お前もズレてる
マーナガルム達の仲良くお散歩をした翌日。今日も今日とて積み重なった報告書の山に埋もれつつ、この戦争の状況を眺めていく。
つい先日、ようやく動きのあったブルボン王国南部の戦争は神聖皇国側の勝利となり、今はさらなる進軍に向けて色々と準備している様だった。
すぐ様移動することが出来ないのは、食料問題や物資の補給などをするためだろう。
進軍するとなれば、それだけ補給をするのが難しくなる。本国から離れれば離れるほど、進軍のスピードは遅くなるはずだ。
敗走した正教会国側は、国境沿いまで大きく戦線を下げて防衛陣地を作っているらしい。子供達に多少の妨害をさせてはいるものの、多くの実力者がいるその場では子供達が発見されるリスクがある。
その為、派手にはやらせなかった。
いくら隠密に優れているとは言っても、この世界にはその隠密を見抜ける異能があるのだ。
今のところ出くわしてはいないが、人材が豊富な大国ならばいてもおかしくない。
子供達のアドバンテージは、知りていないことが前提の為慎重に慎重を重ねるぐらいがちょうどいいと判断した。
「龍二達も一旦休憩だな。いくつかの部隊が敗走した兵士達に追撃を行っているが、それには参加してないみたいだ」
「異能部隊は足並みを揃えるのが難しいからねぇ。シンナスちゃんみたいに周りを巻き込む異能もあれば、同種族タイマン勝負ならほぼ勝ちのアイリスちゃんみたいな異能もあるし。移動速度とかもちぐはぐ過ぎて、遊撃以外には使えないんだろうね」
「まぁ、それ以外にも、戦果を上げすぎたから他に譲ったってのもあるだろうけどな。二つ名こそつかなかったが、他の部隊と比べて戦果が大きい。それをたった4人で超える化け物もいるみたいだが」
「あれは同種として考えちゃダメだよ。冒険者の頂点に立つ者達と比べたら、そりゃ劣るって」
11大国を代表する
実際に見たのは初日だけなので詳しくは分からないが、たった4人で敵の四分の一を殲滅している時点で化け物と呼べるだろう。
特に、“聖盾”が居なくなってからの快進撃は凄まじく、戦場を監視していた子供達の報告によればその4人だけまさしく別次元の戦いをしていたそうな。
直径20メール近くもある火災旋風が巻き起こり、精霊魔法と思わしき魔法が大地を削り、天が落ち、聖なる刻印が空を覆う。
そんな、敵兵からしたら世紀末な光景が広がっていたらしい。
実際に見てみたかったなと思うが、その場にいたら俺も暴れたくなっていただろう。
そうなれば、また教皇のお爺さんに呼び出しを食らってしまう。
その場合は言い訳も出来ないので、怒られる羽目になりそうだ。
「俺達が暴れられる日はいつになるのかねぇ?」
「さぁ?でも、もう暫くは無理そうかな。移動するだけで2ヶ月近くはかかりそうだし、物資の補給も考えると半年は出番なしなんじゃない?エドストルはどう思う?」
花音が聖堂の扉に視線を向けると、大量の報告書を持ってきたエドストルが首を傾げる。
今部屋に入ってきたばかりの彼は、俺たちの話を聞いているわけもなかった。
「え?何の話ですか?」
真面目なエドストルは、軽く首を傾げつつも素直に花音に聞き返す。
これがシルフォードだったら“何の話か知らないけど、そうだね”とか適当なことを言うだろう。
普段から花音と接しているシルフォードは、適当にやり過ごすと言う技術を身につけているのに対し、あまり花音とは話さないエドストルは困惑していた。
多分、このセリフが俺のセリフだったら適当にあしらわれてたんだろうなと思いつつ、俺は手助けをしてあげる。
「俺達が暴れられる日は何時なのかって話だ。花音の見立てでは半年後って話だが........エドストルはどう思う?」
俺の話を聞いて、ようやく質問の内容がわかったエドストルはふにゃりと曲がった尻尾をピンと伸ばす。
獣人の尻尾って割と感情的であり、困惑がみてとれた時は“?”マークを浮かべていた。そして、話の内容がわかると“!”マークを尻尾で表現する。
ちなみに怒っている時は尻尾がゆらゆらと不気味に左右に揺れ、嬉しい時は犬のように激しく左右に揺れたりするのだが、当の本人達は気づいていないようだった。
ちょっと可愛いな。
感情の制御が上手いエドストルですらこれなのだ。感情出やすいロナとかだと、尻尾を見てれば大抵のことが分かったりする。
初めの頃は機嫌を顔の表情で読み取っていたのだが、尻尾という便利な感情表現機能を見つけてからは基本的にそちらしか見ていない。
無意識に尻尾を伸ばしたエドストルは、少しの間何かを考えるかのように顎に手を当てた後自分の意見を述べた。
「おそらく、副団長さんの予想であっているかと........確か正教会国側が全軍を移動させたのに二ヶ月近くかかってます。あちらは地形を知っているからこそそれなりにスムーズに移動できたと思いますが、神聖皇国側は多少の地形は知っていても詳しくはありません。更に、敵からの妨害や市民からの妨害も考えれば半年から1年辺りが妥当かと思われます」
「防衛陣地にたどり着くのがって事だよな?」
「はい。団長さんはそこで暴れるのですか?」
「分からん。バカ5人が出てくれば教皇の命令を無視してでも殺しに行くけど、そうじゃなければ大人しくしているだろうな。あまり神聖皇国と険悪な仲にはなりたくないし」
「険悪な仲になったら第8の魔王になれるよ!!やったね!!勇者から魔王様にジョブチェンジだ!!」
うん。なんでそんなに嬉しそうに言うのかな?
元気よく拳を天に突き上げる花音を見て、俺もエドストルも微妙な顔をする。
微妙な空気が流れてしまったことに気づいた花音は、“この反応は予想外”と言わんばかりの表情で首を傾げた。
「あり?なんで二人共黙っちゃうの?」
「いや、元気よく“魔王様にジョブチェンジだ!!”とか言われても反応に困るだろ。別になりたいものでもないし」
「でも、そっちの方が楽しそうって言ってたじゃん」
「言ったよ?言ったけど、だからと言って率先してなりに行く訳では無いからね?」
「副団長さんって偶にズレてますよね........」
「偶にって言うか、毎回な。意見もコロコロ変わるから困ったものだよ」
「心中お察しします」
疲れた顔で頭を下げるエドストルは、報告書を置くとさっさと部屋を出ていった。
多分、これ以上花音に絡むと疲れると判断したのだろう。いい判断だ。
好き勝手言われた花音はと言うと、マジトーンで疑問を口にする。
「私、そんなにズレてる?普通じゃない?」
「自分でわかってない時点でアウトなんだよ」
そう言って、普段とは逆のやり取りをするのだった。
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