神正世界戦争:雪合戦③
短め
マリーゼは確信していた。
幾ら最強と呼ばれる傭兵団とはいえ、このゲームに負けるはずがないと。
幼い頃から共に過ごしていたこの異能。おそらく、この世界で一番雪合戦を練習していたのは彼だ。
何十年と積み上げてきた知識と経験。それが彼の自信となる。
「ふふっ、勝ったも同然ね。ルールを細かく聞かれたことには驚いたけど、実力で勝てば問題ないわ」
「マリーゼ様。作戦はどう致しましょう?」
白い服装に身を包んだ配下の1人が、膝をつきながらマリーゼに作戦を聞いてくる。
この白い服も、周囲の景色と同化して見分けにくいようにする為の工夫だ。視覚に頼った相手にならば、これがかなり刺さる。
こう言った地道な研究と努力によって、彼は今の地位を築いていた。
「そうね。いつも通りで構わないわ。強さを求めた獣が、私達のように“遊び”を極めた人間に敵うはずがないもの。好きにやりなさい」
「はっ、仰せの通りに」
白い服を身に纏った配下は、深く頭を下げるとその場を後にする。
マリーゼが今まで服従させてきた中で、最も精鋭な10人。彼らだけで勝負は終わる。
そう思っていた。
しかし、その考えが間違っていたと悟るのにそう時間はかからない。
相手は、彼ら以上に遊びを極めた“人外”なのだから。
パンと、徒競走で使われるピストルのような乾いた音が空間に鳴り響く。
11対11の雪合戦が今、始まった。
「さぁ、行くわよ。アレを仕留めれれば、私の価値はもっと上がるわ」
輝かしい未来への1歩を踏み出したその時、マリーゼ陣営の味方3名が脱落した。
「........は?........は???」
あまりにも唐突に起こった予想外の出来事。
彼は、思わず目を見開いて固まる。
何が起きたのかさっぱり理解出来ず、一瞬にして3人が脱落した事が夢だと思い込んでしまいそうになる。
「マリーゼ様!!上を!!」
配下の1人が空を指さし、マリーゼの名を呼んだ。
正気に戻ったマリーゼは、配下の指さす方向を見る。
「な、何よ。コレ」
そこには、今にもこちらへと降り注がとする多量の雪玉が飛んできていた。
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「お、三人アウトー。投げて当たったのは、イスと俺とゼリスだな」
「やったの!!」
「お、俺も当たったのか。運が良かったな」
ゲーム開始直後、俺達は運ゲー勝負をしていた。
運ゲーと言っても探知によって相手の位置を把握出来ているので、完全な運ゲーでは無いが、相手の動きによって当たりハズレが別れるから多少の運要素はあるだろう。
ゲーム開始直後に全員で雪玉を1つづつ投げ、相手に当てられるかという勝負をしていたのだ。
「んじゃ、当てられなかった人達は罰ゲームとして、ここにある雪玉全部相手の方に投げてね」
「うへぇ、500個ぐらいあるんだけど。これ全部投げるの?」
「投げるんだよ。8人も居ればすぐ終わるだろ?1人50個ちょっと投げればいいんだし」
「いや、50個でも多いから」
勝負に負けた花音は文句を言いつつも、雪玉をポイポイと投げ始める。
どう見ても遠くまで飛ばすような投げ方には見えないが、それを剛腕で無理矢理相手陣営にまで投げ飛ばしていた。
凄いな。リンドブルムの流星みたいな感じで相手陣営に降り注いでる。初撃で三人落ちたから、後8人。この雪玉の嵐で何人脱落するのだろうか。
ポケーっとしてみてると、次々に脱落者が増えていく。
雪玉を投げ終わって残っていたのはたったの4人だった。
ゲームが始まってまだ30秒も経っていない。なのに、半分以上も相手は脱落したのか。
「おいおい。もうゲームが終わるぞ。よくもまぁ、これで俺達と戦おうと思ったな」
「仕方がないでしょ。こっちは厄災級魔物やら、それと同格の身体能力を持った人外達と遊んできて、向こうは自分よりも格下としか相手してないだろうし」
「だとしても弱いなぁ。これじゃ、イスの遊び相手にもならんぞ」
「イスの遊び相手になるには、最低でも三姉妹や獣人組ぐらいの強さはいるからねぇ。異能に頼ってきたであろうマリーゼ........だったっけ?とやらじゃ、イスの遊び相手にはならないね」
チラリとイスを見ると、少し不満そうだ。
これはゲームが終わった後に、イスの世界で氷合戦をやる羽目になりそうである。
別にいいけどね。イスと遊ぶのは結構楽しいから嫌いじゃないし。ただ、肉体を使う系の遊びは疲れるが。
「残った4人は壁を背にして上からの攻撃に備えてるな。まぁ、あれだけの雪玉を浴びせられらば警戒もするか」
「なんというか、ゲームから狩りに変わっちゃったねぇ」
怯える人間を狩るゲーム。それだけ聞くとホラゲー感凄いな。
某13日の金曜日から逃げるゲームとか昔あったなぁ。 最初こそ人はいたが、時間が経つと共にかなり過疎っていると言う話を聞いた。今プレイしている人は居るのだろうか。
と、全然違う事を考えつつ、これからどうしようかと首を捻る。多分、何やっても勝てるだろうし、やりたい人だけやらせるか。
俺は雪玉を投げ終えてひと休憩している団員達に声をかけた。
「あの4人と戦いたい人ー」
「はいなの!!」
「僕もやります」
手を挙げたのは2人。
いつも元気なイスと、女の子にしか見えない男の娘ロナだ。
イスはともかく、ロナもやりたいとは意外だな。
「ロナもやるのか?」
「はい。久々にやったら楽しくて。それと、団長様に喧嘩を売った愚か者は徹底的に叩き伏せないと」
なるほど、ロナらしい理由だ。
出会ってから約三年。ロナは意外と子供らしいところも多くある。
ゲームとか結構真面目にやる事が多いしな。楽しみつつ、負けたくは無いから真面目にやる。
そんな所が可愛いのだ。
俺は2人の頭を優しく撫で、背中を軽く押してやる。
「んじゃ、遊んでもらってこい。大丈夫。殺してもルール違反じゃないからな」
「死因:高速で飛んできた雪玉に衝突とか嫌すぎる」
「確かに」
そんな死に方したら、ダーウィン賞貰えちゃうよ。
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