ドワーフ連合国と正連邦国
魔王様にジョブチェンジ発言をした花音に呆れつつ、まだまだ終わらない報告書の山に目を通していく。
毎日やっているからか、最近は苦痛に思うことが少なくなった。少なくなっただけで、苦痛だが。
しかし、それでも午前中は丸々っと潰れるので大変である。
そんな中、ある一つの報告書に手が止まった。
「正連邦国がドワーフ連合国に攻め込むみたいだな。前々から準備をしているのは知っていたが、随分と遅い」
「ブルボン王国南部の戦場にも兵力を割いていたからねぇ。そっちの調整に力を注いでいたから遅れたんじゃない?」
「だろうな。正教会国との繋がりは大事だ。ここで敵に回すほど正連邦国も馬鹿じゃない。ドワーフ連合国とドンパチやらかすよりも、正教会国との繋がりを保った方が国としては利益が大きいからな」
「戦争に負けたら利益もクソもないんだけどね。唯一傍観を決め込んでるドワーフ連合国にまで喧嘩を売るとか、馬鹿なのかな?」
「タイミングが悪かったな。四年に一度やる大きな祭りと次期が被った以上、祭りをやらない理由が必要だ。国民にとっては、国の利益なんかよりも自分の生活が大切なんだ。税が引き下げられるその年は、生活が楽になる」
政策としては面白い。
国家の政策やら経済学なんかはぶっちゃけよく分からないが、ストレスを適度に発散させる事で不満を溜めさせないと言うやり方は理にかなっている。
もちろん、全ての人間が納得するかと言われれば別だが、大半の人は不満を持っていてもそれが爆発することは無い。
正教会国や正共和国は武力と権力によって無理やり押さえつけている為、爆発することが多々あるが、正連邦国では反乱が起こったりする事はこの2ヶ国に比べて少なかった。
この仕組みを作った奴は、大衆を動かすことが上手いな。
それでも、反乱が起こっておるのを見るに、祭りの年以外がいかに酷いかが見て取れるが。
神聖皇国なんて反乱とか歴史上数える程にしか起こっていないというのに........
俺がペラペラと報告書を捲っていると、花音も内容が気になったのか横から覗き込む。
嗅ぎ慣れた甘い匂いは、脳の疲労を少し和らげてきれた気がした。
「ドワーフ連合国と正連邦国だと、どっちが強いのかな?ドワーフ連合国が負けると面倒そうだよ?」
「さぁ?こればかりは、やってみないとわからんな。兵力が多い方が勝つ訳じゃないし、作戦や戦略で勝ち負けが決まる訳でもない。誰だっけ。ドワーフ連合国の
「“破壊神”ダンの事?」
「そうそう。“破壊神”ダンと“聖弓”のぶつかり合いで勝敗が決まりそうだし、それ次第かな」
どちらも相当な強さを持つ者だ。
たった1人で一軍団に匹敵する強さを持った彼らの勝敗によって、この戦争の行方は決まると言っても過言ではないだろう。
花音は興味なさげに“ふーん”とだけ言うと、俺の首元に手を回す。
「仁も参加する?多少暴れてもバレないでしょ。ドワーフ連合国は神聖皇国とあまり繋がりがないみたいだし」
「いや、やめておくよ。ドワーフ連合国には知り合いがいる訳でもないし、ドワーフ連合国が負けたとしてもなんとでもなるだろ。これが獣王国なら手伝ってもいいかなとは思うんだかな........」
「ん?なんで獣王国はいいの?知り合いなんていたっけ?」
素で聞き返す花音。
君、本当に興味無い人は覚えてないね。
獣人組を買った時のこと、もしかして忘れていらっしゃる?
「覚えてないか?獣王国の裏組織、獣人会の最高幹部の一人であるジーニアスを」
「え?誰?」
「ほら、獣人組を買う時に紹介状くれた人」
「................誰だっけ?」
マジかよこの子。
ここまで説明して記憶にないのかよ。
結構印象に残る人物だったはずなのだが、花音は真剣な顔をして首を傾げていた。
「本当に思い出せない?」
「うーん。思い出せないよ。そのジーなんとかって人、仁の妄想じゃないよね?」
「喧嘩売ってんのか」
俺をなんだと思っているんだか。
妄想でそんな設定のキャラを持ってくるわけねぇだろ。
その後も花音は暫く思い出そうと首を捻っていたものの、結局は思い出せず思い出すことを諦めた。
すまんなジーニアス。お前は花音からすればモブキャラ以下らしい。
「んで、その知り合いがいるから獣王国の場合は干渉するの?」
「負けそうならな。裏社会にツテがないし、顔見知り以下だとしてもこの繋がりは持っておいた方がいい気がするんだよ。後、獣王君が真面目だからちょっとは手を貸してあげてもいいかなって思ってる」
怠惰の魔王に敗北を喫した獣王は、その敗北をバネにしてさらに強くなるために研鑽を積んでいるらしい。
敗北から学び、良き王として在ろうとするその姿は個人的に好印象だった。
そんな良き王が死ぬのは、今後の世界情勢に影響を与える。まず間違いなく。
それと、白色の獣人の迫害を止めることが出来そうなのも彼だと俺は思っている。いつの日か、獣人組が堂々と獣王国を歩ける日が来るといいな。
彼は、種族で人を見ない事が子供達の調べで分かっている。借りを作れば、それを返すために働いてくれるだろう。
とは言え、無理に干渉するつもりは無い。あくまで、負けそうなら手を貸す程度だ。
「どちらにしろ、俺たち出番はまだ先だな。ドワーフ連合国はどうでもいいし、獣王国に干渉するとしてもかなり後。花音の言う通り半年近くは暇だ」
「バルサルに遊びに行く?」
「それもいいかもな。暫く来ないとは言ったけど、ここまで暇になるとは予想外だし」
こうして、午前中の時間は過ぎ去っていくのだった。
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静かになった夜の中、眠る天使は目を覚ます。
「なんの用?」
気配を感じ取った黒百合朱那は、その気配を発する人物に視線を向ける。
視線を向けられたその人物は、朗らかに笑うと朱那のベッドに腰をかけた。
「最近はどう?」
「特に何も変わりはないよ。それで?要件は?」
「もう少し会話を楽しんだっていいじゃない。それとも私との会話は嫌?」
「いや、時間を考えようよ。今深夜なの。眠いの。分かる?」
若干の苛立ちを含んだ声。
これ以上は本気で怒らせてしまうと判断したその人物は、さっさと要件を伝えて帰る事にした。
「計画は順調。後はこの戦争が終わるまで待機よ」
「........って事は、カノンちゃん達のところに行ってもいいの?」
「もちろん!!」
「やったー........zzzzzzz」
気の抜ける喜びとともに、朱那は再び眠りにつく。
「私も仲間に入れるかな?頑張らないと」
その人物はそうつぶやくと、すやすやと眠る朱那の頭を優しく撫でるのだった。
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