謎多き幼女
しばらく歩くと、見慣れた魔道具店が目に入ってくる。
相変わらず人の気配がしないその魔道具店へ入ると、チグハグな服装をしたマルネスがカウンター席で爆睡していた。
「人が来ないからって、爆睡するかね。セキュリティとか大丈夫なのか?」
「大丈夫なんじゃない?買ってない魔道具を持ち出そうとすると攻撃してくる魔導具とか持ってそうじゃん?」
「すやすや寝てるの」
両足をカウンターの上に放り投げ、口からヨダレを垂らしながら爆睡するその様はそこら辺のオッサンが酔っ払って寝ているよりも酷い。
これで乙女(笑)とか自分で言うのだから、救いようがないな。
「どうする?叩き起すか?」
「いいんじゃない?濡れたタオルを顔にかけてあげようよ。きっと飛び起きると思うよ」
いや、それ起きなかったら死ぬんですが........
とんでもない冗談を口にする花音の目はマジである。俺が“よし、やろう”とか言ったらやり出しかねないので、そうなる前に俺はマルネスを起こすことにした。
しかし、優しく起こしてやる義理はないので黒騎士を作っておデコにデコピンをぶち当てる。
客が来てるんだから接客しろ馬鹿野郎。
「イデッ!!」
パチン!!とかなり痛そうない音を立てたデコピンは、優雅な夢の中を旅するマルネスの目を覚まさせる。
突如襲ってきた痛みに驚いて椅子から転げ落ちたが、客が来ているのに爆睡してるいのが悪いので自業自得だ。
派手に転げたマルネスは、打った頭を抑えながらこちらを睨みつけてきた。
「これは強盗か?なら衛兵に突き出さないとな」
「客が来てるってのに爆睡する奴が悪い」
「お客様は神様なんだから崇めようねぇ」
「客がどうかを決めるのは私だろうが。それと花音。それは神に対する侮辱だぞ。私はいいが、外では言うなよ?」
「言うわけないでしょ。私をなんだと思ってるの」
「空気の読めない壊れた人形」
「よーし、花音ちゃん、久々に幼女を虐めちゃうぞー!!」
「あ、ちょっと待って、デコピンされた場所に更にデコピンするのは辞めて!!痛いから!!」
藻掻くマルネスを押さえつけてデコピン制裁をする花音。
まぁ、今のはマルネスが悪いので、大人しく制裁を受けてくれ。その間は魔道具でも見ていよう。
「イス。何か欲しい魔道具とかあるか?」
「んー回って見てみるの」
しばらくすれば、半泣きのマルネスと少し満足気な花音が帰ってくる。
同じ場所に何度もデコピンを食らった為か、マルネスノおでこは少し赤くなっていた。
「ただいまー」
「おかえり花音。んで、どうだった?」
「楽しかった!!」
「それは良かった。きっとマルネスも喜んでいるだろうよ」
「1回夫婦共に医者にかかった方がいいな。いや、もう手遅れか」
マルネスはおでこを抑えながら、やれやれと首を横に振る。
アレだけ痛い目を見たというのに、懲りないロリババァだ。
とはいえ、また制裁をしても話が進まない。俺はとりあえず、お決まりの言葉を言っておいた。
「さて、随分と挨拶が送れたが、久しぶりだなマルネス」
「久しぶりだね。半年ぶりかな?」
「そんぐらいだ。んで、話を聞きに来た」
「わかっているさ。“アレ”について聞きたいんだろ?だが、断る。今は話すべき時ではないし、奴らの耳は地獄耳なんだ。私の存在がバレれば困るし、今知ったところでどうしようもない」
“アレ”つまり、“人類の祖”の事だ。
一体マルネスは何を隠しているのだろうか。
若干殺気を出しつつ、脅すような口調で俺は言う。
「お前は何を隠している?」
「乙女に隠し事は付き物だよ。花音やイスちゃんにも隠し事はあるように、私にも隠し事はあるんだよ」
「へぇ?カウンターの上に足を放り投げ、ヨダレを垂らしながら爆睡する乙女(笑)ねぇ。おっさんの間違いじゃないのか?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「ところで、ヨダレの跡が頬に残ってるんだが、いつになったら拭くんだ?」
「え、まじ?」
「マジ」
俺の言葉に、マルネスは慌てて手持ち鏡で自分の顔を確認するとやってしまったとばかりに目頭を抑える。
そして、俺に視線を戻すと申し訳なさそうに店の裏を指さした。
「ちょっと顔洗ってきていい?」
「どうぞ。その汚い心も一緒に洗い流してくれ」
「心が汚いのはお前だろうに。洗い流したらどうだ?」
「純情も流されるから却下」
「寝言は寝てから言えや」
マルネスはそう言うと、トテトテと店の裏に消えて行った。口を開かなければ、そこそこ可愛い人なんだけどなぁ........
俺がそう思っていると、花音が後ろから抱きついて来る。多分、俺の思考を読み取ったのだろう。
「それで、攫っちゃう?向こうは話す気がないみたいだよ」
「話す気がないならいいさ。必要になった時に話してくれるだろ。それまでは記憶の片隅にでも置いておくさ」
「ふぅん。仁がそう言うなら何もしないけど、いいの?すごく知りたそうにしてるけど」
「今知っても意味が無いからマルネスは何も言わないんだろ?なら大人しくしてるさ」
「それで問題が起きたらどうするの?知っていればって事は、よくあるんだよ?」
「だとしても、今のマルネスは話さねぇよ。もう暫くは自分達で調べよう」
少し不満げな花音の頭を撫でてやりながら、俺はマルネスについて考える。
マルネスのことを調べても、バルサルでの情報しか手に入らなかったのは確認済み。
それ以前、どこで何をしていたのか全てが闇に包まれている。そして、何かを知っている。
人類の祖。やはりそれがキーになるのか。
「何を知っているのやら」
「なんだろうねぇ」
結局、マルネスからは何一つえられず、それどころか「その名を外で話すなよ」と釘を刺された。
さっき街中で話したんだけど、大丈夫なのだろうか?
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仁達が帰った後、マルネスは店の屋根に昇って天を見上げる。
宝石のように煌めく星々を眺め、マルネスは小さくため息をついた。
「はぁ、やってらんないねぇ。未だに大きく動いてくれないのは困る。情報を手に入れたと思ったら、既にゴミ同然の情報になってるしな」
マルネスはそう言うと、首に下げたネックレスを無意識に握った。
「私一人ではどうしようもない。仲間はいるけど、まだ動けない。もどかしいな」
いつ、どこで何が起きても動けるようにはしてある。あとはその時を待つのみだ。
「さて、彼らはどちらに着くのかがキモだな。敵になるのはさすがに困るが........アイツの頭の中読めないしなぁ」
マルネスはそう言うと再び小さくため息をついて屋根から降りる。
「
誰もいないところで呟かれたその声は、影に潜む子供達にすらも届かない。
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