神正世界戦争:獣王国vs正共和国

 正共和国と獣王国の間に挟まれたとある国の国境部では、お互いの軍が展開していた。


 獣王国軍総勢125万。正共和国軍総勢100万の軍勢が睨み合う国境部には、気を抜けない緊張感が漂っている。


 いつ始まってもおかしくないその戦場で、獣王国の王たる“獣神”ザリウスは呑気に欠伸を噛み締めていた。


 「ふぁ。なぁ何時になったら始まるんだ?」

 「さぁ?アタシに聞くなよ。この場じゃアタシもアンタも一兵士だからな。こういうのは作戦立てるのが好きな奴に任せてるだろ?」

 「それはそうだが、こうも睨み合いが続くと退屈だぞ」


 到底、国王相手に話す態度では無い態度で受け答えをするのは、獣王国でも数少ない役職に着いている人間だ。


 金髪と赤髪の混じったボブヘアーと、不機嫌なのかと勘違いするほど悪い目付き。


 180近くある身長は人間の女性にしてはかなり高く、全世界の女性が羨むほどのスタイルだ。


 しかし、そのスタイルを隠すかのように着ている魔導師の服が全てを台無しにしている。


 高い物理防御と魔法防御を兼ね備えたローブが全身を隠しているため、見えているのはその顔だけだった。


 「お前の魔法で全部吹きとばせれないのか?ほら“聖魔”とやらはなんかこう、凄い魔法が打てるらしいじゃないか。“暗黒の魔導師”と呼ばれてるドルネスならなんかできないのか?」

 「お前、魔法をなんだと思っているんだ。それと、要求がアバウトすぎる。もう少し具体的に言え馬鹿が」


 ドルネスと呼ばれた女魔道士は獣王を睨みつけると、獣王はケラケラ笑いながら再び大きな欠伸をする。


 こうして戦争をしかけたのはいいものの、お互いに動かないとなれば獣王の出番はない。


 暇が嫌いな彼は、欠伸が絶えなかった。


 そんな様子を見たドルネスは、獣王の頭を軽く叩く。


 「イテッ。何するんだよ」

 「欠伸ぐらい我慢しろ。味方の士気に関わる」

 「いいだろ別に。俺の仕事は前線で暴れることなんだから。それ以外の事は知らんよ。それに、ここには俺とお前しかいないんだ。欠伸の1つや2つしたところで下がる士気もクソもないだろ?」

 「いや、アタシの士気が下がるから言っているんだが?私も兵士なんだぞ。ちょとは気遣え」

 「いや、俺も兵士だから。士気を気にするのは指揮官の話だろ?」

 「お前は国王だろ」

 「さっき俺の事を兵士扱いしたのをお忘れで?」

 「揚げ足を取るんじゃねぇよ。そんなんだから怠惰の魔王とやらに負けるんだよ」


 “怠惰の魔王”


 その単語が出ると、獣王は苦虫を噛み潰したような顔になる。


 相性が悪すぎたとは言え、何も出来ずに負けてしまったことは事実。


 下手をすれば国家が滅んでいたと考えれば、彼は王としての責務を果たせなかったということになる。


 「お前がいれば、多少は違ったかもしれんがな........」

 「お?苦し紛れの言い訳か?見苦しいな。アタシがいようといまいと、お前の負けは変わらんかっただろうに。まぁ、話を聞く限りアタシだけでも勝てる気はしないが........そういえば魔王を凍らせた主は分かったか?」


 ドルネスの質問に獣王は首を横に振る。


 魔王と戦った一件以降、魔王を倒した人物を探したものの見つけることは出来なかった。


 宰相達は獣王国に引き込めないかと模索しているようだが、ザリウス個人としては単純にお礼を言いたい。


 国を、自分達を守ってくれた姿すら見えぬその主に“ありがとう”の一言を言いたかった。


 その主が人の姿をした厄災級魔物だとは、夢にも思っていないだろうが。


 獣王の反応を見たドルネスは、ちいさくため息を着く。


 「お前でも勝てない相手を一瞬にして氷漬けにできる魔導師又は能力者か。世界は広いな」

 「全くだ。俺はまだまだだと思い知らされたね。魔導部隊の総隊長でも無理か?」

 「実際に見てないからなんとも。とは言え、無理だとは思うがね。厄災級魔物レベルの化け物を相手に勝てるか?と言われたら答えはNoだ」

 「そうか。あの場にいても、勝てるかどうか怪しかった訳だな」


 獣王はそう言うと、座っていた椅子からゆっくりと立ち上がる。


 彼の本能が告げていた。“もうすぐ戦争が始まる”と。


 天幕を出る直前、獣王は立ち止まるとドルネスに話しかける。


 「それにしても良かったのか?」

 「何が?」

 「人間は同族だろう?殺してしまっても良かったのかと聞いている」

 「はん!!あんな連中を同族として扱って欲しくはないね!!人間ってのは獣人ように仲間意識が強いわけじゃないんだ。それに、獣人だって同族を殺しているだろう?“災厄の子”をな」

 「白色の獣人か。俺としては迫害を辞めさせてやりたいんだが........こればかりは民意が絡むからな。いくら俺が慕われていようと、長き歴史には敵わん。白色の獣人も獣人だろうに」

 「過去に何があったのかすらも、分からない。不自然に消えた歴史。白色の獣人に、何があったのかねぇ?」

 「さぁな。とは言え、少しづつだか動いている。俺が死ぬ前には闇奴隷も解放できるだろうさ」


 獣王はそう言うと、胸を張って天幕を出た。


 二人だけならばだらけきっても問題ないが、天幕を出れば何万という数の兵士達に見られることになる。


 王は王たる威厳を見せなければならないのだ。


 先程とは打って変わって、王としての覇気を纏う獣王を見てドルネスは小さく呟いた。


 「カッコイイねぇ。アタシはそんなところに惚れたんだよ」


 僅かに見せた乙女の顔は誰にも見られる事は無く、その呟きも誰の耳にも入らない。


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 正共和国側の陣営では、“聖盾”が今にも死にそうな顔をしていた。


 「つい先日まで4人の灰輝級ミスリル冒険者を食い止めていたと思ったら、今度は獣王か。さすがに疲れるな........」

 「申し訳ありません。“聖盾”様........」

 「いや、貴殿が謝ることじゃない。それに、肉体的には疲れていないからな」


 申し訳なさそうに頭を下げたメイドに、聖盾は軽く手を振って頭をあげさせる。


 彼女は聖盾のご機嫌をとるために派遣されたメイドだったのだが、聖盾は手を出すことは無かった。


 そんな事に使う体力もなければ精神力もないと言うのが理由だが、メイドから見れば手を出してこない事に越したことはない。


 政治戦争に負けたメイドの令嬢は、最初こそ怯えていたものの優しく接してくれる聖盾を好意的に見ていた。


 今では玉の輿を狙うほどである。逞しいにも程があった。


 聖盾も薄々それに気づいているため、その手には乗らない。昔、それで痛い目にあったのを、聖盾はよく覚えている。


 「さて、行きますか」


 戦場の空気が変わったことを察知した聖盾は、メイドから逃げるように天幕を出るのだった。


 獣王国vs正共和国。


 11大国に名を連ねる国同士の戦争が今始まる。

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