おかえり、バルサルへ

 俺達の顔を見たゼブラムは嬉しそうに笑うと、俺の肩に輝を乗せてくる。


 言葉は発しないが、そこには感謝の念が込められていた。


 気持ち強く握られた肩を手放すと、ゼブラムは普段通りに話し始める。


 「半年ぶりか?長い間顔を出さなかったな」

 「まぁ、色々とあるんだよ。俺達は傭兵団だからな」

 「ふはは!!アレだけ強けりゃ戦争でも引っ張りだこって事か。雇われ先は神聖皇国辺りか?あそこならいいかねで雇ってくれそうだしな」

 「ソイツは想像に任せるよ。それより、最近のバルサルはどんな感じだ?」


 子供達の報告によって、バルサルの状況は大体知っている。


 しかし、その場所に住んでいる者からの視点と監視の視点では感じ方が違ったりもするので聞いておいて損はなかった。


 幸い、俺達の後ろには並んでいる人もいないからな。


 俺がバルサルについて聞くと、ゼブラムはすこし何かを思い出すかのような仕草をした後順を追って話し始める。


 「そうだな。先ずは戦争前の話だが........この街の力関係が変わってから、傭兵ギルドを見る目が変わったな。特に、教会が裏に着いた事で人々の見る目が変わったんだ」

 「へぇ、顔役にはなったけど、人々には受け入れられてなかった感じだったのが、受け入れられるようになったのか」

 「あぁ。戦争屋って聞くと、どうしても心象が悪くなってしまうんだが、教会が“いい人たちですよ”って言うだけであっという間に街に馴染みやがった。恐ろしいね。宗教ってのは」


 その言い方から察するに、ゼブラムはあまり神を信仰しないタイプなのだろう。


 そして、教会って事はマリア司教が手を貸してくれたのか。あの人は、モヒカンにゾッコンな為、傭兵団に多少の便宜を測ってくれる。


 ファインプレーだぞモヒカン。


 それに、“傭兵”という理由だけで恐れられていたのであって、バルサルを拠点とする傭兵の連中は良いヤツらが多い。


 一度偏見が崩れれば、彼らを見る目も変わるというわけだ。


 「冒険者ギルドはどうなった?」

 「冒険者ギルドは酷いもんだぞ。ギルドマスターの不正が明るみに出てから、街の住民は一気に手の平を返したからな。真面目にやってきた冒険者が可哀想なぐらいだ」

 「そんなに酷いのか」

 「少なくとも、今の状況を見て“冒険者になりたい!!”って言うガキが居なくなるぐらいにはな。一部の冒険者と職員、そしてギルドマスターは自業自得だが、何も知らなかった冒険者にとってはいい迷惑ろうな。自分は何もしていないのに、悪者扱いだし」

 「確かに真面目にやってきた奴にとってはいい迷惑だな」

 「信頼がガタ落ちしたせいで、冒険者の仕事が傭兵ギルドに流れていたりもする。今じゃどっちが冒険者か分かったもんじゃないぞ」


 それは子供達の報告書にも書いてあったな。


 信頼がガタ落ちしすぎて、魔物の討伐依頼が傭兵ギルドに流れているらしい。


 傭兵ギルドとしては、冒険者ギルドとの仲が悪くなりすぎるのは困るから断っていたらしいのだが、断りきれない量の依頼を持ち込まれ仕方がなく依頼を受けているとかなんとか。


 お得意様がいる冒険者はそこから依頼を受けれるのだが、いまや魔物の討伐依頼は傭兵ギルドに依頼するのが当たり前になっているそうだ。


 そりゃ、どっちが冒険者か分かったもんじゃないな。


 「信頼を積み上げるのは難しいが、崩すのは簡単というわけか........」

 「その通りだ。なまじ、冒険者の人気が高かったせいでその崩れ方も酷い。お陰で冒険者が生きにくい街になっちまったよ」

 「転職する奴はいないのか?」

 「居るさ。魔物討伐を主として生計を立ててたやつなんかは、傭兵ギルドに移ってる。傭兵ギルドは厳しい審査の元、問題なさそうならば傭兵ギルド入ることを認めているさ。さすがにあの人数じゃ依頼を回せないからな。でも、審査は厳しいらしいぞ。傭兵ギルドも、冒険者ギルドの二の舞いは勘弁願いたいだろうしな」


 なるほど。傭兵ギルドが顔役になってから、相当色々な事があったみたいだ。


 子供達の報告で、殆どの事は知っていたが、実際に話を聞くと知らない事もちょいちょい聞けるから聞き込みは大事だな。


 最近は戦争の動向ばかりに気を取られて、バルサルの現状に目を通すことは少なくなったし。


 俺がそう思っていると、ゼブラムは話を続けた。


 「んで、ここからが戦争後の話だ。どっかの誰かさん達が暴れに暴れ回った結果、傭兵は“子供が憧れる職業”の第一位になるぐらいにまで人気が出ちまったんだ」

 「へぇ、そのどっかの誰かさん達は頑張ったんだな」

 「他人事みたいに言うな?お前の所の兵隊だろうに。俺もあの場にいたが、凄かったぞ。“炎帝”と“幻魔剣”が世界最強の傭兵団をなぎ倒すし、それ以外の面子も敵兵を玩具の如く壊して行くし。お前が強いのは知っていたが、その部下まであれ程強いのは予想外だ」

 「凄いだろ?アレでも本気を出てないんだぜ?」

 「今ならその言葉を信じれるのが怖いな。本気を出したら、1人で国を滅ぼせるんじゃないのか?」


 多分、シルフォード辺りは出来ると思うぞ。広範囲高威力の魔法をバンバン打てるし、なんなら火力全開でその辺を歩くだけで土地は干からびるだろう。


 アレ?そう考えるとシルフォード強すぎね?


 俺は本気のシルフォードを軽くあしらえるから考えたことは無かったが、世間一般で見たらシルフォードは厄災級魔物と同レベルの驚異になるだろう。


 ウチの傭兵団だと戦力としては下の方になるのだが、世界的に見ればかなりの強者という訳だ。


 ウチの傭兵団、強すぎ........?


 俺は改めて自分の傭兵団の強さを認識した後、ゼブラムに向かって軽く首を傾げた。


 「さぁな。やった事ないから分からん」

 「頼むから実践しないでくれよ?やるにしても、ここら近辺は勘弁してくれ」

 「ハハッ!!それはその時次第だな」


 そうやってゼブラムと仲良く話していると、花音とかイスが疲れた顔をしてローブのすそを引っ張る。


 振り返れば、イスが花音に抱き抱えられ、2人とも頬を膨らませていた。


 「まだ?」

 「まだなの?」


 どうやら話が長かったようだ。


 ゼブラムは不機嫌そうな二人を見て盛大に笑うと、イスの頭を優しく撫でる。


 「すまんすまん。おじちゃんが引き止めすぎたな。ほら、飴さんあげるから許してくれ」

 「やった!!飴さんなの!!」

 「アレ?私にはないの?」

 「え?飴欲しいの?」

 「欲しいよ。糖分補給したい」

 「お、おう」


 飴をねだる花音に少しビビりつつ、ゼブラムを花音にも飴を渡すと再びイスの頭を優しく撫でてから俺に視線を向ける。


 「気をつけろよ。今やお前達はバルサルの........いや、この国の英雄だ。その目立つ格好で人が寄ってくるし、お前らを狙う奴らもいるからな」

 「安心しろ。ファンなら対応してやるが、過激なファンなら返り討ちだ」

 「フッ、お前なら大丈夫だろうな。まぁ一応気をつけておけ。それじゃ、おかえり、バルサルへ」


 ゼブラムに見送られながら、俺達は半年ぶりにバルサルの地に足を踏み入れた。

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