣聖に当たる前に別の者に邪魔をされた。
黒滅は攻撃を中止して防御をした後、剣聖の横に経つ謎の人物に視線を向ける。
「困るよ。そのお爺ちゃんも俺達の仲間なんでな」
「誰だテメェ」
殺気を隠すことなく邪魔をしてきた者を睨みつける黒滅だが、邪魔をしてきた者は名乗ることはせずに軽く頭だけを提げた。
「今はまだ名乗れ無い。強いて名乗るなら
「........あの時俺に攻撃を仕掛けたのはお前か。逃がすと思うのか?」
「思わないね。だけど、逃げる手段はある」
邪魔をしてきた者はそう言うと、舌をべーと出してその場から消えた。
黒滅も逃がさないようにこうげきを仕掛けようとしていたが、ほんの僅かに彼らの方が早かった。
満身創痍になった剣聖と一緒に彼らは消える。
黒滅から逃げた邪魔をしてきた者は、剣聖の横に座ると掻いてもない汗を拭う。
「あっぶね。宝物を即発動できる状態にしておいてよかった。あの化け物、逃げる瞬間には目の前に居やがったぞ。速すぎだろ。目で追えるもんじゃない」
「ほ........ほ........ほ........」
「無理すんな爺さん。本当にこのままだと死ぬぞ。全く、黒滅の野郎もえげつねぇな。爺さんの腹に蹴りを入れる前から動き始めたのに、助けに入ったのはギリギリだ。後1秒でも遅く動いてたら爺さんは死んでたぞ。この身体になってから汗なんて掻かなくなっが........今回ばかりは冷や汗かいた。汗なんて出ないけど。爺さんもヤベー奴に喧嘩を吹っ掛けたな」
人形はそう言うと、全身ボロボロの剣聖の頭を叩く代わりに消えかかった杖を軽く小突くのだった。
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「チッ、逃げられた」
最後の最後で介入してきたやつが居なければ、今頃剣聖を殺せてただろうに。
俺はイラつきながら、異能を解除する。
全身が筋肉痛のように痛いが、今は拠点に帰ってエドストルの容態を確認するのが先だ。
「最後、舌にあったビー玉みたいなヤツは転移系の魔道具か?あれ、ロストテクノロジーのはずなんだがなぁ」
残る謎は多いものの、俺は今確認するべきじゃないと判断しその場を後にする。
次会ったら必ず殺す。最初から全力でな。
能力解説
【仕込み杖“天”】
仕込み杖を具現化させる能力+1kmまで刀身を伸ばせる能力+魔力の貯蓄をできる能力。
具現化系の異能であり、本来は仕込み杖を具現化させ、刀身が伸び縮みできる以外になんの能力も持たない。が、剣聖はその能力を磨き上げ、杖に魔力を溜めると言う本来ではありえない能力まで手に入れている。
切れ味はミスリルの剣よりやや劣る程度。龍の鱗すらも切れないはずなのだが、剣聖の剣技によって容易に切り裂けるようになっている。もちろん、素人が使えば、ただの剣だ。
仕込み杖の名を冠した技“天”も異能の力ではなく、ただの剣技。
つまり、仁の異能を斬り裂いたのは剣聖がおかしいだけ。なんで、ただの剣で理を切り伏せれるんですかね?
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