神正世界戦争:天地堕ちるは禁忌の足音

 ドワーフ連合国と正連邦国が睨み合う国境部。


 切り札を失った両国は、決定打が欠けていた。


 一進一退の攻防。一向に進まない戦場にその“禁忌”は舞い降りる。


 太陽を反射し、鮮やかに輝く金色の長髪はこれから終わりを告げる者には見えない。右側にだけした片眼鏡を軽く持ち上げながら、彼は目下の人間達を見下ろした。


 「全く。教皇も困ったものですね。私の仕事は“アレ”の守護でしょうに。国の一大事となれば戦うのもやぶさかではありませんが、他国の戦争に介入させられるとは思いませんでしたよ」


 大聖堂の書庫の奥に眠るとあるモノ。“禁忌”ロムスは“それ”を守るためにあの場にいる。


 いつ、誰が来ても対応できるようにしているのだ。以前、侵入してきた人物を追い払うように。


 ロムスは今回の依頼を断りたかった。自分の仕事は書庫の守護。自分が居ない間に盗まれでもしたら大惨事である。


 使い方を知るものが持てば、世界を滅ぼしかねない。


 だから、最初は断った。しかし、普段ならば引き下がる教皇は引き下がらない。どんな条件でも飲むと言って、引き下がらなかったのだ。


 「まさか、本当にジークフリードさんとルナールさんを呼んでくるとは思いませんでしたよ。もう少し無理難題を押し付けても良かったですかね?」


 ロムスはそう言って、連絡手段がないとある傭兵団を思い浮かべる。しかし、その考えはすぐに捨てた。


 好奇心旺盛な彼の事だ。まず間違いなく、その奥に眠る謎を見に行くだろう。


 彼が使い方を知っているとは思えないが、たまたま使えたなんてことがあったら問題だ。


 ロムスは小さくため息を着くと、まだ動き出さない両軍を見て動き出す。


 ドワーフ連合国には既に“動くな”と言ってある。これならドワーフ達を巻き込むことは無いだろう。


 ロムスは魔力を練り上げると、1冊の本を具現化させた。


 普段から眺めている、ロムスの異能によって作られた本だ。ロムスはその本のあるページを開くと、そのページを切り取った。


 「では行きましょう。彼らが守ってくれているし、私が本気の結界を張っているとは言え不安ですからね。さっさと終わらせるとしましょう。“魔術図書館アカレシックコード”」


 ロムスは切り取った紙を空中に投げると、そのページに書かれた“禁術”が発動させるする。


 本来は魂を削って行使する“禁術”だが、ロムスの異能はこの魂の消費を自身のものでは無い者に使わせることが出来る。


 奪い取った魂を本の中にストックさせ、必要に応じて消費する。これが“禁術”をリスク無く発動させる仕組みだ。


 天に大きく描かれた魔法陣は、相当複雑なものであり幾何学模様のように複雑に絡み合う。古代に滅んだ文字すらも使われたその“禁術”は、正連邦国の陣営が何事かと空を見上げると同時に発動された。


 「“天堕ダウン・フォール”」


 堕ちるは空気。しかし、その圧力は到底人が耐えうるものでは無い。


 重力の何百倍もの負荷が上からのしかかるとなれば、幾らでも鍛えた人間であっても耐えるのは無理であった。


 ドン!!と、空気が堕ちてきたとは思えない音が響き渡り、禁術の範囲内にある全てを押しつぶす。


 木も草も人間も全ては均等に押しつぶされ、残ったのは赤く染った平坦な大地のみ。


 その場で息をしているものは一人もおらず、残った大地だけが息をする。


 「ふむ、ここまでやれば問題ないでしょう。予備の軍も多少はありますが、正規兵の殆どはここに居ましたしね」


 ロムスはそう言うと、ドワーフ連合国の本陣に舞い降りる。


 誰もがその惨状を見て震え上がり、動けなくなっている中でロムスだけはのんびりと本陣にいる総大将に話しかけた。


 「私の仕事はここまでです。要望通りでしょ?」

 「え?あ、あぁ。感謝する。“禁忌”ロムス殿」

 「いえいえ。これも仕事ですから。では、後は頑張ってください。私はこれで」


 ロムスはそう言うと魔術の1つを発動させて空を飛ぶ。


 「さて、彼は満足してくれたかな?全く、どこで情報を聞きつけたのやら。覗きとは感心だね」


 ロムスは1人でそう呟くと、視線を感じる方向を一瞬だけ見て神聖皇国に帰るのだった。


 その後、主力部隊を軒並み失った正連邦国は敗走を続け、遂には首都を占領されることになる。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 やっべ。バレてらァ。


 ロムスが遂に戦うと言うので見学に来た俺達だったが、どうやら見学しているのがバレているようだった。


 距離的には俺達の姿を視認するのは無理だろうが、視線を感じ取ったのだろう。


 場所を悟らせないようにして見ていた訳では無いので、仕方がないと言えば仕方がないと言える。流石はロムスだ。


 「バレちゃったね」

 「まぁ、別にバレてもいいやの気分で見てたからな。しょうが無いと言えばしょうがない。イスも人化してたし、こちらがドラゴンの背中に乗って空を飛んでたとかはバレてないだろ」

 「凄いの!!全てが真っ平らなの!!」


 若干興奮するイスの頭を撫でてやりながら、俺はロムスがつくり上げた真っ平らなその地を見つめる。


 なんか見たこともないでっかい魔法陣が空に浮かんだなと思ったら、全てが押しつぶされていた。


 「流石は“禁忌”........ってか強すぎじゃね?あんなレベルの攻撃を連発できたら、1人で国の一つや二つ滅ぼせるぞ」

 「滅ぼせるだろうねぇ。それが“禁術”なんだよ。ほら、ヴァンア王国の時に使われたらしい禁術も周りへの被害が凄かったでしょ?」

 「確か........“天候操作タン・トリポテ”だったか。確かに、周りは砂漠になってたな。ストリゴイ曰く、昔はあの砂漠地帯も緑があったって話だし」


 ヤベェな禁術。下手しなくても、厄災級魔物レベルの破壊力だ。


 そりゃ、使用を禁止される訳ですわ。だって前の世界で言う核兵器だもん、あれ。


 その核兵器レベルの厄災を動かした俺が言えた話では無いが。


 「もしかしなくても、ロムスってめっちゃ強いな?」

 「強いだろうね。多分、剣聖に並ぶと思うよ。2人ともタイプが違いすぎて比較は出来ないけど」

 「剣士と魔術師だからな。とはいえ、2人とも強すぎだ。戦ったら多少苦戦しそうだな」

 「よく言うよ。手札を全部使えば瞬殺できるくせに」

 「いや、向こうも手札の全ては見せてないだろ?条件は一緒さ。それに、切れない手札も多いからな。主に、周囲への被害が半端ないから」


 俺達はそう話しながら、拠点へと戻るのだった。


 “禁忌”ロムス。あれほど猛者が守る書庫の奥には、一体何が眠っているのだろうか。


 好奇心が湧き上がるが、多分見せてくれないんだろうな。





 魔術解説

天堕ダウン・フォール

 とてつもない勢いで、空気を地面に叩きつける禁術。

 その威力は山1つを平気で平にするものであり、やってることはエアプレス機。

 範囲もかなり広く、本気を出せば小国の半分ぐらいはつぶせてしまう。が、作中では魂の消費を加減することで範囲を抑えた。

 破壊力だけで見ればとんでもなく強力な禁術のため、消費する魂もかなりのもの。少なくとも、一般人の魂1つでは、発動すら出来ない。

 小国の半分を潰す威力を出すならば、万単位の人が(平均的な一般人換算)必要だろう。

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