親の顔
光司との再会後、俺達はこの5年間何をしていたのかを話し合った。
隣に聖女様もいた為少し濁して話した内容もあったが、大まかな事は話せただろう。
「へぇ、そんなことがあったんだね。僕とは比べ物にならないほど波乱万丈の人生だ」
「だろ?俺もそう思ってる。そのおかげで強くなれたし、世界を色々とみて回れたから楽しかったけどな」
「いいなぁ。僕は神聖皇国とその周辺国家の事しか知らないから、こうして話を聞けて良かったよ。いつか旅に出るのも楽しいかもなぁ」
「困りますよコウジ。あなたが旅に出られると、私が困ります」
「あはは。わかってるよリアンヌ。言ってみただけだ」
可愛らしく頬を膨らませて光司の腕を掴む聖女様と、それを見てニッコリと笑いながら少し距離を寄せる光司。
なるほど。毎回この様子を見せられたら黒百合さんもイラつく訳だ。
これにプラスして龍二とアイリス団長のイチャつきを見せられるのだがら、焦る気持ちも分からなくは無い。
「ところで、黒百合さんと遊んでいるあの子の話が出てきてないが?」
「あぁ、イスの話だな。イス!!こっちにおいで」
「はいなのー」
黒百合さんと遊んでいたイスは、気の抜ける返事とともにトコトコとこちらにやってくる。
イスと遊んでいた黒百合さんも、イスがこちらへやってくるのに着いてきた。
ニコニコしているが、その後ろに般若の像が見えるのは気のせいだと思いたい。
「仁君仁君」
「なんだい黒百合さん」
「後で光司君と一緒に説教受けてね?」
「........それはその時次第かな」
心の中で逃げようと決めると、俺はイスを光司と聖女様の前に配置する。
賢いイスは、挨拶するべきだと判断してぺこりと頭を下げた。
「パパとママの子のイスなの。よろしくなの」
「よろしくイスちゃん。僕は光司。呼び方はなんでもいいよ」
「よろしくお願いします。イスちゃん。私はリアンヌです」
2人ともイスの視線に合わせてしゃがみながら、ぺこりとお辞儀をする。
2人とも子供の扱い方が分かってそうで何よりだ。二人の間にで来た子は、きっといい子に育つんだろうな。
光司はイスに飴をあげると、頭の上に“?”マークを浮かべながら近くに来て小さな声で聞いてきた。
「どう見ても二人の子だとは思えないんだけど、どういう経緯?」
さすがはデキる男、光司。
どこぞのデリカシーの欠けらも無い師匠とは違って、しっかりとイスに気を使ってイスに聞こえない声量で話している。
残念ながら、イスの耳はとんでもなくいい為この会話も聞かれているが、かなり気遣っている様子が分かってるいのかイスが不機嫌な雰囲気を出すことは無かった。
「どういう経緯もクソもないぞ。アレはうちの子だ」
「いや、それは分かってるんだけど。見た目と年齢が合わないし、花音さんが向こうの世界にいる時に妊娠していたとしても年齢が合わない。こう言うのは失礼だと分かっているんだが........その........拾って来たのかい?」
「いや、拾って来てないぞ。正真正銘俺と花音........の子だ」
「本当だよ。私と仁の子だよ。まぁ、色々とあってね」
俺はサラッと
光司は、花音の言った“色々とあって”で大体のことを察したのか、深くは聞いてこなかった。
やはり光司。デキる男である。
「なるほど?事情がありそうだし深くは聞かないよ。とりあえず、あの子は二人の子なんだね?」
「そうだな」
「そうだよ」
「ならいいや。2人とも、もう人の親になったんだね。子育てって大変?」
「さほど苦労はしてないな。イスは賢いから、大抵の事は勝手に覚えるし」
「そうだねぇ。苦労したのが我儘を覚えさせることだったからねぇ」
「我儘の付き方を教えるのか........」
どう見ても普通では無い教育に、光司はなんて顔をしたらいいか分からない顔をしながらイスを見る。
黒百合さんはイスがドラゴンだと気づいていたが、光司は気づいていないようだ。
もしくは、気づていても何も言わないのか。
イスの頭を撫でながら、聖母の微笑みを見せる聖女様は気づいた様子はなし。
これならイスの正体を言う必要は無さそうだ。
「僕もいつかは持つ事になるのかなぁ?」
「なるだろうな。聖女様と勇者様の子供だぞ?民衆に待ち望まれているだろうさ」
魔王を討伐した勇者様と国の守護者たる聖女様。その2人の間に子供ができるのを待ち望む人も多い。
それだけ、2人はこの国の人々に好かれているのだ。
「やっぱりそう思うかい?」
「俺達に子育てのイロハを聞くなよ?家の子育ては普通じゃないからな」
「参考までに、何を教えたのさ」
「トランプでのイカサマのやり方とか、麻雀、囲碁、オセロ、将棋、チェス、魔物の捌き方と調理の仕方、人間関係とかだな」
「最後はともかく、その前が酷いね。なにそれ」
「だから言っただろ?家の子育ては普通じゃないんだ」
自分でも言ってて酷いなとは思うが、それ以外に教えることがないんだよ。
言葉も計算も勝手に覚えてたし、文字も気づいたら書けるようになっていた。アンスールが教えた訳でもないので、見て学習したのだろう。
優秀すぎる子を持つと、親は遊んでやることぐらいしかやることがない。
「勉強は教えないのかい?」
「全部勝手に覚えてた。少なくとも、必要なもの全てな。この世界の歴史なんかはそもそも俺達が知らないし、知らなくても問題ないだろ?」
「確かにそうだね。って言うか、文字も算数も自力で学習したの?」
「したな。花音、イスになんか生きていく上で必要なことって教えたっけ?」
「人間関係や道徳を除けば、たぶん無いねぇ。全部勝手に覚えてたし」
「........神童過ぎないかい?」
神童って言うか、ドラゴンですからね。
そもそも人と頭の作りが違うんだよ。ドラゴンだもん。
とは言えないので、俺はゆっくりと大きく頷いておく。
「マジで賢いぞ。神童って言っても過言ではないぐらいにな」
「ふふ、仁君のそんな顔、初めて見たよ」
「あん?」
「君も親なんだねって事さ。僕の父が親戚に僕を自慢する時にそんな顔をしていたのを覚えているよ」
「そうか。それは褒められてんのか?」
「僕の中では最高の褒め言葉さ。遠慮せずに受け取ってくれよ」
「そいつはどうも」
ぶっちゃけあまり褒められてる気はしないが、心から褒めているのは伝わってきたので受け取っておく。お前の父親なんて知らないんだがな。
その後、久々に集まった面々で暇つぶし道具に持ってきた“人生ゲーム”を全員で遊んだ。
もちろん、黒百合さんに説教された後に(怖かった)。
結果は、ガチで人生ゲームを極めている俺達がぼろ勝ちし、黒百合さんと光司と聖女様は借金まみれでぼろ負けしたのだが、みんな楽しそうだったので良かった。
そして、その日から3週間後。
ついに最終戦争が始まる。
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