神正世界戦争:雪合戦②

 聖堂騎士団第六所属マリーゼ。彼は正教会国のスパイである。


 出身は神聖皇国なのだが、人間至上主義の思想を持っており正教会国側のイージス教の教えの方が彼には合っていた。


 彼の親は普通なのだが、一体どこで教育を間違えたのやら。


 なんやかんやあった後、マリーゼは神聖皇国の騎士団に入りながらも正教会国へ情報を流すスパイとして活動している。それと、オカマ。


 彼はかなり慎重な人間で、その異能も相まって証拠を残さない。


 今でも神聖皇国側は彼の存在に気づけず、情報の幾らかを正教会国に流しているのが現状だ。


 まぁ、ウチの子供達最終兵器によって、ココ最近は嘘の情報ばかりを掴まされていたが。


 そんな彼の異能は“雪合戦スノーボール”であり、“雪が舞い散る空間で雪合戦を行い、勝った方に絶対服従する”という能力である。


 能力の強い弱いはこの際置いておいて、滅茶苦茶便利な能力だ。


 負けた場合は絶対服従をしなければならないリスクがあるが、勝てば相手を意のままに操ることが出来る。


 この能力を使って、彼は自分の手足となる配下を作り出し独自の情報網を築き上げたのだ。


 天幕の外でマリーゼを待たせつつ、俺達はのんびりとご飯を食べる。


 「凄いいい能力だよなぁ。是非とも欲しい」

 「何?絶対服従を使って可愛い子にあんなことやこんなことをさせるの?」

 「棘がある言い方だな。嫉妬か?」

 「私はいつも嫉妬してるよ。それで、その絶対服従を手に入れて何がしたいの?」

 「いや、特には考えてない。教皇を意のままに操ったり出来たら楽しそうだけど、間違いなく面倒事が起きるだろうからな。いつ使うかは分からないけど、必要になったら使う能力として手元に置いておきたい」


 絶対服従という強力な効果を持った能力、ないと困るかもしれないが有って困ることは無い。


 使い道は特に考えてないが、必要になった時の為に手に入れておきたかった。


 「それにしても、雪合戦ねぇ。マリーゼって人も相手が悪いね。私達相手に“遊び”で挑むなんて」

 「下手したら殺し合いよりも強いからな。特に、身体を使った遊びは俺達の得意分野だ」

 「雪合戦って、氷合戦と何が違うの?」

 「使うため道具が氷か雪かの違いだけだ。後は、特に変わらんと思うぞ。ルールは向こうが指定してくるはずだから、ルールも違うか」


 ポリポリと干し肉を食べるイスの頭を優しく撫で、俺は三姉妹と獣人組に視線を向ける。


 既にご飯は食べ終えており、全員準備運動をしていた。


 イスの付き合いで氷合戦をよくしてきたシルフォード達も、やる気満々のようだ。


 「ロナもやる気があるみたいだな」

 「はい。僕でもお役に立てそうなので。今日の戦争は団長様が敵を粉砕しすぎて、あまりいい所が無かったのでここらでいい所を見せないと」

 「それは楽しみだ。俺と花音は高みの見物でも良さそうだな」

 「そうだねぇ。私も仁も本気でやると瞬殺だろうし。ところで、この空間って仁の能力で壊せるの?」

 「壊せるな。異能が使えない空間かと思ったが、そういう訳では無いみたいだ。出力の大部分がこの空間を作り出すことに使われているから、異能を使わせない機能をつけるのは難しかったんだろ」


 しばらくそうやって話していると、天幕の外から声が聞こえる。


 どうやら、まだなのかとマリーゼが痺れを切らしたようだ。


 俺は天幕からひょっこりと顔を出すと(もちろん仮面は被って)、ちょっとイライラしているマリーゼが怒りを押し殺した声で話しかけてきた。


 「最後の晩餐は終わったかしら?」

 「おお、待っててくれるとは優しいな。もうちょっと待っててくれてもいいんだぜ?」

 「いい加減にしてちょうだい。もう15分は待ってるわよ。ご飯は食べ終えたでしょう?」

 「いや、今から皆でトランプをしようかと思ってだな........」

 「後にしなさい!!でないと、強制的に始めるわよ!!」


 へぇ、強制的にゲームを始めることもできたのか。それでも最後の晩餐だと言うことで、待ってくれていた辺り実は良い奴なのかもしれない。


 人間に対しては良い奴なのかもしれないの方が正しいか。


 俺は天幕にいた団員達を呼び出すと、マリーゼはルール説明をし始めた。


 「ルールは簡単。この雪玉を相手に当てればいい。それだけよ。ステージはあそこの迷路。迷路から出たら失格になるから覚えておきなさい。最初の5分間道を覚える時間を設けてあるから、その間に覚えなさい。あ、これが地図ね。雪玉の補充はその場の雪を掻き集めで作ればいいわ........こんなふうにね。雪玉に当たった相手は、その時点で失格。当てられた場合は迷路の外に放り出されるわ。勝利条件は、相手を全て失格させる事。なにか質問は?」


 随分と丁寧に説明してくれるな。


 これも能力の使用条件か?これほどにまででかい空間を作るとなると、魔力消費とか大変そうだし、何らかの制約は掛かってそうではある。


 異能の考察は程々に、俺は手を挙げて質問した。


 「異能や魔法の使用は?」

 「もちろん禁止よ。ごめんさない。言い忘れてたわ」

 「........まぁいい。身体強化も禁止か?」

 「いえ、それは使って大丈夫よ。属性が伴ってない魔法なら使っても大丈夫だわ」

 「ステージの破壊は?」

 「ダメね。相手への攻撃も雪玉のみよ。殴ったりした時点で失格だから気をつけるように」


 なるほど?ルールを説明したかに見せて、トラップを置いていたな。


 顔が苦虫を噛み潰したようになっているぞ。


 おそらく、制約で質問には正直に答えなければならないのだろう。甘いな。俺達は経験者だぞ。


 「お前達の人数は?」

 「11人。貴方達と同じよ」

 「味方に雪玉を間違って当てた場合、そいつは失格になるか?」

 「ならないわ。雪玉は相手が投げたものが当たらなければ失格とは判定されないの」


 質問を続けてる俺を見て、徐々にマリーゼの顔が曇っていく。


 細かいルールを聞かれ、完全に実力勝負になると予想しただろう。


 その通りである。そして、実力勝負になれば俺たちの勝ちは揺るがない。


 10分近く質問を続け、大体考えうるトラップを潰した後ようやくマリーゼは質問攻めから解放された。


 「ここまで質問されたのは初めてだわ........」

 「今まで雑魚ばかり相手にしてきたツケだな。さて、楽しくやろうぜ。せっかくの“遊び”なんだからな」

 「........そうね」


 マリーゼはそう言うと、とぼとぼと自陣へと帰っていく。


 その背中は最初よりも圧倒的に小さく見えた。


 「これで後は実力勝負だな」

 「私たちが負けるわけないんだがら、実質勝ちでしょ。他にも隠されたルールがあるなら別かもしれないけど」

 「あったとしても、最悪俺の異能で全部ぶち壊せばいいしな」

 「いつもとは違う人たちと遊べるの!!全力で叩きのめしていいんだよね?」

 「おう。見てるこっちが同情するぐらい悲惨に叩きのめしてやれ。大丈夫。相手は死んでも問題ないからな」

 「やってやるの!!」


 元気よく腕を上げるイスや、やる気に満ち溢れている三姉妹と獣人組を見て、俺は必要ないなコレと思うのだった。


 マリーゼ君。君の負けは確定しているが、精々頑張ってくれ。

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