変わらない傭兵達

 モヒカンと話していると、俺達に気づいた傭兵達がぞろぞろとこちらへ集まってくる。


 半年ぶりに顔を出したこともあって、あっという間に顔なじみ達が集まった。


 「随分と久しぶりじゃないか。部下に戦争を任せて、団長が他をほっつき歩くなんて聞いたことないぞ」

 「よぉ、アッガス。久しぶりだな。残念ながら、ウチの傭兵団は普通じゃないんだ。なんてったって世界最強の傭兵団だからな」

 「知ってるさ。“狂戦士達バーサーカー”を壊滅させた化け物集団なんだからな。お陰で面倒なエルフの姉ちゃんに色々と聞かれて困ったぜ」

 「エルドリーシスか?」

 「あぁ。神聖皇国第五団長様に話しかけられたのは光栄な事だったが、話す内容が全部お前絡みだったのは不愉快だったな。口説く気すら起きなかったよ」

 「口説かなかったのは正解だぞ。絶対面倒事になる」


 俺達が有名になったからと言って、全く態度を変えないアッガスや傭兵達は正直言って有難かった。


 人というのは、立場によって態度を変える時がある。


 彼らが揉み手で近づいてきたらどうしようかと思ったが、どうやら取り越し苦労だった様だ。


 いつもと変わらない態度出接してくれる為、花音もイスも普段通りに接する。そこに恐れもなければ、尊敬も無いのは今まで積み上げてきた信頼関係がなせる技だろう。


 ........いや、尊敬の眼差しの1つぐらいはあってもいいんだけどね?そこの冒険者から傭兵にジョブチェンジした人達みたいに。


 「美人だっただけに、残念だな。それはそうと、お前、神聖皇国でも有名なのか?聞いたぞ、影の英雄様で、今や子供達に大人気だって」

 「間違っては無い。暴食の魔王が神聖皇国のど真ん中で復活したのは知ってるか?」

 「流石にそれは知ってるな。なんでも、異世界?から来た勇者様が討伐したんだとか」

 「そうそう。その時丁度神聖皇国を訪れててな。暴食の魔王と勇者が戦う余波で崩れた家の瓦礫に下敷きにされた人達を助けて回ってたんだよ。そしたら、なんか“影の英雄”なんて呼ばれるようになっちまった」


 本当は、暴食の魔王に苦戦している中颯爽と現れて助太刀するはずだったのに、想像以上に暴食の魔王が弱くて苦戦することなくボコられていたので、やる事がなくて人助けをしていたのだが、そんなことを言う必要は無い。


 人助けをしていたのは事実だし、人々の目にもそう映ったのだから嘘は着いていないだろう。


 だから花音さん。そのなんとも言えない目でコチラを見てくるのを辞めてください。


 そんな裏の事情を知らないアッガスや傭兵達は、俺の言葉に感動したのか大いに頷いてはめを潤す。


 「ジンも人助けできるだけの心を持ってたんだな........俺、おもわず涙が出そうだぜ」

 「おいアッガス?喧嘩売ってるだろそれ」

 「いやいや、喧嘩なんて売ってないさ。俺は普段から人の心なんて一切考えない女神様ですら救いようのない奴だと思っていたんだが、ジンにも人の心があって安堵しているだけさ。なぁ?ジーザン」

 「全くだ。人の気持ち?何それ美味しいの?とか言い出すような奴が、人助けできるなんて俺は嬉しくて泣けてくるね」

 「よーし、今から涙を流させてやるから、歯ァ食いしばれ」


 俺がニッコリと笑って握り拳を固めると、アッガスとモヒカンは慌てて俺を持ち上げようとする。


 もちろん、物理的にではなく言葉でだ。


 「いやいや!!ジンは普段から人の気持ちを考えれる良い奴だよ!!ちょっと頭が足らないだけで!!」

 「そうそう!!相手の気持ちをわかった上で踏みにじるクズなだけで、人の気持ちはわかるもんな!!」

 「フォローになってねぇよ!!」


 ギャーギャーと騒ぐ俺達。


 こうして普段通りのやり取りをできるのが、俺は嬉しかった。


 しばらく騒いでいると、騒ぎを聞きつけたのか2階からギルドマスターまでやって来る。


 冒険者ギルドの真似事までさせられている為か、その顔は疲れ切っていたが俺達を見ると目を輝かせた。


 「おぉ!!ジン達じゃないか!!帰ってきてたのか!!」

 「久しぶりだな。ギルドマスター。明るい顔をしているが、目の下の隈が目立ってるぞ」

 「ふはは。どっかの誰かさんが切り札をくれたおかげでな。冒険者ギルドの仕事まで流れ込んでくるお陰で死ぬほど忙しいんだよ」

 「そいつは良かった。今やこの街の顔役たる傭兵ギルドにはもっと頑張って欲しいがな」

 「鬼かテメェは。これ以上頑張ったら死ぬぞ」


 ギルドマスターはそう言うと、エールを頼んで空いていた席に座る。


 ちなみに、今はまだ昼前だ。


 「昼前から酒か?随分とご立派な身分だな。仕事はいいのか」

 「飲まねぇとやってられねぇよ。変わってみるか?死ぬほど忙しいぞ」

 「遠慮しておく。報告書やらなんやらの書類に目を通すのは、ウチの団での仕事だけで十分だ」

 

 俺がそう言うと、ギルドマスターは心底驚いた顔をする。


 「ジンが書類整理できるのか........?」

 「お前もかギルドマスター。今日はよく喧嘩を売られるな」

 「いや、喧嘩を売っているわけじゃない。純粋な驚きだ」

 「どちらにしろ失礼だと言うことに気づけ?俺だって仕事はちゃんとやってるんだよ」

 「ジンが仕事........?」

 「バカな。あのジンが仕事できるわけが無い」

 「見栄を張らなくたっていいんだぞ。大丈夫。俺たちはバカになんてしないからな」

 「バカ、遊びと書いて仕事と読むんだよ。ジンはまだまだ子供なんだから、遊ぶのが仕事だろ?」

「「「「なるほど!!」」」」

 「ぶっ飛ばすぞお前ら」


 好き勝手言う傭兵達に呆れつつ、俺は冷めた串焼きを口に運ぶ。


 冷めても美味い串焼きだが、今ばかりは少し不味く感じた。


 拗ねた俺を見て、傭兵たちはケラケラと笑う。


 花音の視線が“拗ねてる仁可愛い”になっていたが、気づかないフリをしておいた。


 「まぁ、ジンが仕事ができるのは本当に驚いたが、それは置いておいて。しばらくは来れないみたいな話をしていたが、その用事とやらは終わったのか?」

 「まだだな。予想以上に暇ができて、その暇つぶしに来た。もう用事については大まかに予想が着いてるんだろ?」

 「まぁな。この情勢を見て、察せないやつがいたら驚きだ。お前たちは傭兵で、今は世界を巻き込んだ戦争中。となれば、導き出せる答えは1つしかない」

 「問題はどっち側って話だが........前の戦争を見るに神聖皇国側なんだろ?」

 「そうだ。良かったな正教会国側に付いてたら今頃ここは更地だぞ」

 「それは良かった。いやほんとに。アレを見た後だと心底味方でよかったと思うよ」


 そう言うギルドマスターの顔は真剣そのものだった。


 というか、ギルドマスターも戦場にいたのか。60過ぎの爺さんだと言うのに元気なこった。


 俺達はその後も少し話した後、他にもよる所があったので一旦別れを告げた。


 さて、意味深な助言を残したロリババァの元に行きますかね。

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