久しぶりのバルサル

 その日、俺達は久しぶりにバルサルの街を訪れようと森の中を爆走していた。


 世界戦争が始まってから早五ヶ月近く。当初の俺の予定では、神聖皇国との戦争に参加していて暇を弄ぶことは無かったはずなのだが、厄災級魔物達が暴れに暴れたせいで教皇のお爺さんから“大人しくしていろ”との命令を受けてしまった。


 お陰で暇で暇で仕方がない。


 予定通りに行くことと言うのは少ないのだが、ここまで予定外になるとは思ってなかった。


 というわけで、暇つぶしにバルサルを訪れることにしたのだ。


 「ようやく帰ってくれたな。本当ならもう少し早めに行くつもりだったのに」

 「エルドリーシスだね。神聖皇国としては彼女ほどの戦力を弄ぶ暇は無いから、帰ってくるように指示を出していたけど、かなり粘っていたみたいだよ。あれこれ理由をつけて、バルサルに滞在していたみたい」

 「それでも2週間ぐらいが限界だったみたいだけどな。そんなに俺達に会いたいものかねぇ」

 「あれじゃない?ほら、なんかの魔王の時に、仁が“既に討伐したんで、無駄足ですよ。ざまぁwwww”って手紙を送ったからじゃない?それで正体を知りたいんだよ」

 「そんな煽るような手紙は送ってねぇよ」


 顔を合わせたこともない人に喧嘩を売るほど俺も馬鹿ではないよ。花音は俺をなんだと思っているのか。


 俺は少し呆れつつ、エルドリーシスさんについて考える。


 報告書やらジークフリードの話を聞くに、自分の正義感を押し付けて問題をさらに大きくする人のようだった。


 正義の押し売りとか言う迷惑極まりない行為をする人と仲良くできる気がしないので、今回も接触は避けたが、いつかは話をする時が来るだろう。


 戦争に参加した際に話をしたシルフォード曰く“正義感が強いけど、私は嫌い。なんと言うか、自分に酔ってる”と言っていたので、ろくな事にはならないと思っている。


 嫌だよ。正義の押し売りなんて。


 やってる事は、正教会国側のイージス教とさほど変わらないからな?思想が過激かどうかと言う話だけで、他はほぼ一緒だ。


 なぜ、神聖皇国は彼女のような問題児を団長にしているのだろうか........単純に強いからか。


 正義の押し売りがなければ、比較的常識人っぽいし話も通じる。問題はその“正義”だけであり、それ以外は他の団長と比べてもマシな方なのだろう。


 少なくとも、常識に関してはアイリス団長よりもあるかもしれない。あの人、割とイカれてるところあるからな。


 そんな会話をしつつ、俺達はバルサルの城門にたどり着く。


 既に戦争が終わっており、国家の危機を乗り越えたアゼル共和国には多くの商人が押しかけている。


 それは、辺境の街であるバルサルも同じであり、城壁にはかなりの数の人が並んでいた。


 「多いな。バルサルだとあまり見ない光景だ」

 「戦争の後で物資が無くなってるからね。食料とか持ってくれば売れるんでしょ」

 「戦争のおかげで、国の財源はすっからかんだが、市民はそうでも無いもんな........今度、アゼル共和国に幾らか寄付してやるか。あのジジィに借りをもう1つ作っておくのはアリだと思うしな」

 「有り余ってるもんね。未だにあちこちからお金が集まってくるお陰で、金庫が凄い額になってるよ。多分、そこそこ大きい国3年分の予算を賄えるレベルには」

 「そう聞くとヤベェな。ココ最近は金を使う機会も無かったし、何より俺達も団員も金銭感覚が市民レベルだから殆ど使わないんだよな」


 我が傭兵団の金庫に眠っているお金は、それはもうとんでもない程の額になっている。


 滅ぼした9ヶ国からも子供達がこっそり(ごっそり)金を持ち出したようで、今日金庫の中を見たらビビるレベルで金貨やら白金貨が散らばっていた。


 正直、こんなに使わんやろと思うが、あるに越したことはないので使われる時まで眠っていてもらおう。


 ちなみに、金庫とは言っているが普通に想像する“金庫”とは違い、地下に作られた巨大な空間に金を置いてあるだけに過ぎない。


 この場所は俺が倉庫として作ったただの空間なのだが、いつの間にか金庫扱いされていた。


 一応、傭兵団の財源なので警備は厳重であり、盗み出そうとするならば厄災級魔物と闇に隠れる蜘蛛達を掻い潜らなければならない。


 多分、家の拠点の中で1番セキュリティが硬い場所だ。


 「白金貨2枚ぐらいでいいか?あまりあげすぎるとそれはそれで問題だろうし」

 「いいんじゃない?その位で。今度首都に行った時に、渡してこようよ」


 そう話しながら歩いていると、ようやく城門に辿り着く。


 俺達は一般の門からではなく、元老院御用達の門から入ることが出来るのでそちらに向かった。


 城壁に沿って並ぶ商人たちの視線が険しいが、そんなこと知ったことでは無い。


 フハハハ、見ろ一般商人共。これが権力の違いと言うものだよ!!


 門に並ぶと、門番は俺たちの顔を覚えていたのか、慌てて敬礼をした。


 「お久しぶりです。今、担当の者を呼んでくるのでしばしお待ちを」

 「は?担当?」


 門番の言葉に俺は首を傾げる。


 担当が着くほど俺達は偉くないし、何より担当が着くなんて話を聞いたことがない。


 頭の上に“?”マークを浮かべていると、門番はさわやかに笑って説明してくれた。


 「えぇ。ジン様達はご存知無いかもしれませんが、ゼブラムが貴方がたの担当になっているのです。この最近は訪れなかったのと、今は休憩中だったのでいませんでしたが、普段はここでずっと待っておられるのですよ。バルサルでこの門を使うのは貴方方以外ほとんど居ませんから」

 「それは初耳だ。ゼブラムの野郎は真面目に仕事してるんだな」

 「ゼブラムは結構真面目な奴ですよ。それと、ありがとうございました」


 門番はそう言って頭を下げる。彼だけではない。会話を近くで聞いていた他の門番や、商人の相手をしていた門番まで俺達に頭を下げてくる。


 事情を知らない商人は何事かと驚いていたが、なんとなく理由を察した俺は頭を上げさせると気にするなと言わんばかりに手を振った。


 「辞めてくれよ。俺はあの場にいなかったし」

 「ですが、揺レ動ク者グングニルを派遣してくださったでしょう?我々はそれのお陰でこうして生きていられるのですよ。ハッキリ言って、あの戦争は貴方達がいなければ負け戦でした」

 「そんな事ないと思うがな」

 「おいおい、ジンが謙遜するとか明日は雨か?いや、槍が降ってくるかもな」


 俺がそう言うと、門番の後ろから聞きなれた声が飛んでくる。


 そちらに視線を向けると、ニヤリと笑ったゼブラムがいた。


 「お前にだけ槍の雨をふらせてやるよ。明日は盾の傘を用意するんだな」

 「そいつは勘弁願いたいな。俺はもう少し生きていたいんだ。それにしても、随分と久しいな。半年ぶりか?」

 「そんぐらいだ。久しぶりだな。ゼブラム」


 俺はそう言うと、ケラケラ笑うゼブラムと拳を合わせるのだった。

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