神正世界戦争:死毒
同刻。獣人国と合衆国の間に位置するベリグースト教会国に一体の厄災が舞い降りた。
その名も、“死毒”ヨルムンガンド。
かつて大陸の一部を毒の海に沈め大陸そのものを腐らせた本人が今、再び大陸を腐らせにやってきた。
誰も見ていない森の奥にヨルムンガンドは降り立つと、素早く地面に潜る。
(こうして暴れるのは久々だなぁ。少し前に団長さん達と遊んだ時もあったけど、イスちゃんの世界を毒に犯すのは不味いから出力抑えてたし........)
土の中を進む中で、ぼんやりとヨルムンガンドはそんなことを考える。
以前自分が勝利した大乱闘で、ヨルムンガンドが全力を出せなかった。もちろん、他の厄災級魔物達も本気で暴れたら最後。イスの異能で創造された世界は滅茶苦茶になってしまっていただろう。
決して癒えない毒や、残り続ける星の数々。更には全てが帯電した地帯もあれば、氷の世界なのに、石像が立ち並ぶ場所もできてしまったはずだ。
大抵は仁の異能を行使すれば消し去ることができるだろうが、それで甚大な被害は免れない。
ちなみに、勝った後ウキウキでシルフォードに報告したら、彼女はものすごく褒めてくれた。
あまり褒められることがないヨルムンガンドにとって、仁やシルフォードのような素直に自分を恐れず褒めてくれる人という存在は大きい。だからこそ彼に従い、彼に恩を返すのだ。
そして、その甚大な被害を巻き起こすことが出来る厄災が、地上で暴れるとなれば人類は終焉を見ることになるだろう。
この国のように。
(えーと、他国へ毒を流すのはダメって言われてるから、周辺は拡散しない毒にしておかないとな。それと、毒の設定を内側にだけ広がるようにして........あぁ、空を飛ばれると面倒だから空気中に留まる毒も必要か。空気の操作で毒を無効化されないように、比重も重くして飛ばされにくくしなきゃ。あぁ、恐怖を与えるようにジワジワとやらないとね)
ヨルムンガンドは既に考えていた計画を始める前の準備段階に入る。
ヨルムンガンドの異能は強力ではあるものの、その能力を発動する際は細かく毒の種類や設定をしておかなければならなかった。
突発的戦闘であるならば、周囲の被害など無視して破壊力だけを求めた毒を使ったりするのだが、今回はそうもいかない。
しっかりと仁の要望に沿った毒を生成しなくてはならなかった。
しばらく土の中を進んだヨルムンガンドは、前準備が終わったとこを確認すると移動の際に仕込んだ異能を解放する。
(
膨大な魔力と共に、ベリグースト教会国は毒の海へと飲まれた。
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ベリグースト教会国は、その日も平和だった。
正教会国側のイージス教を国教とする国であり、大国である合衆国や獣人国とは仲が悪く隣国との関係もあまり良くなかったが、この戦争に関しては何一つ巻き込まれていない現状平和な国である。
豊かな土地と、国内だけで完結できる供給を賄えたこの国は外交をあまりすることなく独自の文化を作り上げていた。
戦争も無く、魔物も比較的弱いものばかり。その豊かな国土のおかげで食いっぱぐれる事も無く、スラムなどの治安の悪い場所も少ない。
多少平和ボケしたベリグースト教会国は、人間にとっては楽園にも近い国である。
人間にとってはと言うだけであり、不運にも奴隷として売られた獣人や亜人にとっては地獄をのような国だと言うことは言うまでもないが。
そんな人間にとっては平和な国の首都では、ある異変を捉えていた。
「何?魔物の大群が押し寄せてきているだと?」
「はい。スタンピードという程ではないんですが、明らかに多い数の魔物がこちらに来ています」
「冒険者達は?」
「既に動いています。今のところは的確に魔物を処理してくれてますね」
首都に構える教会の一部屋で、国を仕切る大司教はつまらなさそうにため息を着く。
国として纏まるため、この国では大司教が一番偉い者だとして崇められるように教育されている。
もちろん、上層部は教皇が1番偉く、大司教など掃いて捨てるほどいるのは知っているが、国王などがいないこの国では指導者としてこうする他ない。
そんな1番上の役職である彼は、押し寄せてくる魔物の大群の話などどうでもよかった。
国家存亡の危機ならばともかく、冒険者が対応できるのであれば報告を聞くまでもない。大司教は、それよりもやらねばならない仕事が多くあるのだ。
「冒険者で抑えられてるなら問題ないだろ。ほっとけ」
「し、しかし、逃げてきた村人などもおりまして、彼らが言うには“毒の波”が迫っていると........」
「何?毒の波だと?」
大司教が首を傾げたその時だった。
突如として息が詰まるような感覚に襲われると、肺が焼けるように熱くなる。
燃え盛る炎の中に放り込まれたとしても、もう少しマシなのではないかと錯覚するほどに焼ける肺。大司教は思わず椅子から転げ落ちて蹲った。
「────────っが、はっ」
大司教だけではない。報告に来ていた神父も膝を着いて蹲り、肺の辺りをなんとも引っ掻く。
次第にその焼ける熱さは全身に回り、毛は抜け落ちて肌が溶けていく。
何が起こったのか分からない。
突如として訪れた死神は、その姿を見せるまもなく彼らの命を摘み取ったのだ。
死毒。
死を告げる毒は、人々の恐怖をほんの僅かに煽って国を殺した。
“その日、この国にやってきた商人は慌てていた。なんでも、隣国であるベリグースト教会国が見渡す限り毒に犯されていたと言う。冒険者達は国の依頼によってベリグースト教会国を訪れたが、そこは正しく毒の海だった。俺は海を見た事は無いので、分からないが湖なら見た事がある。そこに大きい毒の湖があると言えば分かるだろうか。ともかく、地平線の彼方まで紫と黒が混ざったような毒が広がっいたのだ。何があったのか調査しようにも、調査のしょうがない。毒があまりに強力すぎて解毒は一切出来なかったからだ。空からの偵察をしようと試みるが、空気も毒に汚染されており、顔見知りの冒険者はその毒を吸い込んで死んだ。その後分かったことは、ベリグースト教会国はこの毒によって滅んだと推測されるぐらいであり、真相は未だに分かっていない。この“死毒湖”の毒は広がることは無いが、何時消えるのだろうか”──────────神正世界戦争“死毒湖、とある冒険者の日記”
能力解説
【
特殊系具現化型の異能。
ありとあらゆる毒を作りだり、それを操る能力。
創り出せる毒の種類は無限であり、その相手1人だけに効く毒すらも生成することが出来る。
更に、毒にあらゆる
毒は固形、液状、気体、挙句の果てには概念まで変形することが出来るため、極めればやりたい放題できる。
毒の使い方次第では薬にもなる。治癒薬にもなれるので、攻撃からサポートまでこなせる万能君。
欠点としては、膨大な知識がなければ毒の生成が出来ないこと。一応、知識がなくとも毒の生成はできるのだが、知識がある状態で作る毒とは明確な差が生まれてしまう。何万年と生きてきたヨルムンガンドだからこそ多種多様な毒を生み出せるが、寿命が百年程度しかない人間には扱い切れるものでは無い。使用主に応じて強さが変わる異能のいい例。
しかし知識さえあれば、たとえ相手が格上であっても的確に弱点をつける毒を生成できる点で言えば、異能の中でもかなり強い部類と言えるだろう。
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