神正世界戦争:雪合戦①
戦争はかなり優位に進んでいた。
防衛機能を失った正教会国軍は、勇者が突如として消えた混乱から覚める事無く神聖皇国軍に攻められ、かなり対応が遅れている。
その隙を神聖皇国軍が逃す筈もなく、あっという間に正教会国軍を侵食。
多少の反撃はありつつも、そのほとんどが戦いの準備をする間もなく殺されて行った。
先陣を切った俺達も敵陣の奥へ奥へと浸透し、やりたい放題に暴れている。
ある者は拳によって粉砕され、ある者は原初の炎に焼かれ、ある者は巨大な土の腕に潰される。
厄災級魔物に鍛えられた世界最強の傭兵団は台風の目となり、最早その歩みを止められる者は一人もいなかった。
「圧勝だな。奇襲がここまで刺さるとは予想外だ」
「向こうは農民も動員してるからねぇ。まともに訓練を積んでいない人数増しの兵士なんて、居ないのと同じだよ」
「確かにな。こちらの奇襲に対応できているのは正規の兵士が多いし、常日頃から訓練なんてしていない農民に対応しろって言うのも酷な話か」
気の毒だなとは思うが、容赦はしない。
これは戦争であり、戦争における目標は“正教会国側のイージス教信者を滅ぼす”事だ。
もちろん農民も正教会国側のイージス教信者であり、神聖皇国の目標の中に入っている。
無抵抗な人間を殺して楽しいとは思わないが、仕事だと割り切って殺していくしか無かった。
「それにしても、ザルな防衛だな。大河が凍らされ、壁が破壊された時の対処法とか考えてなかったのか?」
「いや、考えてはあったと思うよ?一瞬で無くなるとは思っていなかっただけで」
「規格外の相手が居るって事は考えなかったのか?ロムスやらジークフリードが神聖皇国には居るって知ってるだろうに」
「居たとしても、ここまでやれるとは思ってなかったんじゃない?向こうは噂でしか話を聞いてなさそうだし」
「ジークフリードはともかく、ロムスは噂でしか実力を測れなかったのはありそうだが........だとしても準備不足に思えるけどな。規格外のことも頭に入れとけよ」
「そこまで考えたらキリがないし、どうしようもないんでしょ。規格外には規格外で。それこそ、剣聖を配置するしかないよ」
花音の言う通り、規格外な相手には規格外をぶつけるしかない。
規格外が現れた時の対処法は、考えるだけ無駄かもしれないが、それでも考えてある場合と考えてない場合では対応の速さが違う。
一分一秒が生死に直結する戦争では、無駄だとしても考えておくべきというのが俺の考えだが、この世界の常識では違うのだろうか。
今度ドッペル辺りに聞いてみるか。多分、歴代最高峰の司令官の顔とか持ってそうだし。
戦場の最中とは思えないほどのんびりとした会話を続けながらも、俺達の殺りくは止まらない。
俺は黒騎士を具現化させて暴れさせるだけではあるが、既にかなりの数の兵士を片付けている。
花音も鎖をあちこちに伸ばしては兵士を串刺しにしていき、イスに至っては歩くだけで世界が凍り、近くにいた兵士達が息絶える。
三姉妹もシルフォードを中心に着々と兵士を粉砕し、獣人組はこれと言って目立つ攻撃は無いものの(俺基準)着実に敵兵を殺して行った。
流石の敵兵も、俺達と戦えば命は無いと判断して戦いを避けようとしているが、圧倒的攻撃範囲と射程を持った俺達からは逃れられない。
背中を見せたら死、立ち向かってきても死。
そんな理不尽が今の俺たちである。
蹂躙は日没まで続き、神聖皇国軍は大河を奪取することに成功。それどころか、何名もの指揮官を始末することに成功し、圧倒的優位を持って初日を終えた。
初日の戦果としては、大勝利と言っても問題ないだろう。
夜の追撃は手痛い反撃を貰う可能性が高いため、神聖皇国軍は大河の前まで撤退。
俺達は暴れ続けても良かったが、いちおう傭兵としての立場があるので大人しく従った。
勝手に立案して突撃命令をまで出しておいて、何が立場だとは自分でも思うが。
本陣にある天幕に戻ってきた俺たちは、夕食の準備をしながらのんびりと子供達が纏めた報告書に目を通していた。
「こちらの被害は1万にも行かない程度。正教会国側は30万近い被害か。これでも戦争が続けられるんだから、さすがは大国だな。シズラス教会国とアゼル共和国の戦争だったら、今ごろ勝負が着いてたぞ」
「腐っても大国って事だねぇ。まぁ、決着が着いていないだけで私達の勝ちは揺るがないんだけどね。それこそ、剣聖が出てこない限りは」
「あのイカれたジジィか。あのジジィは確かにこの戦況をひっくり返せるだけの強さがあるわな。それにしても、未だに動く気配がなくて不気味だ」
正教会国の切り札“剣聖”は、未だに隠れ家で呑気に弟子とその家族と仲良く鍛錬を続けている。
街に何度か降りているし、冒険者ギルドからも要請があったりと、戦争の事を知らないわけが無いのだが、未だに動く気配がない。
あの弟子を戦争で使えるレベルまで鍛えげてから戦争に参加するのか、それとも他の理由で戦争に参加しないのか。
子供達が会話を聞き取れる場所まで近づければいいのだが、剣聖相手に接近は禁物だ。
まず間違いなくバレるので、遠くから監視しておくだけに留めている。
「何かを待っているのか?」
「さぁ?どうだろうねぇ?エドストルはどう思う?」
「え、私ですか?」
ここで会話を振られると思ってなかったエドストルは、ほうけた顔で自分を指さすと、すぐ様頭を働かせて自分の意見を述べた。
やっぱりエドストルは頭の回転が早いな。
「私としては、何かを待っているのかと思います」
「なんで?」
「自身が所属する国が崩壊の危機だと言うのに動かないと言うことは、剣聖は国が滅んでもいいと思っているのでしょう。でなければ、上層部との間に亀裂が入るような事をするマネはしないかと。もしかしたら、逃げ出す隙を伺っているのかもしれません」
なるほど、納得できる理由ではある。剣聖にとって正教会国ガどれだけ重要なものなのかによって話は変わるが、その可能性が今のところ一番高そうだ。
流石エドストル。頭がいい。
そうやって暇を潰しながら、飯ができるのをのんびりと待っていると天幕の外に1人、誰かを探知する。
へぇ、ようやく来たのか。
俺は仮面を被って外に出ると、訪問主は驚いたのか一瞬肩を震わせた。
筋骨隆々な肉体とそれを包む白色の防具。
神聖皇国の騎士であることが分かるが、俺の情報網を舐めすぎだ。
「なんの用で?」
「はっ!!私は第六のマリーゼと申します。皆様にお届け物を渡しに来ました!!」
「届け物?」
俺がわざとらしく聞き返すと、マリーゼと名乗った男はニヤリと笑ってこう告げた。
「はい。“服従”と言う届けものですよ」
視界が一瞬にして切り替わる。
イスの世界のような冷たさを感じるが、その世界は雪によって真っ白な世界最強だった。
チラリと後ろを見れば、天幕のまで着いてきている。中の団員たちも無事なようだ。
「なんの真似だ?」
「ふははは!!貴様には今から私達と勝負をしてもらう。拒否権は勿論ない!!この空間に来た時点で勝負は強制だ!!」
「ふーん。まぁいいや。とりあえず、ご飯食べていい?」
「え?いや、話聞いてたか?」
「聞いてた聞いてた。その勝負って今すぐ始めないとダメなの?」
「いや、そういう訳では........」
「じゃ、飯食ってからでもいいね?」
「え?あ、え?」
「飯食ったら行くから待っててね」
「ん?え?うん........」
思っていた反応と違う反応をされ、マリーゼと名乗った大男は混乱する。
悪いな。元々知ってんだよ。お前の正体も勝負が何かもな。
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