最終戦争

 光司と再会してから3週間後。遂に最終戦争の準備が整った。


 神聖皇国は正面からだけでは無く左右からも攻め入るようで、正共和国と正連邦国にも軍を配備しいてる。


 既に占領され実質的に崩壊したこの二ヶ国には、獣王国やドワーフ連合国はもちろん、その他の11大国の国の軍も配備されていた。


 「正に最後の戦争って感じだな。正教会国は、三方向から責められることになるぞ」

 「大変だねぇ。まだ剣聖が残っているとは言え、あのお爺さん1人でなんとかなる物でも無いだろうし」

 「何とかなったら困るわ。どんだけ足が早いんだよ」


 神聖皇国から報告を受け取っていた俺達は、影を経由して送られてくる報告書に目を通しつつのんびりとした時間を過ごす。


 最終戦争の準備が整ったとは言え、まだ本格的にドンパチを始める訳では無い。俺達がこうしてゆっくりと暇を潰していても、問題はなかった。


 「正教会国の軍は予備役まで総動員されてるけど、それでも数が足りてないね」

 「そりゃそうだろ。1vs8だぜ?しかも、相手は自分達と同格の国だ。人的資源も豊富だし、優秀な人材も多い。近場の属国から兵士を引っ張ってきてはいるが、それでも限界はあるからな。中には、すでに正教会国を裏切って寝返った国もある様だし」


 この戦況を見て、正教会国側が有利なんて考える奴は居ないだろう。嘘の情報を流されている正教会国の国民ならまだしも、正確な情報を得ることが出来る属国ならば戦況を見ることぐらいはできる。


 そして、圧倒的に不利だと言うこともわかっている。


 だからこそ、自分たちの国が滅ぶ前に神聖皇国に擦り寄ってきたのだ。


 「教皇としては有難いだろうな。相手の戦力は落ちるし、戦争が終わったあとに属国も始末すれば楽に終わらせられる」

 「やってる事が汚いねぇ。こちらに寝返ったのなら、そのままにしてもいいだろうに」

 「仕方がなく正教会国に従っていた国ならな。主に、正教会国側のイージス教を信仰して居ない国ならワンチャン見逃してくれるかもしれないが........ほとんどの国は属国になった時に国教を正教会国側のイージス教にしている。今回の戦争は、正教会国側のイージス教信者を全て殺すのが目的なんだから、許してはくれないだろうな」

 「その命令を出したのが朱那ちゃんなんだよねぇ」


 花音は大きくため息をつくと、ごろりとベッドに寝転がる。


 後ろで報告書を覗いていたイスの膝の上に花音の頭が乗る形になり、イスは機嫌良さそうに花音の頬をつんつんして遊んだ。


 「ママのほっぺ柔らかいの。ぷにぷになの」

 「でしょー。もっとぷにぷにするが良い」


 楽しそうだね君達。


 俺は花音とイスに癒されながらも、どうしたものかと考えた。


 「流石に本人に聞けるような状況じゃないし、教皇が今の今まで黙っているって事はバレたらヤバいやつだろうしな。下手なことは聞けん」

 「こっちに来た時に聞けばいいんじゃない?少し怪しい事があるけど、仲間にするんでしょ?」

 「そうだな」


 黒百合さんと謎のもう1人は既に仲間にする気満々である。黒百合さんは高嶺の花として誰も触れようとしないが、1度でも触れてしまえばいい子だと言う事はわかっている。


 そんな彼女とその友人ならば、問題なくウチの傭兵団でもやって行けるだろう。


 むしろ、あの変人達に馴染めるのかの不安の方が大きい。


 既に団員達には“大天使”が仲間になると伝えてあるし、その時の反応も特に何かあった訳でもないので、過去に因縁があるような者は居ない........と思う。


 最悪何かあったとしても、なんとかなるだろ。たぶん。


 そんなことを考えつつ報告書に目を通していると、気になる報告が目に入ってきた。


 「ん?龍二達はドワーフ連合国側の方から攻めるんだな」

 「そうなの?」

 「あぁ、ドワーフ連合国だけだと戦力不足だから、天聖率いる亜人連合国と聖堂騎士団の幾らかがそっちに行くみたいだな」

 「その中に龍二やアイリスちゃんが入っていると?」

 「そういう事みたいだ。獣王国と神聖皇国が受け持つ戦場はかなりの戦力があるからな。神聖皇国は聖堂騎士団第一がいれば大抵の事は何とかなるし、獣王国は“獣神”がいれば問題無し。更には、合衆国が獣王国側に着いているから万が一も無さそうだな」

 「神聖皇国には聖王国と大帝国が一緒に攻め込むし........大エルフ国は?」

 「大エルフ国は色んなところにちょこちょこ配置されてるみたいだな。“精霊王”は一応神聖皇国のところにいるが、戦況を見て動くらしい」

 「へぇ。流石は移動に優れた風の大精霊と契約しているだけはあるね。機動力を買われたんだ」

 「だろうな。ウチの精霊魔法使いとはまた違った味が出てる」


 炎の大精霊と契約したシルフォードは火力一点型。対する風の大精霊と契約した“精霊王”ミューレは機動力特化と言った感じだ。


 属性事に特徴が現れるのは、魔法と同じだな。ウチの傭兵団は異能者ばかりで、あまりそこら辺は考えても意味無いが。


 「あの馬鹿どもは何処に配置されるんだ?と言うか、戦場に出てくるのか?」

 「出てくるよ。ほらコレ」


 花音は影から報告書を取り出すと、俺に手渡してくる。


 俺はそれを受け取って内容を見ると、ニヤリと口を歪めた。


 「へぇ、これなら問題なく殺せそうだな。てっきり“勇者様に続け!!”ってやるかと思ったぞ」

 「向こうもそこまで馬鹿じゃないんでしょ。あんな腰抜け共を先頭に立たせたら隊列が乱れるよ」

 「それもそうか。ともかく、戦場には出てくるみたいだし、ぶち殺してもいいんだよな?」

 「いいと思うよ。仁の気が済むまで好きにやるといいよ。幸い、逃げれないようにする手段は有るからね」


 花音はそう言うと、イスの膝から起き上がってイスを抱きしめる。


 完全な別世界に誘うイスの異能ならば、逃げる事はできないだろう。その世界でじっくり殺してもいいかもしれない。


 「花音はどうしたい?」

 「私はなんでもいいよ。死んでくれれば。だから、仁がスッキリする方法で殺っちゃって」

 「いいのか?」

 「いいよ。あっさり殺してもいいし、目を背けたくなるレベルの拷問でもヨシ。好きにしちゃって」


 花音はそう言うと、機嫌のいいイス頬に自分の頬を擦り合わせる。


 今日は少し暑いから、イスの冷たさで体を冷やしているのだろう。そんな事しなくても全然耐えられるのだが、イスの冷たさは気持ちいいから仕方がない。


 俺はそんな花音を見て少し笑うと、何か隠している花音に感謝した。


 「ありがとう。そうさせてもらうよ」

 「うんうん。五年越しの復讐。仁も私も恨みが深いねぇ」

 「似たもの同士だからな。じゃなきゃこうして20年近くも一緒に居ないだろ」

 「そうだねぇ。ふふっ」


 花音は小さく笑うと、イスのお腹をムニムニしだすのだった。


 あれ?イスもしかして少し太った?

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