最終戦争の地
正教会国の国境部近くに流れる大河。人々が生きるために必要な命の水が流れるその大河を挟んで、神聖皇国と正教会国は睨み合いをしている。
100万を超える軍勢が睨み合いをしているものの、そこに緊張感が無いのは、大河という天然の要塞がお互いを守っているからだろう。
教皇と様々な確認をした3日後、俺達は今回の戦争に参加する面々を引き連れて神聖皇国の本陣へと向かった。
流石にイスの背中に全員乗るのは難しいので、俺と花音だけイスの背中に乗り、残りは
特にこれと言ったトラブルもなく、安全に飛行できたのでイスの機嫌はかなりいい。
偶に、力量差を分からないアホな魔物がイスに襲いかかってくるからな。もちろん、一瞬で氷漬けにされてイスに食われるのだが、俺と花音が背中に乗っている事を楽しむイスにとって、その一時を邪魔させることはとてつもなく不快だそうだ。
イスって俺や花音が絡むと沸点が低くなりがちだからなぁ........親としては子供に愛されていて嬉しい限りだが。
「アレが今回の戦場か。こうしてみると、正教会国はかなり急ピッチで工事したんだな」
「凄いねぇ。ブルボン王国の所で負けてから1年も経ってないのに、あそこまでしっかりとした要塞を建てれるんだ。しかも、かなり大きいから、迂回するのも大変そうだねぇ」
イスの背中から乗り出して少し下を見れば、そこには川に沿って大きな要塞が立っている。
人を収容して立てこもる為の要塞と言うよりは、川を渡らせないようにする為の城壁のようなものだが、どちらにせよたった半年でここまでの壁を作り上げたのはさすがと言えるだろう。
これがあると無いとでは、今後の戦争の進み方に雲泥の差が出る。
「見た感じ、木造出できてるんだが、火をぶち込めば簡単に崩れるか?」
「流石にそこら辺は考えられてるでしょ。この世界、木が燃えないようにする魔術やら、そもそも燃えない木なんかもるし」
「それもそうか。岩を殴りつけてもビクともしなさそうだから、やっぱり登って制圧が正解なのかねぇ?」
「どうなんだろう?仁が異能使えば流石に崩れそうだけど」
「それはそう。と言うか、基本なんでも崩せるからね。その気になれば、この世界その物を消せるし」
「世界その物を崩せる異能は、やっぱり規模が違うねぇ」
空の上で呑気に話す俺たちだが、戦争が始まるよりも早くここに来たのは目的があるからだ。
あの爺さんめ。俺達が早く移動できるからって、お使いを任せるかね。
そこまで信頼されていると喜べばいいのか、単純に便利やとして使われていることに怒ればいいのやら。まぁ、傭兵として雇われている訳だから、依頼主の仕事はきっちりこなすけどさ。
俺は、死んだ魚の目の方がまだ生気がある目をした教皇の爺さんを思い出しつつ、イスに全員をこちらの世界に戻すようにお願いする。
「キュア!!」
イスは元気よく返事をすると、俺が足場として出した黒の板の上に三姉妹と獣人組を出現させた。
「おいおい。あんなに寒い凍てつく世界で、寝れるのかよ」
「シルフォードお姉ちゃんぐらいだよ。私は寒すぎて、寝たら永遠に目を覚まさないような気がするから寝ないし」
「まぁ........お姉様ぐらいですかね。その他の団員はみんな起きてますし」
イスの世界から帰ってきた三姉妹と獣人組。その中でリーダーを勤めるシルフォードは、世界が変わったというのに爆睡していた。
全員座ってはいるのだが、1人だけ横になっている。
よく寝れるね。あのクソ寒い中で。
俺は、元気ハツラツなトリスに話を聞いてみる。
「寝不足だったのか?」
「多分?昨日私達が寝る前に何かやってたし、寝た後も何かやってたと思うよ」
「“この移動中に寝れるからいいや”とか思ってそうだな。相変わらずマイペースな奴だ。おーいシルフォード。着いたぞ起きろー」
俺が声をかけると、シルフォードはゆっくりと目を覚まし、目を擦りながら体を起こす。
顔がそれなりに美人なのも相まって、かなり様になる起き方なのだが、如何せん普段のシルフォードを知っていると腑抜けた子に見える。
普段の行いって大事だなぁ。
「あ、団長さん。おはよう」
「おはよう、シルフォード。夢の世界は楽しかったか?」
「サラとイスちゃんの遊びに巻き込まれた上に、他の厄災級魔物達がそれを見て混ざってきた夢が楽しいと感じられる?」
「よく安眠してたな。そんな夢の中で」
俺でも嫌な汗かいて起きるぞ。
サラとイスの遊びと言えば、基本的に殺し合いとしか思えないほどの馬鹿げた火力合戦で、更にそこに厄災級魔物が混ざってきたとなれば、世界の終焉を見ている気分になるだろう。
しかも、夢の中だ。多分、火力が頭おかしいことになっているはずである。
ちょっと前に厄災級魔物達を集めて大乱闘をしたことがあったが、多分それの数十倍は酷いことになってるだろうな。
........よく寝れるね。そんな夢を見て。
「夢の中は死なないからね。ボーっとしてても大丈夫」
「いや、そう言う問題じゃないと思うんだが?」
幾ら夢の中とは言え、そんな世紀末な光景を見たら起きるだろうに。
チラリと花音を見て、“そんな夢見たら寝れる?”と目で聞いてみるが、花音は首を横に振る。
やっぱり無理ですよねぇ。
シルフォード。意外と根性が座っているらしい。
俺はシルフォードの凄さに軽く感動を覚えつつ、手を1度パンと叩いて視線を集める。
「さて、そろそろ下に行くよしよう。全員、仮面を被るように。それと、エドストル」
「はい」
「仇か居たら優先して殺しに行け。相手が自分よりも強いと思ったら、俺か花音を呼びに来い。いいな?」
「分かりました」
「大丈夫団長さん。私もついて行くから」
獣人組が戦争に参加する理由は、主にエトストルの仇が居るはずだからだ。
俺達は戦争が始まる前にさっさと復讐を終わらせるつもりではあるが、顔以外全てが分からないエドストルはそうもいかない。
もしかしたら、この戦場にいないかもしれないしな。
ワンチャン剣聖が復讐の相手でしたとかも有り得るが、エドストルの話を聞く限りジジィでは無いので大丈夫だろう。
シルフォードもバックアップについてくれるとなれば、余程の相手でなければ負けない。
「それは頼もしいな。とは言え、俺達が動けるのは戦争が始まってからだ。しばらくは待機になるから、そこら辺の兵士達と揉め事を起こすなよ?」
「絡まれた場合はどうする?」
ぜリスが手を挙げて質問をする。
「できる限りは手を出すな。手を出された場合は、1発防御してからやり返せ。間違っても殺すなよ?」
「分かった」
「基本的に纏まって動いていれば、絡まれることは無いだろ。神聖皇国の人間が多いここなら、差別はほとんどないだろうしな。問題は........俺達が影の英雄とやらで有名になりすぎてサインやら握手を求められる事だろうが、それは各々で頑張ってくれ」
「団長殿が全てを受け持ってくれてもいいんだぜ?」
「勘弁してくれ。俺はそう言うキャラじゃない。多少は対応するけど、お前らの分までかっ攫うのは面倒だ」
俺がそう言うと、全員俺がファンサービスをしている光景を思い浮かべたのか、口々に“無いな”“似合わない”と呟いた。
うん。俺もキャラじゃないなと思いながら毎回サインして握手してるよ。
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