神正世界戦争:黒滅vs剣聖④
俺の異能である“
しかし、硬いだけとは言ってもその硬さは尋常ではない。
リンドブルムの降らす隕石でもビクともせず、団員の中でもこの黒い物体を壊せるのは四名のみ。
別世界の氷を作り出すイスや、原初の炎とか言う反則技を使うファフニール。“無限”とか言って無茶苦茶な事をするウロボロス、そして終焉を知るニーズヘッグの四名(全員魔物だから“名”で数えるのは違和感があるが)だ。
実際にはやっていないので分からないが、恐らくアスピドケロンも俺の異能を突破できる。ので、正確には5名か。
彼らに共通しているのは、理を支配したり、そもそもこの世界の理で動いてなかったり、理をねじ伏せられるだけの魔力量や質量で押し潰したり。とにかく、理を何とかできるだけの技量があるという事である。
つまり、俺の目の前で血を流しながら剣を構えるジジィは、その剣によって理を超える何かをすることができるという訳だ。
バケモンかよ。
考えられるのは二つ。1つは、俺が知らない剣の能力がある。
この場合は、剣自体に何らかの仕掛けがある為、対処は容易い。ジジィの持っている剣をどうにかすればいいだけの話だからな。
もう1つは、剣聖の実力、つまり、剣技のみで理をねじ伏せてきた場合だ。
この世界の法則を“剣技”1つで超えるのは、最早人どころかこの世界に生きる者では無い。
そして、今までの戦闘から察するに、剣聖は後者だった。
俺は、呆れ笑いを浮かべながら剣聖の剣を注意深く見つめる。幾ら俺の防御力があったとしても、“今”の状態ではエドストルのように斬られてしまうだろう。
「人を化け物呼ばわりした割には、お前も十分化け物だろうが。俺の能力を切り伏せやがって。人として、あそこは死んどけよ」
「ほっほっほ。儂は泳ぎが苦手でのぉ、三途の川を渡るのはまだ早かったようじゃ」
「出来れば溺れて永遠に三途の川を彷徨って欲しかったがな。泳ぎが苦手なら船を用意してやろう。それなら三途の川も渡れるだろ?」
「ほっほっほ。それには及ばんよ。なんなら儂がお主の乗る船を用意してやろうか?」
「ほざくなよジジィ」
「それはこっちのセリフじゃよ。小僧」
ぶつかり合う殺気。
戦闘の余波で辺り一体が更地になっている今、俺達の耳に入ってくるのは轟々と降り注ぐ雨の音だけだ。
不思議と緊張は無い。あれほど化け物じみた剣を見たあとだと言うのに、心は落ち着いている。
大丈夫。ファフニールやニーズヘッグのように、何をしているのか分からない訳では無い。
奴はただ剣を振り下ろしているだけ。ならば、避けるだけならなんとでもなる。
剣聖はゆっくりと剣を上段に持って行こうとする。
おそらく、上段の構えが剣聖の本気の構え。ならば、それを潰さないと言う手は無い。
全身に魔力を張り巡らせ、縮んだバネが一気に解放されるように俺は剣聖の間合いへと飛び込む。
恐らく、誘われているだろうが、一番撃たせてはダメなのは先程の理をねじ伏せた一刀だ。
それさえ気をつければ、俺の勝ちは揺るがない。
「シッ!!」
最短距離を突っ走っての左ジャブ。ギリギリで剣聖に当たる位置で放ったジャブは剣聖に容易く避けられた。
これは予想通り。俺の目的も剣聖は分かっているだろうから、今からの攻防は“剣聖の必殺技を如何に撃たせないか。剣聖は自分の必殺技を撃つ隙を如何にして作るか”に重きを置かれるだろう。
最初の構えをしようとしたのを見るに、剣聖の“天”とやらは撃つまでに少し時間がかかる。
俺はその時間を作らせないように立ち回りつつ、剣聖を仕留めるために攻撃し、剣聖はどうにかして俺に隙を作らせて一撃で仕留める。実にシンプルで分かりやすい。
左ジャブを放った俺は、続けざまに右ストレートを剣聖の腹に向かって放つ。剣聖は、それを剣でガードすると同時に、俺との距離を離そうと前蹴りを放ってきた。
「足癖が悪いジジィだな」
「ほっほっほ。お主ほどでは無い」
俺は剣聖の蹴りを避けると、お返しとばかりに回し蹴りを剣聖のこめかみに向かって放つ。しかし、剣聖もそれをしゃがんで避けた。
「軸足が留守じゃよ?」
「わざとに決まってんだろ」
剣聖は釣りだとわかっていながら、地面に残った俺の左脚に向かって剣を振るう。
しかし、その剣は俺に当たる前に黒い物体に止められてしまった。
「オラァ!!」
「厄介じゃの」
回し蹴りの勢いを強引に止めて、しゃがだ状態の剣聖にカカト落としを喰らわせようと足を振り下ろす。
剣聖はギリギリで回避すると、お返しとばかりに剣を振るう。
「効かねぇよ」
「分かっておるわい」
魔力を纏った右腕でガードする。が、ここで異変が起きた。
「?!」
剣聖の攻撃を防いだはずなのに、俺の右半身に衝撃が走る。
全身を魔力で覆っている為、その攻撃が致命傷になることは無かったが、不意の一撃は俺のバランスを崩した。
剣聖からは視線を外していない。剣聖からの攻撃ならば、間違いなく反応できたはずだ。
しかし、俺に攻撃は当たっている。
そこから考えられることは........
「監視してたやつが手を出したな?クソッタレが」
監視に手札を見せたくなくて時間をかける選択をしたのが仇となった。出し惜しみは負けフラグなんて言われることもあるが、俺がまさかその片鱗を経験するとは。
既に剣聖は上段に構えを取っており、今から妨害に行くのは無謀に等しい。
気合いで防ぐか、気合いで避けるしかないな。
防ぐ時間は無さそうだし、選択肢は実質1つだが。
剣聖の気配が大きく膨れ上がるのを感じる。俺は、持てる魔力のほぼ全てを圧縮して纏うとギリギリまで剣聖の動きを見ていた。
まだだ。まだ動くタイミングじゃない。
「“天”」
振り下ろされた一刀。理すらもねじ伏せる剣聖最強の一撃。俺は剣聖が剣を振り下ろす数コンマ前に地面を蹴ると、大きく横に逸れて剣の軌道から逃げた........はずだった。
「──────────っ!!マジかよ。避けたのに切れてんぞ」
「ほっほっほ........流石に避けられるのは想定外なんじゃが?」
俺の右胸から浅く血が垂れる。
完璧に剣聖の剣は避けたはずなのだが、一体どうやって俺を切ったんだ。
剣聖も剣聖で避けられるとは思っていなかったようだが、多分同じ事をもう一度避けろと言われてもできないだろう。今のは極限まで集中したからできたのだ。何度も何度もやられたら、集中力が切れる。
俺は僅かに切れた胸に治癒魔術を使って止血をすると同時に、今まで躊躇っていた切りたくない手札を切る事にした。
流石にどこにいるかも分からない監視の攻撃まで加わってくると、手札を切らずに剣聖には勝てない。見られると対策を練られるし、何より体への負担が大きいから使いたくなかったんだけどな。
「クソが。人に見られたくないがために使わなかったのに。誇っていいぞジジィ。いや、“剣聖”。俺にこいつを使わせたんだからな」
「ほ?」
俺は剣聖から大きく距離をとると、剣聖への牽制として適当なトラップをばら蒔いてから
「天秤は常に我が手中に在り。天秤の崩壊は世界の揺れ。崩れゆく世界の常識は、天秤によって再構成されその常識は我がものとなる。魔導よ崩れ再生せよ──────────」
俺の切りたくない手札の1つ。天秤の操作のためだけに、詠唱の補助がなければならない程の手札。
これがあるから、俺はあの厄災級共とも対等以上に戦えるのだ。
俺の肩の高さ辺りに一辺が10cmほどの黒い箱が出現する。
バチバチと稲妻を走らせ、その箱はゆっくりと俺の周りを回り始めた。
さぁ、ここからは読みの鋭さや経験の差なんて関係ない。
俺は剣聖に向かって心の中で言い放ちながら、その名を告げた。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます