社畜教皇

 翌日。俺達は教皇に呼び出されていた。


 どうやら最終戦争における確認を色々としたいらしく、教皇は調整やらで忙しい中時間を作り出して俺達と対面する。


 報告書の山を捌く俺たちなら何となくその苦労はわかるが、一国家全ての云々を1人で回すとなればそれの比ではないだろう。


 部屋に入った時に見えた教皇の顔は、以前よりも疲れていた。


 「大丈夫か?滅茶苦茶顔色が悪いが........」

 「気にしないでくれ。元からだ」

 「いや、元からそんな顔してても心配だわ。ちゃんと寝てるのか?」

 「安心してくれ。毎日2時間程度は仮眠を取っているからな」


 それのどこに安心できる要素があるんですかねぇ。


 2時間しか寝ていないとなると、作業効率はガタ落ちだ。俺達のように若ければ、何とでもなるが、相手は80過ぎのおじいちゃんである。


 マジで死ぬぞ。異世界にまで来て過労死なんて言葉、聞きたくないんだけど。


 「2時間しか寝ていないの間違いだろ。今日はもう寝ろって。明日話は聞くからさ」

 「そういう訳にも行かん。特にジン殿達には確認したいことが多くあるからな。まだ大丈夫だとは思うが、明日にでも戦争が起こる可能性はあるのだ。勝手に動かれても困る」


 多分、厄災級魔物を動かすのかどうかの話をしているのだろう。


 流石にここで厄災級魔物を動かす気は無いが、教皇は俺達が最低限の常識すらも弁えていないやべー奴とでも思っているのだろうか。


 いや、思ってるんだろうな。そもそも、厄災級魔物と仲良くなることが常識知らずだし。


 俺は、話が終わってから教皇を無理やり寝かそうと考えると、用意された紅茶を一口含んでから話し始めた。


 「分かった分かった。それじゃ、この話が終わったら寝ろ。ここで死なれたら勝てる戦争も勝てなくなるぞ」

 「いや、しかし........」

 「寝ろ」

 「うむぅ........」


 難しい顔をする教皇だが、無理やりにでも寝かすからな。ここで死なれるのがいちばん困る。気絶させてでも寝かせよう。


 俺はそう心に決めると、本題に入った。


 「んで、確認ってのは?」

 「先ずはジン殿達の戦力をどれほど動かすのかについてだ。厄災級魔物は動かさないで欲しい」

 「当たり前だな。前は神聖皇国の人間やらが居なかったから動かしたが、それでも抗議が来るんだろ?神聖皇国の人間が居たら、場合によっては国内で氾濫が起きそうだからな」

 「話が早くて助かる。その通りだ。我々がこの戦争で負けそうになったのであれば、使うことも辞さないが........この戦況をでは使った時のデメリットの方が大きい」


 そもそも動かす気などないのだが、教皇からすれば確認したかったのだろう。


 一体でも投入すれば、戦争が終わる最強のジョーカー。俺の場合は簡単に切れてしまうからこそ、教皇は注意しなくてはならない。


 その気になれば、世界の全てを相手にしても勝てそうだしなぁ。


 教皇は俺から言質が取れて安心したのか、小さくため息を着く。


 そんなに心配な案件だったのか。


 「厄災級魔物は投入しないが、それ以外は動かすつもりだぞ」

 「それ以外とは?」

 「ここに居る俺達はもちろん、アゼル共和国の戦争に参加した面々も連れていくつもりだ」

 「アゼル共和国の戦争と言うと........“炎帝”や“幻魔剣”が暴れたやつだな」


 おぉ、教皇のまでその名前を知っているとは。


 シルフォードとエドストルは出世したな。神聖皇国にもこの名前が広がりつつあるのは知っていたが、その国のトップまで知っているとは予想外である。


 きっとエルドリーシスさん辺りが名前を広めてくれたんだな。


 少し感動しつつ、俺も二つ名欲しいなと思う。


 自分で名乗るのは痛々しすぎるので、早く誰かがつけて欲しいものだ。


 出来ればカッコイイ感じでお願いします。

 

 そんなことを考えつつ、俺は教皇の言葉に頷いた。


 「そうだ。“炎帝”や“幻魔剣”を含めた8人は戦争に参加させる」

 「8人?アゼル共和国の戦争では10人参加していたと聞いたが........」

 「二人は私たちの拠点の維持に務めて貰うんだよー。拠点も人の手が無いとホコリを被るからね。この大聖堂だって、人が居なければ維持できないでしょ?」

 「なるほど。確かにそうだな。厄災級魔物が掃除やら草抜きをできるとは思えんし」


 サラッと俺がしてしまったミスに、花音が素早くフォローを入れてくれる。


 ありがとう花音。戦争に参加した8人は、全員人種だと世間的には思われてるのを完全に忘れてたよ。


 吸血鬼夫婦は厄災級魔物だが、戦争に参加した時は人間って設定だったな。


 半年以上も前の話だがら、頭から抜け落ちていた。


 チラリと花音の方を見ると、教皇からは見えないようにしながら花音は親指を立てる。この反応を見るに、俺がやらかすと分かっていたみたいだな。やはり持つべきは、理解者である。


 後、教皇よ。厄災級魔物でも掃除や庭の手入れはするんだぞ。なんなら、我が傭兵団達の胃袋を掴んでいるのは厄災級魔物だ。


 凝り性のドッペルとか本当に凄いし。アンスールの飯は美味いし。


 厄災級魔物は意外と人間らしい事をするのだ。


 まぁ、実際に見ないと信じられないだろうが。


 「ふむ。では、ジン殿達を合わせて11名が戦争に参加するということでいいのかな?」

 「あぁ。たったの11人だが、一個師団以上の働きをして見せよう」

 「それは楽しみだ。しかしだな。ジン殿達はやるべきことがあるのだろう?」

 「やるべきこと?」

 「忘れたのか?復讐だよ。ジン殿達にとっては、ジン殿を殺そうと画策した愚か者共を地獄に送り出す為の戦争だろうに」


 その事か。


 この戦争が起きた発端は、バカ5人が俺を殺そうとしたことから始まっている。


 花音が大事にして全世界を巻き込む世界戦争を引き起こし、今では11大国の内の2ヶ国が滅んでいた。


 そう考えるとやっぱすげぇな。


 戦争が起きた理由が、第一次世界大戦や第二次世界大戦に比べて酷すぎる。


 世界的には、犯罪者を匿った正教会国に神聖皇国が宣戦布告したことになっているが、真実はただの復讐である。歴史家困惑するだろこれ。


 教皇は1枚の紙を取り出すと、それを俺に手渡してきた。


 「あの愚者どもの居場所はわかっている。好きなようにしてくれて構わない。が、それが終われば本格的に手伝って貰いたい」

 「分かってるさ。そうだな........既に戦争状態だし、暗殺しても問題ないんだから先に殺すか。あの馬鹿どもが何をやらかすのか分からないしな」

 「そうだねぇ。自分達は強いからとか言って、前線に出てくる可能性が無いとは言えないからね」

 「ふむ。そこら辺は君達に任せよう。その後の話だが──────────」


 こうして、教皇との話は1時間にも及んだ。


 もちろん、話し合いが終わった後教皇を無理やり眠らせ、教皇代理となっている枢機卿フシコ・ラ・センデスルを呼びに行って仕事を変わらせた。


 枢機卿も教皇の体調は心配していたらしく、言っても聞かなくて困っていたそうで、無理やり眠らせたことに感謝していた。


 どれだけ詰め込んで仕事してたんだか。この爺さんは。

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