神正世界戦争:その地に奏でるは三重奏
とある国が毒殺された頃。三体の厄災はザルザテス連邦国に降り立った。
ザルザテス連邦国は、獣王国と神聖皇国の間に位置する正教会国側のイージス教を国境とした国であり、大陸に存在する正教会国側の国としてはかなり神聖皇国に近い。
あまりに遠すぎるため正教会国とその同盟国からの支援は期待できず、神聖皇国側の国が多くあるこの地では正に孤軍奮闘といった戦争が繰り広げられていた。
しかし、その日はあまりにも静かで、嵐の前の静けさを予感させる不気味さが漂う。
昨日あれ程攻め込んできた敵兵は波が引いたかのように撤退し、勝ってもいないのに自分達が勝利したかのような錯覚にすら陥る。
実際、下っ端の兵士達は自分達が勝ったのだと勝利に酔いしれ、指揮官達も態々士気を下げるような真似をする事はしないので黙って見守る。できる指揮官は、何かあるのではないかと疑って部下を使い偵察に行かせたりもしていたが、ザルザテス連邦国の殆どは自分達が勝ったのだとその剣を高らかに掲げた。
これが滅びの時だとは知らずに。
そんな高らかに剣を掲げる人々がいる中、三体の厄災“神狼”フェンリルと“月狼”マーナガルム、“地獄の番犬”ケルベロスは自分達のやるべき事を再確認していた。
「グルゥ。グ、グルァ」
「ガルッ」
「グルゥ、グルッグルゥァ」
「ゴルゥ」
三体のまとめ役であるケルベロスは、問題児であるフェンリルとマーナガルムに最終確認を取ると、2体は自分の配置に着くため動き出す。
しばらくして、配置に着いたであろう時間になった。
ケルベロスはかつて、スンダルとスコリゴイが国王をやっていた吸血鬼の国であるヴァンア王国を滅ぼした時のように天高く高らかに吼える。
「「「グルゥァァァァァァァァァァァァァ!!」」」
厄災の咆哮。
以前は使わなかったケルベロス本来の異能を発現させ、予め配置しておいた地点に“地獄門”を形成する。
ザルザテス連邦国の国教は突如として地獄の炎によって遮られ、炎の壁は徐々に狭まっていく。
“
それがケルベロスの扱う異能の名だ。
地獄門を形成すると共に、その地獄のチカラを現世に引き出す能力である。
異界である地獄の力はこの世界の理とは別の断りで動いており、この世界の枠組みで見れば理を逸脱した異能だ。
そんな異能から引き出された炎は、水などという物で消えることは無い。
国境部に突如として現れた炎を消そうと動き出した魔導師や魔法系異能者が必死に水をかけるも、消える気配は全くと言っていいほど無かった。
混乱の渦に飲まれる前線だったが、後方の都市部ではさらなる混乱が生み出されている。太陽は失墜し闇に覆われ、荒れ狂う嵐が襲うからだ。
ケルベロスは、その二つ名に恥じない番犬として静かに門を守るのだった。
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“失墜ノ太陽”と呼ばれる災害は、かつてそれを経験し運良く生きのびた御仁によってこう書かれている。
“あの日、太陽は消え去った。太陽が無い暗闇だけが残り、我々は太陽を失ったのだ。運良く生き延びた私だが、未だに太陽を見ることが出来ない”と。
暗黒に包まれた国の半分、誰もが太陽を失い、暗黒の世界だけが広がった。
「ゴルゥ、ゴルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
混乱する人々や動物達。挙句の果てには、魔物すらも混乱し、見えない太陽を探し始める。
太陽と言う人が生きていく上で欠かせない物を奪われた者たちは、不安に駆られしだいに精神的に不安定になり始めた。
闇は人の不安を煽り、ありもしない幻覚を見始める。
“
太陽と言う光を無くしたものは、その魂を汚染されて最終的には死に至る。
侵食された魂が戻ることはなく、失った太陽はマーナガルムの許可なしでは決して戻らない。
暖かな光に触れることも出来なければ、太陽の光によって輝く月や自ら光り輝く星すらも見ることは無い。
光という光が失われているにもかかわらず、なぜが光以外を見ることは出来てしまう。
その闇の奥に何を見たのかは、本人にしか分からず誰であろうと発狂するものであった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あぴっほぇっかなかざさがたがば!!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
その光景は、ケルベロスが顕現させた地獄以上の地獄絵図。
人々が精神的に崩れていき、あるものは泡を吹いて倒れ、あるものは自分の喉を掻き毟り血を滲ませる。酷いものだと、自分の指をへし折りながら笑い続ける者や、頭を地面に打ち付け血を流す者まで。
精神を崩された者たちの顔は廃人と言っても過言ではなく、人だけではなく魔物や動物ですらも精神が狂って自傷行為をし始める者が続出した。
「ゴルゥ、ゴルゥ........」
その様子を見ていたマーナガルムはと言うと、自分が仁にどうやって褒めてもらおうかと言うことしか考えていなかった。
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風と言うのは、人々に様々な恩恵をもたらす。
しかし、それも行き過ぎれば災害となった。
荒れ狂う暴風は地面を抉り巻き上げ、周囲にある木すらもその根っこごと持ち上げてしまう。
そんな暴風の中では石造りの城壁などあってないようなものであり、軽々と吹き飛ばしては人々を巻き込んで空へと飛ばす。
コレだけならば運のいい人は助かっただろう。巻き上げられた風の嵐から運よくすり抜け、ふかふかの土の上などに落ちれば骨の1.2本程度で済んだかもしれない。
空を飛べる手段があるのであれば、逃げ出せただろう。
しかし、フェンリルとてそこまだ甘くは無かった。
暴風の中には斬撃と化した風が無数に存在し、その斬撃が嵐に飲み込まれた者たち全てを切り裂いていく。
どれだけ固くとも、風の斬撃はその物を容易く切り裂き、細かいミンチへと変わっていった。
「ガルゥ、ガァァァァァァァァァァ!!」
テンションが上がってきたフェンリルは、更に強大な嵐を作り出し、遂には局地的な台風を創り出す。
それにより周辺の気候も狂い始め、隣国では降らないはずの雪まで降り始める始末だ。
局地的台風は、人間達の逃げ場を無くすように拡大し、風の斬撃だけではなく魔力を纏った雨の弾丸が人を大地を撃ち抜いた。
“
ありとあらゆる風を操り時として天候すらも変えるその能力は、この国の全てを更地にし、全てを生まれ変わらせる。
神の名を持った異能に、人が抗える道理なし。
それこそ、人の理を外れた逸脱者又は人の身を超えた超越者でなければその暴風に耐えることは出来なかった。
「ガルゥ〜」
暴風が吹き荒れる中、フェンリルは自分がどうやって花音に褒めてもらおうかという事しか考えていなかった。
そうして、この日ザルザテス連邦国は滅んだ。
“突如として現れたのは、炎の壁だ。徐々に狭まっていく炎の壁は、水をかけても消えることは無く、我々はただ見守ることしか出来なかった。空を見上げれば、暗雲が立ち込め、雷撃の音とともに雨がふきあれる。またその一方で、他国では暗黒に包まれたドーム状の何かが現れたそうだ。何が何だか分からなかったが、全てが収まって見に行くと、そこには何一っ残っておらず炎に焼かれた滅びの国だけが残っていた。指揮官曰く、あれは援軍だったそうだが、あれは援軍と言うよりも災害日だったと私は思う。”──────────神正世界戦争“炎に焼かれた滅びの国”
狼三体組の異能解説はまた今度。一体一体の活躍があった時にします。
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