神正世界戦争:破壊神vs聖弓③
強者同士が、お互いの間合いに入ると起こる読み合いの静寂。幾度となく戦場で見られたその光景は、喧騒が溢れかえる戦場に穴を開けていた。
“破壊神”と“聖弓”。
11大国を代表する冒険者と言う強者同士がお互いの間合いに入ったこの状況も、そんな光景が見られるかと思われたが、今回は違う。
「死ね」
読み合いが始まるよりも早く“聖弓”が矢を放った。
神速と言っても過言では無い速さで放たれた10本の矢は、正確に破壊神の体へと吸い込まれていく。
各急所に放たれた矢は音速を優に超え、瞬きをするよりも速く矢が迫り来る。
反応出来なければ“死”。一般兵ならばその死を受け入れる他ない状況だったが、この男は違う。
「うをっ?!危ねぇ!!」
正確に狙い済ました矢を破壊神は、最小限の動きで避けると距離を詰める。
弓というのは距離が開いているからこそ、その力を発揮出来る武器だ。
聖弓が読み合いが発生するよりも早く先手を取ったのは、先手を取る以外に選択肢が無い為である。
距離を詰められるよりも早く、攻撃をして間合いを詰めさせないように動くのが弓のセオリーだった。
破壊神もそれがわかっているから、急いで距離を詰める。
先手を取りたかったが、聖弓の判断の方が一歩早かった。普段から弓を扱ってきた者と、ごく稀にしか弓を持つ者と戦わない者。経験の差が判断の差に繋がったと言っても過言ではない。
急いで距離を詰める破壊神だが、聖弓がその行動を許すほど甘くはない。
十数年にも積み上げられてきた弓の技術をフルに活かし、目にも止まらぬ速射で破壊神に矢を放つ。
一本一本矢を番えて射っているはずなのだが、間隔が途切れるどころかむしろ狭まって同時に襲いかかって来ているかのように錯覚する。
「クソっ、ウザってぇな。これじゃ近づけねぇ」
破壊神は自身の異能を使って矢を防ぎ、無理矢理聖弓に近づこうとしていたが、矢の嵐を防ぎ切るのは難しいと考えると仕方がなく距離を取った。
その間にも迫り来る矢の嵐を避けつつ、破壊神は大きく息を吸い込む。
「周りには敵ばかりだし、でっかくやっても問題ないだろ。行くぞ!!
戦端を開く時に放たれた音にならない音が、聖弓に襲いかかる。
先程のように距離が遠い訳ではなく至近距離での爆音波は、聖弓が対処するよりも早く聖弓を襲う........はずだった。
予備動作がほとんど無く広範囲で速度も早いこの攻撃は、たとえ知っていても防ぐのが難しい。
初見と言っても過言ではない聖弓は、対処が出来ずに高振動の音波によって内部から身体が破壊されるかに思えた。
「“
しかし、聖弓はその鋭すぎる感覚によって破壊神の攻撃を事前に察知している。
目に頼らず、周囲を音や肌の感覚、更には魔力探知によって磨かれた彼女のアンテナはたとえ僅かな予備動作であっても見逃さない。
破壊神が予備動作を始めたとほぼ同時に、聖弓は矢を作り出し足元に向かって矢を放っていた。
金色に輝く半透明のバリアが音波を防ぎ、バリアと衝突した音波の衝撃が周囲に撒き散らされる。
岩と鋼鉄でできた山は再び砂に変えられ、近くで破壊神に奇襲を仕掛けようと目論んだ兵士達は衝撃によって吹き飛ばされ、体内から破壊されていく。
聖弓の後ろで隙を伺っていた付き人は、人外すぎる勝負に着いて行けず困り果てていた。
(これが11大国を代表する冒険者同士の戦い........!!私じゃ到底ついていけない)
付き人は力不足を嘆きながら、チャンスがいつか来るはずだと思い気配を消してその時を待つ。
「チッ、厄介だな。大抵の行動が読まれてやがる」
「矢が当たらない。その音が面倒ですね」
お互いに決定打にかける状況。破壊神も聖弓も、お互いの攻撃が捌けてしまう。
こうなると、どちらかがミスをするまで持久戦になる。
聖弓は聖なる魔力の消費が少ない矢を選びつつ破壊神に攻撃を仕掛け、破壊神はなるべく魔力を使わずに矢を防いで反撃の機会を伺う。
時に拳から音波を放ち、この拮抗状態をなんとかしようとするものの、聖弓は他の後衛とは違いかなり動ける。
範囲が狭い攻撃では容易に避けられてしまっていた。
「動けるな。これは集中力が切れた方の負けになるぞ」
「そのようですね。私、かなり集中力が持つ方なので諦めて殺されてください」
「それは困るな。俺は集中力が持つ方では無いが、死ぬのは嫌なんでね。まぁ、生と死の境目を生きるのは好きなんだが」
「これだから野蛮な肉ダルマは........さっさと死ねよ!!」
「口調が変わってるぜ?もう少し楽に生きようや」
既に戦闘を始めて1時間が経過しているが、聖弓の矢が失速することは無い。
そして、破壊神も動きが落ちることは無かった。
神速の矢は容易に避けられ、反撃に繰り出した音の衝撃派は防がれるか避けられる。
時間が経つと共に、お互いがお互いの動きを理解し始め高度な読み合いが発生し、動きが複雑になっていく。
聖弓は放たれる矢の精度が更に高くなり、破壊神が避けた所にピンポイントで矢が飛んでくるように調整を始め、破壊神は僅かな矢と矢の隙間を縫って攻撃のチャンスを作り出す。
何手先を読み、相手を詰ませるか。
殺し合いだと言うのにやっている事はチェスや将棋に近い。相手の動きを予測し、それに対応する手を考える。
チェスや将棋と違うのは、お互いに精神と体力を使っており休憩が無い点だ。
昼休憩もなければ、給水の隙もない。
文字通り命を削りながら殺し合う2人の先頭の余波は敵味方関係なく巻き込み、お互いの軍に甚大な被害を出していた。
「おい!!あの二人をどうにかできないのか?!」
「無理言わんといてください!!俺達じゃどうしようもないですよ!!」
「破壊神の馬鹿野郎、周りが見えてねぇのか味方を巻き込むような攻撃が増えてるぞ!!」
「実際見えてないんでしょう。相手は“破壊神”に並ぶ“聖弓”ですよ?!」
「アイツが負けると言いたいのか?!」
「違いますよ!!でも、周りを見る余裕が無いほど相手は強いってことです!!」
戦闘の余波によって巻き込まれかけた同僚とその部下は、山の真ん中で暴れる
2人が戦っている場所だけが別世界であり、もはや近づくことすら許されない。
「これが、最強同士の戦いか」
「やべぇっすね。コレ、巻き込まれただけでも死にますよ」
矢が飛んできたと思えば、爆音がその場を吹き飛ばす。爆音が放たれたと思えば、矢がその音を消し去ってしまう。
瞬きをすれば、その一瞬で何が起きたのか分からない程にまで戦況が変わり、傍から見ていては何が起きたのかがサッパリだった。
「コレ、いつまで続くかね?」
「分かんないっす。何が起きてるのかすら分かんないんですもん」
「そうだな........俺にもわからん」
同僚は諦めたように呟くと、戦闘の余波に巻き込まれないように移動する。
最強同士の不毛な消耗戦は、三日三晩続くのだった。
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