神正世界戦争:黒滅vs剣聖③

 剣聖の背中から現れた四本の腕と剣。長年の積み重ねによる化け物じみた魔力操作によって生み出された魔力の塊は、可視化出来るほどになっていた。


 以前、この魔力による腕と剣を見た時は気づかなかったが、明らかに剣聖の持つ魔力量を大幅に上回っている。何かしらの魔道具を使ったかその剣の能力を使ったのか。少なくとも、何かタネがあるのは間違いなかった。


 「重厚なる盾ファランクス


 そのタネを見破るのも重要だが、それよりも今は自分を守ることを考えた方がいい。


 幾ら俺が剣聖の攻撃を弾けるとは言っても、限度があるのだ。


 流石に、4本も剣が増えるのはキツいものがある。


 切りたくない手札はまだ温存だ。俺が来てから監視するような視線があるし、何より切りたくない手札の殆どは体への負担が大きい。


 速攻で仕留めるのもありっちゃありだが、とにかく手札を見せたくなかった。マジックでもそうだが、タネが割れた状態ほど面白くないものは無い。


 仕込みが終わっていないのに能力のお披露目をする羽目になったが、これも想定内。


 俺は5枚の盾を異能によって作り出すと、自分を守るように回転させながらゆっくりと剣聖に近づいた。


 「ほっほっほっ。それがお主の異能かのぉ?随分と可愛らしいでは無いか」

 「そりゃどうも。そう言うジジィの剣は無骨だな。美的センスが無いぞ」

 「歳をとると若者のはやりには乗りにくくてのぉ。特に子供の描く絵なんかはようわからん」

 「歳だな。さっさと引退しろよ。大人しく首を差し出せば、痛みなく殺してやるぞ。魂の一片も残すこと無くな」

 「それは勘弁願いたいのぉ。若者にはついていけんが、年寄りの中では最先端を行くのが儂じゃ」


 剣聖はそう言うと、四本同時に剣を振り下ろす。


 魔力によって作られた腕の長さは2メートル程。剣の伸縮を考えなければ、リーチが伸びていることになる。


 普段剣聖が振るう剣と何ら違和感のない速さで振り下ろされた魔力だが、俺は的確に盾を操作して四本ともキッチリ受け止める。


 高速で振るわれた魔力の斬撃は、受け止めた衝撃波によって辺りの雨を弾き飛ばす。一瞬だけであったが、雨が晴れた。


 流石は、剣聖。


 四本とも同時に攻撃しているように見せかけて、全てバラバラのタイミングで剣を振るっている。


 しかも、剣聖が振るう剣と何ら遜色がない。


 剣の動きを見るに、恐らく自動操縦オートではなく手動操作マニュアルで動かしていると思われるが、あのレベルの操作を手動出動かすのは至難の業だ。


 脳への負担がかなり掛るはずなんだがなぁ。平然とやってのける辺り、化け物としての片鱗が垣間見える。


 俺も黒騎士を10体までなら操作できるが、動きが少し単調になりがちだ。


 完璧に操作するなら3体程が限界である。


 「ほっほっほっ。これにも反応できるのか。流石は“黒滅”じゃのぉ。あの“炎帝”や“幻魔剣”の上に立つだけはある」


 剣聖はそう言って笑うと、俺の視界からフッと消え失せた。


 凄いな。俺が瞬きをするタイミングで死角に移動してきた。剣聖を見ている者からすれば、剣聖が一瞬で消えたように見えるだろう。


 実際、俺も剣聖が一瞬で消えたように見えている。


 俺はかなり広く深い探知をしているからその位置がわかるが、探知を怠った者にはもれなく“死”をプレゼントされるはずだ。


 「そこ」

 「ほっ?!」


 俺は盾を操作して右斜め後ろに移動させる。


 ガチンと、盾と剣がぶつかり合う音がすると同時に、剣聖からは驚きの声が上がった。


 「読まれたのかのぉ?」

 「いいや、見えてるだけだ」


 俺はさらに盾を展開。


 剣聖が続けざまに放った4つの斬撃も、正確に受け止めた。


 「野生動物並みの視野じゃのぉ。死角がないでは無いか」

 「褒め言葉として受け取っておくよ。それよりもいいのか?隙だらけだぜ?」


 剣聖は僅かに油断していた。


 完璧な死角からの攻撃を受け止められ、僅かに動きが鈍っていたのだ。


 展開された5枚の盾を全て防御に使い、俺だけを見ていれば攻撃は来ないと錯覚している。


 だからこそ、後ろか這い出でる騎士に気付くのが遅れた。


 「──────────っ!!」


 ゴスっ、と剣聖の脇腹に黒騎士の剣が衝突する。


 胴体を切り離す勢いで振るわれた横振りの剣は、正確に剣聖を捉えていた。


 が、剣聖の胴体が泣き分かれることは無い。


 攻撃が当たるギリギリで、剣聖は持っていた魔力の全てを防御に回したのだ。腕を作る魔力も防御に回したことによって、黒騎士の黒剣の斬撃を防ぎ打撃へと変えた。


 アレに反応できるとか化け物かよ。


 ようやくまともに入った一撃。剣聖は泥の中を転がり、しばらくすると立ち上がる。


 受身をしっかりと取られていたようで、想定していた以上に剣聖へのダメージは少ないようだ。


 「逃がさん」


 剣聖が初めて見せた大きな隙。俺がその隙を逃すはずも無く、仕込みの1つを発動させる。


 「黒き処女ブラック・メイデン


 現れたのは、鉄の処女アイアン・メイデンの形をした黒い物体。


 黒騎士には仕留めきれなかった場合を考えて、仕込みがある場所の方向に向かって攻撃をしたのだ。お陰で、攻撃の手を緩めずに済んでいる。


 “黒き処女ブラック・メイデン”は剣聖を飲み込むと、逃げれないようにその扉を閉じる。


 もちろん、地面を切り崩して逃げれないように全方位に俺の能力を使っていた。


 「一瞬の気の緩みが勝敗を分けたな。俺の勝ちだ」


 天秤崩壊ヴァーゲ・ルーインの作り出す黒は、滅多なことでは突破されない。それこそ、理から逸脱した何かがなければ傷一つ与えることも許されないのだ。


 幾ら剣聖が化け物じみていたとしても、ただの剣では理を超えることはできない。


 これが、イスやファフニールなら容易に突破するんだけどな。


 後はウロボロスとか。


 あいつら可笑しいんよ。理から逸脱した又は、理を支配したとか言えば何やっても許されるとか思ってる。


 んなめちゃくちゃな事があってまたるか。ちゃんと物理法則とか世界の常識を守ってくれ。


 おれも大概なので人の事は言えないが、あいつらも割とめちゃくちゃやっている事を理解して欲しい。なぜ俺だけ“理不尽”呼ばわりされなければならないのだろうか。


 「さて、一旦拠点に帰るか。エドストルの容態を確認したいしな」


 “黒き処女ブラック・メイデン”はまだ解除されていない。中の人が死ねば解除されるのだが........少し長いな。


 まぁいいや。剣聖が死ぬのは時間の問題。放ってほいてもいいだろう。


 俺がそう判断し、動き始めた矢先だった。


 全身がその場から逃げろと訴えてくる。細胞の一つ一つがその場から逃げたがり、俺はその細胞たちにつられて横へと飛んだ。


 「“天”」


 微かに耳に聞こえた声。それと同時に黒き処女は真っ二つに切り裂かれ、中から多少の傷を負った剣聖が現れる。


 「マジかよ。化け物がすぎるぞ」

 「ほっほっほ。お主には言われたくないのぉ」


 このジジィ、剣技で理をねじ伏せてきやがった。


 俺は背中から流れる嫌な汗を感じつつ、切りたくない手札を切ろうか本気で悩むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る