神正世界戦争:炎帝vs神突①
時は戻り現在。
押され気味だったジャバル連合国側の戦線をたった1人で押し上げたエドストルは、その後も手を抜くこと無く敵兵を斬り殺していく。
数多の達人達の業を吸収し、最も効率が良く応用の効く剣術“自己像幻視流”を扱うエドストルの剣は、時として蝶のように舞い時として蜂のように刺す。
ゆらりと脱力した剣から繰り出される斬撃は、敵兵をいとも容易く斬り裂いてはその地を赤く染めあげた。
さらに、自分だけが活躍するのではない。
自陣の異能を使い、敵兵だけの平衡感覚を奪って味方にも戦果をあげさせる。
最初こそ困惑していた味方だったが、次第にエドストルについて行けば大丈夫という共通意識が生まれつつあった。
何もせずとも倒れゆく敵兵と、のらりくらりとした剣術からエドストルはジャバル連合国の兵士達からこう呼ばれるようになる。
“幻魔剣”と。
幻を見せ、幻のように剣を振るうその姿はその名にふさわしい活躍を見せ続けた。
「助かります。“幻魔剣”さんのおかげで、随分と楽になりましたよ」
「“幻魔剣”?あぁ、もしかして私のことですか。いえいえ。私は仕事できているのでね。この戦争に勝つのが仕事ならば、それを遂行するだけですよ」
ジャバル連合国第五歩兵隊を率いる隊長ガゼットは、顔も見えないその傭兵に感謝を告げた。
彼が抑える戦線だったこの場所は、エドストルの活躍によりかなり敵陣へと食い込めている。
誘い込まれて包囲の可能性も考えてはいたものの、味方の進軍を見るに罠という様子でもなかった。
敵兵が大分減り、戦闘が落ち着いてきた所で今回1番の功労者であるエドストルに声を掛ける。
味方をしてくれた傭兵ではあるが、その肩に背負った傭兵団の印は見たことが無いものだった。アゼル共和国や神聖皇国では知られているものの、国を超えれば対して知られていない。それが今の
「私はジャバル連合国第五歩兵隊隊長ガゼットであります。失礼ですが、所属する傭兵団とお名前をお聞きしても?」
「エドストルです。
エドストルは、自分の所属する傭兵団の宣伝ができる事が嬉しいのか、少し弾んだ声でその肩のエンブレムを見せつける。
白い逆ケルト十字が刻まれたローブは、エドストルにとって何者にも変え難い重みがあるのだ。
それと、自分にも二つ名らしきものが付いていてテンションが上がっていたりもする。エドストルとて男だ。二つ名の一つや二つ、憧れるのも無理は無い。
「
「団長さんは来ていませんよ。あの人、物凄く忙しい方ですし。一応、団長代理みたいな人はいますが、ここにはいませんね」
あっけからんと告げるその言葉に、ガゼットは返す言葉も見つからない。
いくら忙しいからと言っても、傭兵の仕事はそもそも戦争屋だ。
その戦争にすら参加しないとはどう言う了見なのか。思わず“そんな馬鹿な”と口に出してしまったが、幸いにもエドストルの耳には届かなかった。
ガゼットは、普通の傭兵団とは少し違う雰囲気を纏った傭兵に作り笑顔を浮かべる。
「そ、その代理に挨拶をする事は可能性ですかね?」
「多分出来ると思いますよ。あの人が1番この場に来たいでしょうし──────────ね!!」
エドストルは、突如として剣を振るう。
ガゼットは何事かと1歩後ろへと下がったが、直ぐに剣を振るった理由が判明した。
金色の髪は逆立ち、虎の様に鋭い目は正に絶対的捕食者。
手に持った槍は2m近くもあり、バチバチと雷を纏っている。
つい先程までその場にはいなかった敵兵を見たガゼットは、小さくその名を呼んだ。
「“神突”デイズ........
エドストルは“こいつがそうか”とつまらなさそうに神突を眺める。
“世界戦争の傭兵”と聞いて、どれ程の者かと期待していたが、自分達の団長には数段劣っているのがよくわかる。
戦闘時に発せられる圧が違いすぎるのだ。死を錯覚する程の圧と、そよ風に吹かれる程度の圧では、比べるまでもない。
自分の団長ならば、今の一撃で殺されていたなとエドストルは思いつつその剣をだらりと下ろして戦闘体勢に入った。
「よぉ。随分と俺様の部下が世話になったようだな?俺様の接近に気づいて剣を振るったのは流石だが、当たってないぜ?」
「貴方こそ、私の攻撃を避けるので精一杯だったようですね。その槍、私に届いていませんよ?」
エドストルはガゼットを庇うような位置に立つと、“さっさとどこか行け”と指で指示を出す。
隊長を任されるほどの男であるガゼットは、この場は“幻魔剣”がなんとかしてくれるはずだと信じて、味方の兵士と一緒に後退した。
煽りに煽りを返された神突は、コメカミに青筋を浮かべながらエドストルを睨みつける。
「言っくれるじゃねぇか。楽には殺さねぇぞ」
「この程度の掛け合いでキレるとか、子供ですか貴方は。それに、相手するのは私じゃありませんよ」
「あん?何を言って──────────」
神突はそこまで言うと、何かを感じとって素早くその場から後ろに飛び退いた。
直後、神突が立っていた場所には炎が襲いかかる。
ゴゥ!!と熱波を撒き散らす炎の中から現れたのは、同じく仮面とローブを被った傭兵だ。
原初の一端を操る上位精霊を従えたダークエルフは、その場に現れるとエドストルに指示を出した。
「エドストル、私がやるから手を出すな」
「わかってますよ。私は周りが邪魔してこないように掃除しておきますから」
「........それも要らない」
「我儘ですね。ですが、掃除はしますよ?貴方に死なれても困りますからね。団長さんの言ったこと覚えてます?」
「................大丈夫」
「覚えてないでしょ。全く。五体満足で帰って来いですよ。尻拭いはしてくれるんですから、そこまで気張らないでくださいリーダー」
エドストルはそれだけを言うと、周りで見ていた敵兵に襲いかかった。
もちろん、隙だらけの行動を神突が見逃すはずもない。
「やらせるかァ!!」
「お前の相手は私」
エドストルに襲いかかろうと槍を構えたその瞬間、シルフォードはエドストルと神突の間に割って入り、槍を拳でたたき落とす。
あまりの速さに一瞬反応が遅れた神突は、驚きつつも素早く距離を取った。
「やるじゃねぇか。先ずはお前から殺してやるよ」
「今の攻撃にすら反応が遅れるのか。モーズグズさんでも当たり前のように反応してくるのに」
シルフォードは少しガッカリしつつも、気合いを入れ直す。
弱い分には問題ないのだ。あとは、その首を持ち帰るだけである。
「あ?何をブツブツ言ってんだ?」
「お前は弱いって言ってただけ。気にしなくていい」
「あ"ぁ?言ってくれるじゃねぇか。その身体に風穴ができても文句言うんじゃねぇぞ!!」
吼える神突に対し、シルフォードは掌を上に向けて手招きする。
自分を格下に見られた神突は、先程よりもさらに青筋を浮かべるた。
「殺す!!」
「かかってこい三下。
こうして後の“炎帝”と“神突”の戦いが始まった。
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