神正世界戦争:それぞれの反応

 時は少し遡り、シルフォードが精霊の炎を顕現させた頃。


 赤腕の盾レッドブクーリエ三番隊副隊長である“堅実”アッガスは、その太陽の如く眩い炎を見て目を細めていた。


 目を焼く程の光を放つ精霊の炎。思わず目を瞑ってしまいそうにもなるが、アッガスは何故かこの光景は見ておかなければならないと思っていた。


 伝説の目撃者となるからなのか、仁の部下の本気を見られるからなのか。アッガスにその理由が分かる事は無い。ただ、何となく見ておかなければ後悔すると感じた。それだけの話だ。


 「眩しいし、熱い。隊長、大丈夫か?」

 「問題ない。が、眩しいし熱いな。私の牢では熱は防げない。大人しく焼かれているとしよう」


 三番隊隊長であるブラームドも、アッガスと同じように目を細めながら轟々をうねりを上げる太陽を見つめる。


 彼も、アッガスと同じようにその光景を目に焼き付けようとしていた。


 「炎を使ってるのを見るに、アレはシルフォードさんだな。俺達を相手にしていた時は本気じゃなかったのは知っているが、こんなに凄い魔法を放てるとは思ってもみなかった」

 「そのようだ。本気の魔法がここまでとはな。赤腕の盾にはこれほどの魔法を放てるものは居らんぞ」

 「いや、いたら困るよ。どう見ても団長より強ぇんだもん。それに、味方を巻き込みかねないのは前線で戦うヤツらにとって心臓に悪い」

 「私達は守る事に特化した部隊だからな。後衛が強ければ強いほど安心できるが、前衛は味方からの攻撃にも気をつけないといけないのか」

 「まぁ、シルフォードさんレベルの使い手ならそんなヘマはしないだろうけど」


 大地を照らす二つ目の太陽は、ゆっくりと地に落ちる。地面を軽く溶かし、敵兵の骨すらも焼き尽くす業火は戦線に穴を開けた。


 その直後、敵兵の中に突っ込む影が4つ。


 ねっぱの余韻に浸る間もなく、敵兵たちは蹂躙され始めた。


 「アレは........ラナーさんとトリスさんか?凄いな。敵兵が玩具みたいに壊れていくぞ」

 「多分そうだな。それにしても、強すぎる。訓練の時は、本当に手を抜いて戦ってくれたのだな」

 「しかも、相当手を抜いてけれたみたいだ。本気で殺しに来られたら、俺たちは今頃あの世でこの光景を眺めることになっていたぞ」

 「つくづく味方でよかったと思うな。狂戦士達バーサーカーが敵にいたとしても、私は彼女達を敵に回したくは無い」

 「実力を知っていると尚更だな。一人一人が灰輝級ミスリル冒険者レベルの強さを持った傭兵団とか死んでもやり合いたくないね」


 アッガスはそう言うと、今この場には居ない三人の顔を思い浮かべる。


 彼らが本気で戦っているところをアッガスは見たことがない。


 他の団員とは格が違うティール(ストリゴイ)やラーグ(スンダル)ですら敵わないと称される、彼らの長の力はどれ程のものなのか。


 「見てみたいなぁ。出来れば自分は安全な位置から」


 アッガスはそう呟くと、自分の持ち場を守ることに専念するのだった。


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 時を同じくして、精霊の炎が顕現した頃。


 援軍として来ていた聖堂騎士団第四団長エルドリーシスと、その部下である聖騎士達は驚きを隠せなかった。


 「アレは精霊魔法?!」

 「エルフの国の者か?」

 「いや違う。配置絡みて、あそこはアゼル共和国の陣地だ。という事は、アゼル共和国に精霊魔法の使い手がいるという事になるな」


 エルフにとって、精霊とは神にも等しい存在である。


 女神イージスを信仰していたとしても、それと同列に扱われる程、精霊という存在はエルフにとって重要なものだった。


 そして、その精霊の力を借りて魔法を行使する魔導師には敬意を払う。


 エルドリーシスは、そんな神聖なる精霊魔法を扱う人材がアゼル共和国にいることに驚きつつも冷静に近くで目を瞑る聖騎士に話しかけた。


 「誰が精霊魔法を使っているか分かるか?」

 「ちょっと待ってください。発している魔力が凄まじ過ぎて時間がかかるので」


 目を瞑っている聖騎士は、己の異能を使って精霊魔法を行使している者の姿を捉えんとする。


 自身の感知範囲ならば、対象者の姿を捉えることが出来るその異能は普段辛使われており、かなりの練度に達しているのだが、それでもシルフォードの放つ魔力によって妨害を受けていた。


 太陽がゆっくりと落ち始めた頃、ようやくその姿を捉えることに成功する。


 「見えました!!」

 「どんな格好をしている?エルフか?」

 「ローブと仮面を被っているため、エルフかどうかは分かりません........特徴的なのだと、丸に逆さ十字が描かれて──────────私、この模様知っています」

 「何?」


 急に言葉を切り、ありえないと言った顔をする聖騎士の反応を見て、エルドリーシスは眉を顰める。


 アゼル共和国に知っている模様を背負った者が居るのかと。


 そして、聖騎士の次の言葉でエルドリーシスも思わず叫んだ。


 「揺レ動ク者グングニルです!!私の甥がグッズを持っていたので間違いありません!!揺レ動ク者グングニルのマークを肩にしています!!」

 「何だと?!」


 かつて暴食の魔王が復活した際に、市民を救って回った影の英雄。


 その人気は凄まじく、未だに人気が衰えることは無い。


 エルドリーシスも友人が助けられているから知っていて当然だ。


 不穏な動きが多く、謎に包まれている事が多かったのでエルドリーシスは自ら色々と調べたものの、結局詳しいことは何も分からなかった。


 「まさかこんな所で出会うとはな。揺レ動ク者グングニル。話を聞きに行きたいのは山々だが、後にしよう。今は仕事を遂行するぞ」

 「団長。サイン下さいって言ったら貰えますかね?甥にあげたら喜ぶと思うんですよ」

 「貰えるんじゃないか?実際に書いてもらった子供も多くいるようだし」


 なんなら自分も貰っておいてもいいかもしれないと、意外と子供らしい事を思うエルドリーシスであった。


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 遠くから戦場を眺めていた魔女は、荒れに荒れていた。


 隣にいた悪魔でさえその荒れ様に困惑し、とりあえず落ち着くようにと促すのが精一杯であった。


 「馬鹿な!!何故あの者が原初の炎の一端を持っている?!継承するのは契約違反だろうがァ!!それに、何故は動いていない!!アレは精霊だろ?!ならば気づかないはずがないのに!!」

 「お、落ち着け魔女。何が原因で荒れているのかは知らんが、あまりはしゃぎすぎると気取られるぞ」

 「うるさい黙れ!!そんな事は分かっている!!」


 魔女はそう言うが、全くと言っていい程落ち着きを取り戻せてはいない。


 彼女の口からは、次々と言葉が溢れ出ていた。


 「巫山戯るなよ!!これで計画が狂ったらどうしてくれる?!神から目をつけりるのは仕方がないが、にすら目をつけられるのは不味い!!なんとかしなければ........祈るか?私が?!バカを言え!!」

 「お、おい。魔女?人の話は聞いておるか?」

 「クソッタレが!!あの野郎、何も考えずにやったな?!過去にも何度かやらかしたが、今回は私達にまで被害が及ぶぞ!!あちらの契約は破る訳には行かないんだ!!接触が難しくなるのはどうするんだよ!!」


 魔女はそう言うと、今まで見たこともない怒れる顔で悪魔を見た。


 「帰るぞ!!」

 「え?見なくて良いのか?」

 「それどころじゃないんだよ!!いいからさっさと着いてこい!!」


 魔女はそれだけを言うと、風に乗って消えていく。


 悪魔は訳も分からずにそれについて行くのだった。

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