神正世界戦争:破壊神vs聖弓④
“破壊神”と“聖弓”が戦い始めてから四日目の朝。
最初程の激しさは無いものの、未だに最強同士の戦いは続いていた。
「はぁはぁはぁ、そろそろ死んでくれてもいいんだぜ?その指、マトモに弓を射るのも大変だろう?」
「はぁはぁ........そう言う貴様こそ、左腕と右足が使い物にならないみたいですけどね?そのまま楽になればいいのでは?」
肩で息をするどころか、全身を使って酸素を求める2人は既にボロボロである。
聖弓は絶え間なく矢を射続けた影響で弓を引く指から血が滴り落ち、皮が捲るだけでなく肉すらも抉れている。
弓を引かずとも激痛が走っているにも関わらず、その尋常ならざる精神力によってゆみを引き続けた。
対する破壊神は、左肩に1発左腕に1発、右足太ももに2発の矢を受けてしまっている。
三日三晩も絶えることの無い矢の嵐に晒され続け、読み違えた又は反応しきれなかった攻撃を幾らか貰ってしまっていた。
それにより機動力も攻撃力も落ちてしまったが、幸い聖弓も指を酷使し続けていた為迫り来る矢の数と速さは落ち、傷ついた体でもなんとか対応できたのだ。
それでも、血を流しすぎており、常人ならば死んでいてもおかしくなかったりする。
破壊神がこうして動けているのは、聖弓と同じく尋常ならざる精神力によるものだった。
「俺の攻撃が届いてないってのが嫌になるな。弓を引きすぎたことによる自傷のお陰で、助かってる。対する俺は、4発も攻撃を食らってるってのに」
「ならば、私の勝ちでしょう?さっさと負けを認めて死んでください........よ!!」
聖弓は再び5本の矢を放つ。
最初ほど鋭い威力もなければ、瞬きする間に何十本と矢が増える訳でもない。
明らかに疲労と傷ついた指の影響が出ていた。
それで尚、一般兵を容易に殺せるだけの威力と数があるのはさすがと言えるだろう。
対する破壊神は、矢を避けると反撃とばかりに音波を飛ばす。
こちらも最初ほど高振動に揺れるものではなく、威力も速さも範囲も目に見えて落ちていた。
しかし、聖弓と同じく一般兵を殺すには十分すぎる威力である。
11大国を代表する冒険者として、その人外っぷりは健在であった。
「っ!!危ない」
「はっ、易々と避けておいてよく言うぜ。俺は三日間攻撃してんのに、未だに1発も当てれてねぇってのにな!!」
破壊神は、そう言うと地面を思いっきり殴りつける。
高振動によって地面は崩れ、聖弓の足場も砂に変わっていく。
何度目か分からない足場崩しに、聖弓は顔を顰めつつその場を離れた。
「ウザったい!!」
足場が不安定になれば、矢の精度は落ちるし機動力も落ちる。
一撃でも攻撃を食らったらアウトだと分かっている聖弓にとって、機動力を失うのは避けたかった。
既に何度も崩された山は半分近くが粉々になっており、どうやって山としてそびえ立っているのか分からないほどにまでグチャグチャにされている。
幾万もの矢を受け止め、岩を砂に変えるほどの高振動に晒され続けた山がこの戦争の1番の被害者かもしれない。
崩れ去った足場を感じ取りつつ、聖弓は矢を番える。しかし、三日三晩も戦い抜いた聖弓と言えども、限界があった。
「──────────?!しまっ!!」
魔力感知や五感(視覚を除く)によって周囲を把握していた聖弓だったが、長い時間の戦闘と集中力の低下によって足場が脆くなっていることに気づけなかったのだ。
若干のタイムラグとともに襲ってきた足場の崩壊は、攻撃に移ろうとしていた聖弓のテンポを完全にズラす。
「今今今ァ!!」
そして、破壊神はその隙を逃さない。
バランスを崩し矢がこちらを向いていない状況、更に足場が悪く機動力も失われた今、攻勢に出る絶好のチャンスである。
破壊神は地面が陥没するほど強く踏み出すと、一瞬で聖弓の目の前にまで移動する。
普段ならばその後の着地を考えながら飛び出すが、ここで仕留めなければ勝ち目はないと直感した破壊神は、後先考えずに飛び出したのだ。
右足が使い物にならないにも関わらず。
破壊神は、今ある魔力をかき集め右手に集中すると聖弓の心臓目掛けて拳を突き出す。
「
バランスを崩していた聖弓に避ける術なし。破壊神は心の中で勝利を確信した。
しかし、聖弓とてしぶとい。
聖弓は番えた矢を明後日の方向に放ちつつ、強引に体を捻って右腕で拳をガードする。
「あ"ァァァァァァァァァァァ!!」
殴られた時の振動が全身を駆け巡り、内臓を破壊していくが気合と精神力そして聖なる魔力を使って無理矢理耐えた。
だが、防御に使った右腕はもはや使い物にならず骨が粉々に砕け散って右腕と言える形をしていない。
口から血を吐き出し、滝のように流れ出る血をもう一度飲み込みながら破壊神にタックルを食らわせた。
「ぬぐっ」
この一撃で殺しきれなかったことに破壊神は驚愕しつつ、タックルを受けて地面を転がる。
(アレで死なねぇのか?!流石は“
弓は腕が2本なければ矢を放てない。破壊神は自分が有利になったと考えると、再び地面を蹴って聖弓に接近した。
「これで終わりだァァァァ!!」
振り上げた拳、聖弓は未だ弓を構えていない。
今度こそ勝った。そう思った矢先だった。
ドスッと背中から小さな衝撃を受ける。
「........なっ」
衝撃の正体は矢だ。先程、腕を壊される前に明後日の方向に放った矢が、破壊神を追尾して後ろから突き刺さったのだ。
普段なら気づけただろう。しかし、勝ちに急いだがために周囲の把握を怠った。
矢は背中から心臓部を貫通し、破壊神の胸から突き出ている。どうやっても助かりようのない状況だ。
急速に体が動かなくなっていき、徐々に死の足音が近づいてくる。
「ウガァァァァァァ!!」
それでも、破壊神は気合いで動いた。
最後の力を振り絞って拳を握り、相打ち覚悟で聖弓を壊そうと襲いかかる。
しかし、それでも聖弓には届かなかった。
「ふへはなへれは、はははなへなひほへほ?(腕がなければ、矢が放てないとでも?)」
口で矢を番え、弓を引く聖弓。
右腕が使い物にならなくとも、口で強引に弓を引き矢を番えたその姿は最後まで諦めない強者の生き様。
放たれる矢。迫り来る拳。
残った“聖なる魔力”の殆どを消費して作られた矢は、破壊神に突き刺さると貫通せずに内部で形を変える。
鏃は8方向に広がると、破壊神の肉を食いちぎりながら外へと出ていった。
ひとつは脳天を突き破り、もうひとつはその下に。
ひとつは両腕を貫通し、もうひとつは両足と肩を。
大文字になって磔にされた破壊神は、8方向からの串刺しによって生を終える。
「私の........勝ち、です、ね........」
「聖弓様!!」
磔にされた破壊神を満足気に見つめた聖弓だったが、ついには限界を迎え倒れ込む。
完全に地面に着く前にずっと隙を伺っていた付き人が受け止めた。
「聖弓様!!しっかりしてください!!」
「大、丈夫ドワーフを皆殺しにするまでは、私は、死なないから........」
そう言って意識を失う聖弓。付き人は慌てて、心臓の音を確認すると、鼓動は安定して聞こえてきた。
しかし、血を流しすぎている。このまま時間が過ぎれば、聖弓も死んでしまうだろう。
「死なせませんよ。あなたが死んだら、私の仕事が無くなりますからね!!........それに、友達が死ぬところは見たくない」
付き人はそう言うと、聖弓を背負って本陣にまで引き返すのだった。
能力解説
【
自身の発した“音”の周波を操作する能力。
操作系の異能。
自身から発生した音ならばなんでも操作可能な上、どれだけ小さな音でも拾える。その気になれば、足音だけで全てを破壊することも可能。
振動は内部にも届くため、内部から相手を破壊出来る理不尽能力。ドラゴンだろうが、内部を強化することは不可能な為、誰であろうと殴れれば強い。
が、音波の操作は繊細で他の音との打ち消しなど色々と考えることも多い為、扱いは難しい。
破壊神は最初こそこの能力の使い方を分かっていなかったものの、自分なりに研究して強者に成り上がった努力家でもある。
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