神正世界戦争:雪合戦④
聖堂騎士団第六所属のマリーゼは焦っていた。
雪合戦開始から30秒も経たず7人もの精鋭が脱落している。
今まで数多くの戦いをしてきたマリーゼだが、こんな経験は初めてだった。
「一体どうなっているのよ!!もう4人しかいないじゃない!!」
「まさか、相手がここまでやれる相手だとは思っていませんでした。どう致しましょうマリーゼ様。この人数差はかなりマズイですよ」
雪の壁に背をつけ、上からの攻撃を警戒し続けるマリーゼと精鋭の1人。
もう2人の精鋭は、雨のように降り注ぐ雪玉の中を逃げる時にはぐれてしまった。
マリーゼは苛立ちと焦りを沈めようと何度も深呼吸をしつつ、隣にいた精鋭と一緒に作戦を考える。
長年この異能と付き合ってきたマリーゼは、自分一人で考えるだけでは突破口は開けないことを重々承知していた。
「各個撃破しながら少しづつ人数を減らすしかないと思うわ。問題は、相手が個々に行動してくれるかどうかだけど........」
「普通に考えて、やらないでしょうね。2~3人でペアを組んで行動するのが安全と言う事ぐらい、相手もわかっているでしょうし」
「そうなると、なるべく弱そうな所を叩くしかないわけだけど、誰が弱いのかなんて分からないわ」
マリーゼは、今回の不意打ちの為に相手の情報を入念に調べている。
現在確認されている団員数は11人で、その中には“炎帝”や“幻魔剣”と言った二つ名持ちもいることも把握済みだ。
さらに、その上に立つ団長は“黒滅”と、大河を全て凍らせたその小さい団員は“氷河”と呼ばれ始めていることも分かっている。
しかし、それ以外の団員の強さは不明。
聞いた話では、一騎当千以上の強さを誇っていたらしいが、こう言うのは実際に見ないと実感が湧かない。
マリーゼも“黒滅”と“氷河”の力は見ていたので、恐ろしさは身に染みてわかっていた。しかし、この空間での異能の使用はルール違反。
体術も強い事はわかっていたものの、見通しが甘すぎた。
さらに言えば、遊びを極めている集団だとは思ってもいなかった。
マリーゼは深くため息を着くと、空を見上げる。
魔力によって作り出された空間の空は雲に覆われており、マリーゼの心境を映し出している。
「ここまで強いって分かってたら勝負しなかったのにね。でも、ここで負ける訳には行かないわ。私は人間がこの世界の全てを支配する世界が見たいのよ。亜人も獣人もエルフもドワーフも、全ては劣等種。私たち人間こそが、この世界の支配にふさわしい」
マリーゼがそう言うと、2つの気配を探知する。
2人ともバラバラに動いており、それ以外の気配が感じられない。
それは、マリーゼが最も望む相手の行動だった。
思いもよらぬ幸運に、マリーゼは自然と笑みが漏れる。
「ふふふ。女神様はまだ私たちを見捨てていないようね。この勝負、まだ勝ち目はあるわ」
相手の1人もこちらに気づいたのか、少し離れた位置の壁の後ろで立ち止まる。
マリーゼ達と相手までは横にある一本道で繋がっている。しかも、マリーゼ達は数的有利であり、2人で一気に攻めれば落とせる可能性は高かった。
「行くわよ。タイミングを合わせなさい」
「了解」
精鋭とマリーゼが道に飛び出そうとタイミングを測っていたその時、雪玉が目の前を通過した。
壁から顔を出していなかった為当たることは無かったが、マリーゼの目の前を物凄い勢いで通過した雪玉は明らかにこちらを意識した牽制だということが分かる。
そして、その雪玉の威力はどう見ても桁外れだった。
「速っ。今の見えたかしら?」
「見えました。しかし、目で追うのが限界かと........」
「避けるのは無理そうね。向こうもこちらを探知している事は間違いなし。厄介ね。動けないわ」
たった1発の牽制ではあったが、その牽制がマリーゼ達の足を止めた。
そして、相手はその隙を逃してくれるほど優しくはない。
「──────────!!上よ!!」
再び探知したのは、上からフワッと飛んでくる雪玉。
自分達を狙って的確に上から飛んできた雪玉は、先程見た牽制の雪玉の何倍も遅い。
マリーゼと精鋭は道に逃げようとしたが、先程の牽制した玉を思い出してその選択を諦める。
これは本命ではなく自分達を動かすための布石。焦って道に飛び出ては相手の思う壷だ。
マリーゼと精鋭は、雪玉に当たらないように後ろへと下がった。
逃げ出そうとした道に視線向ければ、ギリギリ目で追える速さの雪玉が幾つも通過しているのが分かる。
「危なかったわね。いつもの癖で思わず飛び出て距離を詰めようとしてしまったわ」
「全くです。しかし、これで──────────」
精鋭が何かを言いかけたその時。
2人の察知をくぐり抜けた雪玉が、脳天に落ちた。
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「2人アウト。やっぱり団長様の初見殺しは凄いね」
敵が2人脱落したことを確認したロナは、大量に作った雪玉でお手玉をしながら我らが団長のすごさを改めて感じていた。
かつて氷合戦をした時に披露されたその先方は、ロナの記憶の中で今も輝いている。
最初に相手の探知範囲外まで大きく雪玉を上に飛ばし、通路に出て来れないように牽制。そして本命と思わせた上からの緩い雪玉を囮に、本命の最初の雪玉。
今ではどの団員にも通じない古の一手ではあるが、相手が初見ならばこれが面白いほど刺さる。
もちろん、避けられた時の為にいくつも手は用意してあったが、その全てが無駄になってしまった。
「流石は団長様だよ。僕じゃ絶対に思いつかない方法だし」
ロナはそう言うと残った雪玉を蹴っ飛ばして雪に変え、愛しき団長が待つ所へと帰って行った。
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厄災級魔物であるイスにとって、人間とは実に脆く弱い生き物である。
もちろん例外はあるが、全体的に見ればその殆どはイスがくしゃみをしただけで吹き飛ぶだろう。
イスが相手をしている精鋭の2人は後者であった。
「うーん。つまらないなぁ。もう少し攻め方を工夫したり出来ないの?」
「クソっ、なんで当たらないんだ」
1人で行動するイスをみつけ、チャンスとばかりに奇襲を仕掛けた精鋭達であったが、今では狩られる側に回っている。
逃げ惑いながら何度も雪玉を投げるが、その雪玉がイスの身体を捉えることは1度もなかった。
「つまんないなぁ。シルフォード達ぐらいはやってくれると思ったのに........もういいや」
相手の投げた雪玉を雪玉で弾いて防ぐ遊びに飽きてしまったイスは、大好きな父と母や団員たちと遊びたいと思ってしまう。
人を玩具扱いできるイスにとって、この精鋭達は玩具にすらならなかったのだ。
「ほい、おしまい」
目に見えないほど早く振るわれた手から放たれた雪玉は、最早雪玉とは思えない殺傷能力を持って相手の頭に直撃する。
ゴンと、雪玉が衝突したとは思えない音が響くと共に、精鋭達は倒れ、白銀の空間に一雫の赤色を落とした。
「あ、殺しちゃった?まぁいいや。別にルール違反でもないし」
イスはそう言うと唇を尖らさながら、父と母に遊んでもらおうと心に決めるのだった。
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