神正世界戦争:滅びを呼ぶは原初の炎

 同刻。大エルフ国とドワーフ連合国の間にあるアガナタス教会国では、戦争の狼煙が上がるのを今か今かと待ち望んでいた。


 ドワーフ連合国と近いこの国では、隣国にドワーフの王国がある。ドワーフ連合国から離反したドワーフ達が新たに作った王国で、元は鍛冶師だった一般のドワーフが王となり作った国だ。


 ドワーフにしか作れない様々な武具を売って国を回しているこの国は、最新の武器や防具が揃っている。


 正教会国側のイージス教を信仰するアガナタス教会国とはとても仲が悪く、一触即発とまでは行かずとも国交などほとんどせず、対話手段が国境部で軍の挑発をすると言えば仲の悪さが伺えるだろう。


 そんなアガナタス教会国は、正連邦国がドワーフ連合国に攻め込むと言う情報を手に入れ、正連邦国が動くと同時にドワーフ王国に攻め込もうと考えた。


 かつてはドワーフ連合国から離反した者たちが集った国だったが、時間が経てば恨みは消える。先祖の犯した罪など気にせず、ドワーフ連合国との国交を回復したドワーフ王国は、連合国との取引で国力を大きく伸ばしていた。


 ドワーフ連合国との国交が戦争により途絶えれば、容易くドワーフ王国を攻め落とせると考えたアガナタス教会国はその時をじっと待つのだ。


 そこに原初の厄災が降りてきているとも知らずに。


 「ふーむ。我も暴れようとは思うが、やりすぎるのは不味いしなぁ」


 アガナタス教会国の空を飛ぶ厄災“原初の竜”ファフニールは、地上を眺めながらどうしたものかと首を捻る。


 かつて創世記と呼ばれる、世界が創造され神々の戦争が起こったその時を経験している竜は矮小なる人間達をどう始末するか頭を悩ませた。


 「最初は我の炎で全てを焼きつくそうかと考えたが........よくよく考えるとあ奴らが出張って来るだろうしなぁ。人を殺すのはともかく、世界の一部とはいえ我が自然の均衡を崩すのはあまり良くないか」


 原初は全ての始まり。世界の形作る根源の力。その1つを有し行使するという事は、世界に自分の存在を知らせることになる。


 別にそれは構わない。同じ“原初”を持つ者達に存在が知られようと、元々見知った顔しかいないのだから。


 しかし、世界の均衡を原初自らの手で壊すとなれば別だ。


 ファフニールは長い事あの島にいたせいですっかり頭から抜け落ちていたが、原初が自然を壊すことは許されない。


 もちろん、時と場合によるので絶対的な制限では無いのだが、今回の場合はおそらくアウトになるだろう。


 他の厄災級魔物達とは違い、あまり好き勝手は出来ない。


 国1つ程度ならばおそらく大丈夫だとは思うが、念には念を入れて置いた方が確実だった。


 「他の“原初”ならばともかく、“万物”と“未来視”が出張ってくるのは面倒だ。全く。昔の話すぎて忘れておったわい。何千万年も前に結ばれた契約の記憶なぞ覚えているわけがなかろうに。それこそ、団長殿や副団長殿ぐらいイカれた存在でなければ記憶に焼きつかん........思い出せず問題が起これば最悪殺されかねんからな。主に副団長殿に」


 ファフニールはそう呟くと当初立てていた計画は全て破棄し、力技で全てを終わらせに行く。


 原初たる存在に課せられている契約はあくまで世界の均衡をいたずらに破壊しないことであり、生命体はその限りではない。


 むしろ、進んで世界の自然の均衡を破壊する人種は殺せば殺すほど喜ばれるだろう。


 「ふむ。生体の探知は問題なし。ならば、原初の力に後は頼るとしよう。これで我の存在があ奴らにも知れ渡るだろうな。2体はともかく、相性の悪いあの頭でっかちには会いたくないものだ。性格的にも能力相性的にも悪い。だから顔は出さんかったが........向こうから来るだろうな。よし、これが終わったらしばらく拠点に籠ってよう。団長殿達の生活を見ているのも楽しいし、それで暇を潰すとするか」


 ファフニールはそう結論づけると、翼を大きく広げて原初の力を使用する。


 他の厄災級魔物とは桁の違う魔力が渦巻き、あまりの魔力の量に空間が歪むほどだった。


 「では行こう。始まりに終われ“原初ノ炎オリジン・フレイム”」


 戦争を待ち侘びる人間達に、原初たる炎は舞い降りる。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 始まりは唐突だった。


 街中で普通に過ごす主婦や、国境部に展開する兵士達。神に祈りを捧げる聖職者や棒を振り回して英雄ごっこをする子供、人間にこき使われる奴隷まで。


 アガナタス教会国に住む全ての人種は、突如として原初の炎に包まれた。


 「な、なんだ!!身体が燃えているぞ!!」

 「熱っ────────くない?」

 「なんだこれ。まったく熱くないぞ?」

 「なんか燃えてるー!!」


 原初の炎に包まれた人々は、自分の体を燃やす炎に驚いたものの熱さを感じずに首を傾げる。


 服も髪も燃えず、炎でありながら炎では先ず起こりえない現象を目の当たりにしてどうしたらいいか分からなくなっていた。


 「とりあえず水をかけてみるか」

 「消えないな。水で消えない炎なんて無いから、これは炎じゃないのか?」

 「わっかんね。なんだこれホントに」


 水をかけても一向に消える気配のない炎。理の全てを操る原初の炎は、同じく理の全てを操る水でなければ消すことは出来ない。


 もちろん、そんなことを知る由もない人々は更に首を傾げるのみだ。


 熱くもなく、痛みを伴わない炎に包まれた人々は何が何だか分からずに混乱するだけだった。


 しかし、数分後。原初の炎は牙を剥く。


 初めは幼い子供だった。


 急に生気を失ったかのようにパタリと倒れ込むと、そのまま動くことなく死に至る。


 周囲で見ていた大人たちは、急いで子供達に駆け寄ると子供は冷たい死体となっていた。


 「な、何が起きているんだ?」

 「お、おい見ろ!!子供たちが灰になっていくぞ!!」


 冷たくなった子供達。しかし、炎は消えることなく子供達を燃やし、最終的にはその体を燃料として燃え続ける。


 燃料は灰と化し、数十秒もあれば完全な灰となって風と共に消えていった。


 幾ら鈍くても、これの原因が自分たちを燃やす炎だと言うことは分かる。


 大人達は慌てて炎を消そうと水を被るが、全ての始まりである炎は消えることなく燃え続け、遂にはその生命を燃やし尽くす。


 1人、また1人と倒れていくその光景を見た人々はさらに怯え、遂には恐怖によって感情を支配され狂い始めた。


 ある者は水の中に飛び込み、ある者は土の中に入って炎を消そうとする。また、ある者は神へ祈りを捧げ、ある者は自分の死や悟りこの少ない時間でやりたいことをやり始めた。


 阿鼻叫喚とも言えるその光景は全ての人種が灰と化すまで続き、最終的には全てが土へと還る。


 その日、人知れずアガナタス教会国は滅んだのだった。


 “私は驚いた。少し他国へと遠出をして戻ってきたら、誰一人としてその場にはいなかったのだから。数ヶ月前には賑わっていた街も人1人もおらず、どこを見ても何があったのか分からない。街並みは綺麗なもので、全ての人々が神隠しにでもあったのかと思った程だ。よく使っていた酒場にも人はいなかったが、彼らが食べていたであろう料理がまだ残っていた。料理が腐っていないのを見るに、おそらく神隠しがあったのは昨日今日の話だと思う。私は運が良かったのだ。その後、色々と調べたものの、何も分からずじまいだったことは言うまでもない。だって、神が行った所業なのだから”──────────神正世界戦争“神隠しにあった国”





 ファフニールは存在そのものがネタバレなので解説は無しです。もっと色々とわかってから解説します。........ネタバレの宝庫め!!

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