誰にでも可愛い時期はある
結局、マルネスからなにか有益な情報を得られることは無く、魔道具店を後にした翌日。
俺達は、道中出会ったモヒカンと教会を目指していた。
「最近、マリア司教とはどうなんだ?」
「どうってなんだよ」
ニヤニヤしながら話を聞く俺に嫌な予感を覚えたのか、モヒカンは心底嫌そうな顔する。
俺だけではなく、花音もニヤニヤしていたらしいので、嫌な予感が2倍になっていたことだろう。
「とぼけるなよ。最近は更に距離が近くなったそうじゃないか。他の傭兵達も、言っていたぞ。マリア司教とモヒカンがくっつく日は近いってな」
「........あの馬鹿共。後でシバいてやる」
「んで、どうなんだ?モヒカンも神に使える神父様になるのか?」
「俺が神に使える人間に見えるか?だとしたらその目を取り替えてもらった方がいい。こんな見た目の俺が、神父になれるわけねぇだろ」
確かにそれはそうだ。
仮にも女神を信仰し、その教えを説く神父様がこんな厳つい見た目をしたモヒカン野郎だったら、間違いなくやべぇ事に手を出している教会になってしまう。
某ブラックでラグーンな暴力教会ですら、こんな見た目の奴は居なかった。
あちらは、変わりにマシンガンぶっぱなすが。
モヒカンは少し顔を赤くしつつ、照れくさそうに鼻を擦る。
正直、世紀末なヒャッハーの見た目をしている奴が顔を赤らめているのを見るのは拷問に近い何かを感じるが、ここは何も言わなかった。
「マリアは兄貴を見てるんだよ。そっくりな俺を見てな。確かに俺もマリアには惚れているが........あちらが兄貴を見ている以上、俺が近寄ることはねぇよ」
「そうか?俺にはそんな風に見えなかったけどな」
「私も見えないねぇ。ちゃんとジーザンとしてモヒカンを見てると思うよ?」
「ケッ、基本的にはな。だが、時折感じるんだ。マリアの目が俺と兄貴を重ね合わせてるのがな」
これに関しては茶化すとかできないな。と言うか、触れづらい。
ここでふざけたことを言う気にはならないし、だからと言って何か特別なフォローをするのも難しい。
不謹慎ネタって擦りにくいんだよ。少しの間だが、世話になったモヒカン兄の事を弄るのは流石に良心が痛むし、どこに地雷があるか分からないから突っ込みずらい。
が、それは俺だけのようで花音は容赦なく突っ込んだ。
「つまり、ジーザンは自分だけを見て欲しいわけだね。死んだジーザスの亡霊を見てないで、“俺だけを見て、俺だけを愛せ!!”ってね」
「い、いや、そこまでは言ってないぞ........」
「え?でもそう聞こえるよ。大丈夫。自分だけが愛されたいっていうのは、間違った欲望じゃないんだから」
「........」
モヒカンは少し険しい顔をしたあと、何も言わずに花音を見つめる。
しばらく花音を見たあと、俺を見てもう一度花音を見た。
「独占欲って言うのか?兄貴と俺を重ねること自体は悪いとは言わねぇよ。あっちの馬鹿共も同じような事をしている。だがな、その重ね合わせた先に愛を感じるのはな........」
モヒカンは、そう言うと俺達に少し羨ましそうな視線を向ける。
モヒカンはモヒカンで色々と悩んでるんだな。何も考えてなさそうな顔してるくせに生意気だぞ。
「お前達みたいな関係なら、こうして悩まなくても良かったかもな。後、お前たちぐらい馬鹿ならもっと楽だった」
「........あれ?もしかして喧嘩売られた?」
「売られたね。すごいよモヒカン。こんな時に喧嘩を売ってくるなんて。マリアちゃんには悪いけど、今日はモヒカン教会に行けなくなっちゃうね」
「ちょ、ちょっと待て!!そういう意味で言った訳じゃないから!!あ、ほんとに待って、その握りこぶしを下ろして!!」
慌てふためきながら、言い訳を始めようとするモヒカンに俺達は笑顔で握りこぶしを作るとその頭と鳩尾に思いっきり拳を叩きつける。
モヒカンは“グハッ!!”とやられ役のような悲鳴をあげながら、殴れ飛ばされた。
「今日も皆元気なの」
隣で干し肉をもぐもぐとするイスが、呑気に俺達を眺めるのだった。
その後、殴られた場所を擦りながらモヒカンは半泣きで教会たどり着く。
もちろん、モヒカンを殴った俺達は少し爽やかな顔をしていた。
「さて、ヌーレは居るかな?」
「まだ1歳と半年ちょっとでしょ?誕生日が分からないから2歳かもしれないけど」
「爺さんに聞いておくべきだったな」
ヌルベン王国は現在、国王派閥と皇太子派閥の争いでくにが真っ二つに割れてしまっている。
子供達の力を使っても良かったのだが、それはあの国王が嫌がると思い何も手は出していない。
もし、それで爺さんが死んだとしても俺は手を出すつもりはなかった。ヌーレを手放してからというもの、爺さんはどこか死にたがっているようにも見える。
俺は死者を生かすほど暇人でもないので、死にたがりは勝手に死ねという訳だ。
「ってか、ヌーレって男の子?女の子?どっちなんだ?」
「女の子だと思うよ。赤ちゃんって区別付きにくいよねぇ。仁が子供の時とか女の子みたいだったし」
「え?パパって女の子だったの?」
「違うぞイス。俺は男だ。ただ、幼少期は女の子にも見えなくはなかったってことであって」
「????」
イスは俺の言ったことがよく分かっていないようで、首を傾げる。
どう説明したものかと困っていると、花音がとんでもない事を言い出した。
「要はエリーちゃんみたいな感じだったって事だよ。アレよりは何全倍も仁は可愛かったけど」
「なるほどなの!!」
おい待て、その言い方だと俺が幼少期は女装していた男の子になるじゃないか。
イスも“なるほどなの!!”じゃなよ。君の父親が幼少期に女装していたという事に何も疑問を持たないのか?
いや、持たないんだろうな。イスって純粋だし。
既に納得してしまったイスに説明し直すのも面倒だなと思った俺は、諦めてため息を着く。
すると、後ろで会話を聞いていたモヒカンが小さく呟いた。
「ジンにも可愛い時代があった........だと?!天地がひっくり返るよりも驚きだ。もしや、明日は世界が滅ぶのでは?」
「おいモヒカン?お前まで何言ってるんだ」
「いや、多少冗談で言ったが、割と本気で驚いてる。お前、生まれた時から眉間にシワよってたんじゃないのか。生まれた時からひねくれ者じゃないのか」
「もう1回ぶっ飛ばされたいのか」
なんだろう。ネタで言っている訳じゃなくて、マジのトーンで言われるとものすごくムカつく。
本人は喧嘩を売っている訳じゃないのだろうが、ものすごく喧嘩を売られている気分になるな。
「よし、歯ァ食いしばれ。もう1発殴っておこう」
「待て待て待て!!早まるな!!」
逃げるモヒカンとそれを追いかける俺。昔の俺が如何に可愛かったかを力説する花音と、楽しそうにそれを聞くイス。
女神に祈りを捧げる教会の目の前で、繰り広げられる
「えっと........なんですかね。コレ」
そのつぶやきは誰の耳にも入らない。
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